第2話 入学式にフラグなんてない

高校に到着したあと、俺と綾瀬は校門前に張り出されたクラス割の紙を見て教室へ。一年生は教室が三階なので、教室に着くまでに少し距離がある。それにしても———


「まさか同じクラスになるとはな」

「あら、嬉しいのかしら?私としては全然そんなことないけど」

「誰も嬉しいなんて言ってないが?」


眉をヒクつかせながらそう答える。こいつ、もっと普通に喋れねーのか。

そんな他愛もない会話をしていると、教室に着いた。扉を開けると中にはすでにそこそこ人がいた。そしてみんな俺の隣にいる綾瀬に視線を向けている。まぁしょうがないことだ。綾瀬は誰もが認める美少女だからな。そんな綾瀬はクラスメイトの視線など見向きもせずに自分の席へと向かっていく。これもいつものことだ。綾瀬は他の人と比べてもあまり目立ちたがらないタイプだし、中学時代にもうそういう視線には慣れている。それに、綾瀬はそういう欲望にはかなり鋭い。だからガードは鬼硬いし、未だに俺以外の男子とまともに話しているところを見たことがない。あいつ、社会に出た時男とうまく離せんのか?俺が気にすることでは無いかもしれんが・・・


それからは特に何もなく、入学式も滞りなく終わった。え?クラスでの自己紹介?無難に名前と生年月日とその他好きな◯◯言って終わったが?ここはラブコメの舞台じゃない。よっぽどのことがない限りはみんな拍手して迎えてくれるし、クラスで浮くことなんて無い。綾瀬も無難な自己紹介をしていた。


まぁ要するに、わざわざ説明するほどのものは無いってこった。


そんなこんなで、今は学校からの帰り道だ。綾瀬はいない。今頃クラスの女子と親睦を深めているだろう。


春の陽気と咲き誇る桜にを横目に帰路につき、駅前まで来ると、目の前で何やら絡まれている少女が居た


「君可愛いね。どこの高校?」

「この制服近くにある志鳳高校じゃね?制服かわいいで有名なんだぜ」

「へー。まぁどうでもいいや。そんなことより俺らと一緒に遊ぼうぜ」


「いや、あの、えっと」


見ると、うちの高校の制服を着ていた少女が大学生くらいの男子二人にナンパされているようだ。てか、このご時世でナンパするやついるんだな。そこがびっくりだわ。


「すみません。私はこの後予定があるので」

「えーいいじゃん。ちょっとだけだからさぁ」

「本当になにもしないからさ、遊ぼうぜ」


あんまり穏やかな雰囲気じゃなさそうだな。なにもしないって言って本当に何もしなかったやつなんて見たことねぇよ。


まぁ、特に何もしないが。


俺はその現場の横を素通りしていく。当たり前だ。俺はすぐに喧嘩したがるような好戦的な性格じゃないし、ここで彼女を助けてフラグ建てようなんてお花畑な思考もそんな気概も持ち合わせていない。


ここはリアルなんだ。身内でもないのに進んで助けに行くようなやつがいるほどこの世の中は甘くない。


「っごめんなさい!失礼します!」

「あ、おい待てよ!」


どうやら彼女は逃げることを選択したようだ。ここは駅前だし、人の目は多いから、合理的な判断ではある。


「きゃっ」

「おっと」


ただ、彼女は怖くて目を瞑っていたらしい。運悪く俺とぶつかってしまった。流石にそんなことで倒れたりはしないが、流石にびっくりした。


「ご、ごめんなさい!・・・って、相川君?」

「え?・・・・っと、南さん?」

なんで俺の名前を?と一瞬思ったが、すぐにわかった。この人、俺と同じクラスの子だ。しかも俺の隣の席。俺は人の名前を覚えるのが苦手なので、例え誰が隣の人でも大抵は名前をすぐに思い出せない。俺が南さんを覚えていたのは、彼女が「学校一モテる」と噂されていたからだ。

簡単に言うと、入学式の時に新入生代表挨拶があって、その時にスピーチしていたのが南さんだった。鈴を転がしたような綺麗な声と、類稀な容姿から、入学早々狙っている人がいたり、すでに告白された、という話も聞いている。さらに、今年の首席合格者らしい。おまけに人当たりの良い優しい性格ときたら、そりゃモテるに決まっている。その後、HRで自己紹介をしていた時はびっくりしたし、隣の席だった時はもっとびっくりした。他の男子からの嫉妬の視線は気にしないことにした。


その時は大した会話もなく終わったのだが、今見てみるとえげつない容姿してんな。可愛すぎだろ。


ふわっとした黒のロングヘアーに目鼻立ちが整いすぎた容姿で、清楚な雰囲気を身に纏っている。豊満な胸、きゅっと引き締まったウエストとスタイルも完璧。天は二物を与えずとか言ったやつに文句を言いたくなるような美少女だ。二物どころか全部与えられてるじゃねーか。


「どうして相川君がここに?」

「いや、普通に帰宅してるだけですけど」

「そっか、ごめんねぶつかったりして」

「いや、全然だいじょ─────」


「やっと追いついたー。さぁ、こっち来て俺らと遊ぼうぜ」

「もう逃さねえからな?」


最悪のタイミングでさっきのナンパ男が来た。。てか、逃げられてんのに追いかけてきてまたナンパするとかメンタル強すぎだろ。そこだけは見習いたいわ。


「あれ?そっちの男誰」

「俺らが先に約束してたんだからな?分かったら大人しくそいつを渡せよ」


しかも俺に絡んできやがった。約束してないだろとかなんで俺に構ってくんだよとかそんな事が脳裏によぎったが、今はそんな事考えてる場合じゃないな。さて、どうしようか。

今日一で頭を回転させて導き出した答えは───


「すみません、僕達急いでるんで。行こう、南さん」

「え、ちょ」


知っての通り、逃亡一択である。当たり前だろ、俺は巻き込まれただけでヒーローなんかじゃない。今更立ち向かうなんてバカなことするか。これが一番現実的な対応だろ。


そうして、俺たちは駅構内に逃げ込み、なんとかナンパ男達から逃れることに成功したのだった。













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