28 制圧


「今度のバリア魔法は、迷彩効果で姿を隠せるし、なかなか良い出来ね」


 私の執務室のスミ、壊れた白い壁の前……国王と私は、バリアで無事だった


 護衛兵が来る前に逃げなければ……ん?



「なんだ、この光は?」


 爆発で破壊された執務室に光の粒が生まれ、漂っている。


「以前見たことがあります。これは王弟殿下の魅了魔法です」


 異形化した強化人間に、人間の意識を取り戻させた、あの魔法だ。



「しかし、この膨大な魔力量は不明です」


 吹き飛んだ扉の外、窓の外にも、光の粒が漂っている。


 王宮全てに魅了魔法が浸透していると考えられる。これほどの魔力量は、普通は、ありえない。



「母が自分の魔力を、クロガネに与えているんだ」


 元女王は、膨大な魔力量を持っていると言っていたが、これほどとは思わなかった。



 ◇



 王弟殿下の魅了魔法と、元女王の魔力によって、王宮のクーデターは制圧した。



「王宮を守る俺たちは、何をやっているんだ」


 護衛兵は指揮系統が崩れ、クーデターを停止している。



「護衛兵の指揮はワシが執る」


 国王が、護衛兵に宣言し、近衛兵も牢から開放した。

 これで、クーデター前の状況に戻った。


「ゼブル公爵と聖女を捕えよ!」


 国王と近衛兵が、王国の転覆を謀った二人を追っている。



 ◇



「ここでしたか、ゼブル公爵」


 王宮に設けられていた聖女の寝室で、公爵を発見した


 センスのない豪華な装飾であふれた寝室だ。



「その声は、アルテミスか」


 天蓋カーテンの中、ベッドに公爵は隠れていた。


 カーテンの外に立つ私……



「油断したな!」


 公爵が、天蓋カーテンもろとも、剣で私のシルエットを刺した! カーテンが、返り血で赤く染まる!


 公爵が、血に染まったカーテンを開けた。


「これは、私の娘バフォメット!」


 刺されたのは、拘束して、カーテン前に立たされていた偽聖女バフォメットだ。


 偽聖女は、その場で倒れた。


 自分で娘バフォメットを刺したのに、公爵は動揺していない。偽聖女は、ただの道具だと考えていたのだろうか?



「身体増強剤」


 薬で、ゼブル公爵は猛獣へと異形化した。またか……



「無駄よ、解除の仕方を教わったの」


 王弟殿下から教わった魅了魔法で、侯爵を光の粒で包み込む。一瞬、人間としての心のスキをつくり、魔法陣を発現させた。


「痛みが強く長いほど、貴方の罪は浄化され、天界へと導かれます」


 ゼブル公爵の足元で、六芒星が輝く。


 体中の骨が砕け、断末魔も上げられないまま、肉の塊へと変化していく。


「お幸せに」


 私が最後の祈りを捧げると、肉の塊はチリとなって天に昇っていった。


 格闘戦での殴りもなく、あっけない幕切れだ。



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