23 侯爵の決意


「チョビ侯爵、闇属性の治癒には、何の問題もありませんね」


 王弟殿下が調べた内容の裏付けのため、チョビ侯爵に王宮の応接室へ来てもらった。


 表舞台には顔を見せなくなった侯爵であるが、国王の書簡を持っていくことで、面会にこぎつけた。


 栗毛には白髪が目立つようになり、鼻の下にほんの少し生やしたヒゲにも元気がない。


「闇属性の治癒で、私は妻を失った」


 二年前の事だ。しかし、奥様が亡くなった原因については、疑義がある。


「奥様が亡くなったのは、別の理由ですよね」


 侯爵の顔に、悔しさが滲んでいる。口をつぐむ彼……



「奥様の無念を晴らすためにも、裁判で証言して頂きたいのです。どうか、真実を語ってください」


 無念である証拠はない。その証拠を掴みたいために、侯爵と面会したのだ。


 裁判に勝つために、どうしても彼の証言が欲しい。



「二年前、私たちは脅されたのだ」


 チョビ侯爵が、重い口を開き、話し出した。


「私が闇属性で治癒した患者に、新しい光属性で治癒したヤツがいたんだ。毒を使った形跡もあった。だが、証拠を掴めなかった。そして、強化人間が現れ……手を引けと脅された」


「光属性の治癒には、欠陥があったんだ」


 伯爵夫人そして元女王の話と同じだ。



「なぜ、王国は欠陥品を放置していたのですか?」


「目的は、娘を聖女にするためだったと、今なら解る。ゼブル公爵の指示だ」


 公爵は、娘を聖女にするため、闇属性を禁じ、犠牲者が出ると分かっていて、新しい治癒魔法を広めた。



「闇属性の治癒に欠陥など無かった。現在も、細々と試験されており、まったく問題は出ていないことが証拠だ」


 チョビ侯爵は、治験者の存在を知っていた。


「娘の魔法陣、それも誰か別のヤツに作らせたのだろう。それが優れていると見せかけるため、闇魔法のスキャンダルを作り出した」


「そして、従来の光属性の治癒も、一掃されてしまった」


 そうだ、従来の光属性の治癒ならば、被害など出なかった。


 娘の魔法陣が、闇属性、そして従来の光属性よりも優れているように、人為的に仕組まれたのだ。



「聖女、いや偽聖女の治癒には、副作用がある」



「魅了魔法と似ていて、それは麻薬のような、いや、催眠のような、偽聖女の命令に無意識で従ってしまうという副作用だ」



 チョビ侯爵の語気が強まった。副作用は、深層魅了のことだった。


「貧民街から人間を買い、実験していると思うが、証拠がない」


 何人もの実験が行われてきたことも掴んでいたようだ。


「アルテミス嬢、貴女が実験場を破壊したと聞いた。止めてくれて、ありがとう」


 チョビ侯爵は、侯爵の中で最高齢の重鎮だ。その彼が、若干二十歳の私の手を握り、涙を流している。



「治癒魔法で催眠状態になった人間を、犯罪の捨て駒に使っていると思われる。こんなこと、許される行為ではない」


 もちろん、許すつもりなど無い。証拠さえあれば、直ぐにでも処罰したい。



「私にも物的証拠がないが、証言すると約束する。だが、証言だけで、公爵をさばく裁判に勝てるのか?」


 チョビ侯爵から約束を得た。物的証拠は、あぶり出してでも、捜す。


「私は大司教様が認めた『執行聖女』です」


 いざとなったら、公爵であっても、物的証拠はいらない。



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