15 暗号


(たぶん、ゼブル公爵は「治験者リスト」が無くなったことに気が付いた)


 真犯人も、同じように気が付いたから、なりふり構わなくなった……追い詰められているのか?


 公爵と真犯人の関係は?



 図書館の治癒魔法の棚の前、専門的な学術書に囲まれた中で、ポツンと残された恋愛小説を、もう一度手にする。


 これを全部読むのは辛い。パラパラとめくる。


 ん? ところどころ、下のページの所に、手書きの文字がある。


(F……N……C……・……C……D……R……R)


 意味が解らない。何かの暗号か、落書きか。



(誰か、私を見ているのか?)


 視線を感じる。


 周囲に気を配ると、すでに、図書館内に司書以外の人たちも入ってきている。


 恋愛小説を元の棚に戻し、出口へ向かうことにした。



「あ~ん、この棚、全部ひとつズレている」


 司書が泣き言を言っている。


 全部ひとつズレている……


 FNC・CDRRの各アルファベットを、ひとつ前にずらすと……


 GOD・DESS……女神だ!


 王宮で女神といえば、爆破された聖堂にあった女神像、もう一つは中庭にある聖女の泉に立つ女神像だ。


 こんな単純に解ける暗号なのか。罠じゃないのか?


 危険を冒さなければ、大きな成功は得られないと、誰かが言っていた。


 ◇


「ケッ、今日も恋人たちが、たむろしている」


 中庭にある聖女の泉は、願いをかなえるという伝説がある。


 泉に立つ女神像……あそこに行くには泉の水の中を渡る必要がある。


 もし、盗んだ「治験者リスト」を隠すとして、書物を持って水の中を渡るか?


 私だったら、そんな事はしない。



 泉の前には聖書台が置かれている。木製の台だ。


 そこで恋人たちが、愛を誓っている。結婚式のマネをしているのだ。


 泉の前にひとり立つ私を、邪魔だという目で見ている。



 ここの聖書台……何か気になる。


 聖書を置く板が、妙に分厚い。


 駆け寄って、触ってみると、板が開いた。小物入れになっている。



「治験者リスト!」


 こんな人目の付くところに、探し物が隠してあった。


 目の前の恋人たちが、邪魔だと文句を言ってきたが、かまわずに中を見る。


 これは複写本のようだが、治験者の名前が並んでいる。上級貴族の名前まである。


(この名前は、消された伯爵の夫人だ……なぜ?)



「「キャー!」」


 恋人たちが悲鳴を上げた。黒いカゲが飛び出し、私に向かってきている。


 カゲが振り下ろした拳で、目の前の堅牢な聖書台が砕けた! 治験者リストが地面に落ちる。


 傭兵アンは倒した。なのに、同じような女性の強化人間が襲ってきた。



(こんな人目の付くところで襲撃するのか?)


 巨大なファイヤーボールが!


 治験者リストを守るか、恋人たちを守るか! どっちだ?



 もちろん、人命を優先した。


 爆発で治験者リストは燃え、強化人間は退却した。



 狙いは、リストの強奪、もしくは消去だったのだろう。


 どうしようか……


 燃やされたショックで立ち尽くす。



「また、あんたか!」


 騒ぎを聞きつけた護衛兵が、ブツブツ言っている。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る