第三章 闇属性による治癒

14 ヒント


「あら、図書館を立ち入り禁止にしていた護衛兵がいない」


 図書館の入口を閉鎖していた昨日の護衛兵がいない。


 捜査は終わったのか。中にも護衛兵がいないようで、司書が忙しく働いている。


 護衛兵は今、地下室の爆破事件の処理で忙しいことも関係している。



「入ってもよろしいでしょうか?」


 司書たちは、忙しそうで、私には気が付かないようだ。では、入館の許可を得たということだ。


 一人の司書を後ろから覗くと、手に持ったリストと、館内の書物とを照合している。


 たな卸しという作業だ。

 今回は、無くなっている書物が無いか、捜している様だが、自分勝手に持ち出す場合や、司書に黙って返す場合もあり、照合は手間取っているようだ。



 それにしても、膨大な本の数だ。王国の全ての書物を保管していると豪語するだけのことはある。


 全て分類番号で整理されており、定められた分類別に棚へ収納されている。


 テーブルに投げられていた蔵書リストを手に取って見てみる。けっこう厚い書類だ。


 この数だと、司書といえど、リストと突き合わせるのには時間がかかる。


 まして、私一人では、何日かかるか分からない。


(さて、どうしようか)



 よし、無くなった書物の有無は、司書にまかせよう。


 たぶん、公爵が気にしている書物が消えているはずだ、それが何か分からないと先に進めない。



 図書館の中を、ブラブラと歩いて見て回る。


 先日、王弟殿下と密談した王族用の個室が、窓側に並ぶ。その他の大きな窓は開けられ、バルコニーから心地よい風が吹き込んでくる。


 図書館の中は、たくさんの本棚が、無機質に立ち並んでいる。向こう側に立つ司書が、豆粒のように小さくなって見える。


(そうだ、治癒魔法に関する棚だけは調べておくか)



 治癒魔法の棚に向かう。専門的な学術書が並んでいる。どれも、偉そうな装丁だ。


「なんだこれは?」


 よく見ると、偉そうな装丁の中に、一冊の可愛らしい恋愛小説が並んでいた。明らかに場違いである。


 誰かの忘れ物か? 気になって手に取ってみる。


 代わり映えしない普通の恋愛小説だ。分類番号は無いので、誰かの私物なのかと、元にもどす。



(もしかして、何かの合図か?)


 手に持っていた蔵書リストを見てみる。ここにあるべき書物は……


(闇属性による治癒の危険性を証明した研究報告書および治験者リスト!)


 禁止されている闇属性による治癒が試験的に行われている事に驚く。


 闇属性の試験的な治癒をうけた人たちの名前が載った「治験者リスト」が、挑戦的に、直ぐにでも分かるような形で、図書館から消えている。



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