11 図書館
「王宮の図書館に、コソ泥が入ったようだな」
国王執務室で、お茶を淹れている時に、国王から訊かれる。
堅牢な机の上に、白磁にサクラのティーカップではなく、金縁で派手に飾られた王族用のカップを置いた。
もちろん、魔法陣が組みこまれていないことは確認済みだ。
「はい、高価な書物や、王族用の禁書などに、被害はなかったと聞いております」
図書館に入った形跡はあるが、盗まれた書物はないと聞く。子供のイタズラのような犯行だ。
「護衛兵が動いているのが気になる」
国王は、私に調べて来いと言っているのだ。何か盗まれれば気にはならないが、盗まれたかどうかも分からないと気になる。
「コソ泥の意図を調査するのですね、承知しました」
◇
「この先は入れない、帰りな」
横柄な護衛兵である。二人組みで図書館の入り口をふさいでいる。
「国王陛下の調べ物に使う本が欲しいの」
国王の名前を出して、反応を見てみる。
案の定、二人の護衛兵は困り顔になった。
「俺ら下っ端では判断できねぇ、上を通してくれ、お願いだ」
意外とまともな答えが返ってきた。国王と聞いて、確認もせず、通すかと思っていた。
「護衛兵がいるということは、何か事件でもあったの?」
「下っ端には、中のことは分からねぇ」
隠しているのではない、本当に知らないようだ。
「司書も入れないの?」
図書館で働く司書たちも、外に立っている。追い出されたらしい。
司書は、図書館で、書物の管理から貸出などを行なう専門職だ。
「捜査が終わるまでは、誰も入れるなとの命令だ」
気に食わないな。盗まれた書物を探すのなら、司書に頼むのが筋であり、早いはずだ。
ということは、護衛兵の上層部では、何が盗まれたか分かっているか、または、盗まれては困る書物があるのだ。
「護衛兵の上司って、亡くなった伯爵様でしょ?」
「今は、ゼブル公爵様が代行している」
伯爵の上司である公爵が代行するのは、普通の対応だ。
しかし、あの威張り散らすゼブル公爵が代行を引き受けたのは、逆に怪しい。
公爵なら、別の、例えば、侯爵か、護衛兵の隊長あたりに、こんな面倒な仕事を、押し付けそうなのに。
「じゃ、公爵様が図書館に来ているの?」
「ゼブル公爵様が、中で指揮を執っている」
これは、確定だ。見られたくない何かが図書館にある。または、図書館にあったのだ。
「現場で指揮をとる公爵様って、立派な方ですね」
「逆に混乱して、仕事がはかどらない、あ、今のは聞かなかったことにしてくれ」
焦る護衛兵を尻目に、私は図書館を離れた。
図書館には、公爵が困るような書物がある。または、あった……それは、なんだ?
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