10 爆弾


「俺は、異世界から来たと言われる技術を研究しているんだ」


 王族専用の個室で、王弟殿下は、少し得意顔で言ってきた。


 異世界の技術なんて伝説級の話だが、執行聖女への修行も、この世界の技術とは思えない高度な技術を使っていた。



「ファイヤーボールの爆弾を止める方法はないの?」


 今は、目の前の脅威を取り除く手段が欲しい。


「こいつは、作り方が乱暴で、停止回路が無いんだ」


「じゃあ、防げないの?」


 制御できないのなら、武器として失敗作である。



「これは、火炎魔法で出来ているから、冷気魔法で防御するのが良いと思う」


「魔法に関しては天才ね。組み立て方を教えて」


 理論だけの頭でっかちは、どこにでもいる。現実的な手段は無いのか?


「実は、異世界から来たと言われているバリア魔法があるんだ」


 また、伝説級の話だ……



「姉さまは、自国では聖女だと聞きました。この王国で、聖女だと名乗らないのは、なぜなのですか?」


 バリア魔法の組み立ても終わるころ、王弟殿下が私のプライベートな内容に踏み込んできた。


「クロガネ様は、王弟殿下となられ、聖女と婚姻するよう求められていると聞いています」


 第二王子として生まれた宿命だ。



「私のような、年上じゃ嫌でしょ?」


 十歳も年下の少年をからかってみた。


「そんな事はない。俺は、人を見る目は、あるつもりだ」


 背伸びしちゃっている。



「まっすぐなのね」


 その心情を思い、少しだけ教えてやることにする。


「私は、自国で厳しい修行を乗り越えたことで「執行聖女」となりました。だから、この王国にある、生まれつきの「聖女」とは違うのです」


 先天性ではなく、後天性である。つまり、王弟殿下の求める聖女とは違う。


「国民を癒し、王都に結界を張って守る……そんな守りの聖女ではなく、犯罪を実行した者、犯罪をさせた者に、罪を償わせ、天界に送るのが役目です」


 犯罪の芽を摘むのが役目で、子供がイメージするような、清楚な聖女ではない。



「攻撃は最大の防御だと、俺は聞いています。俺は姉さまを……」


「私には守りたい人が出来たのです」


 私は、彼の言葉を遮った。


「なので、この国の「聖女」の座は断りました」

 

 私は、国王の……彼の専属メイドである。



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