09 若き王弟殿下


 王宮の王族専用エリアの廊下、正面から、王弟殿下が歩いてきた。国王が言うには、彼は光属性の魔法が得意らしい。


 私は、すれ違うために壁際へ移動し、令嬢らしくカーテシーをとる。



「アルテミス姉さま……」


 彼は足を止めて、私に話しかけてきた。


 私は彼の姉ではないが、二年前に、彼が流行り病にかかった時、私が闇属性の魔法で治癒したときから、親しく「姉さま」と呼ばれている。


「話がしたいんだ……二人きりで」


 珍しいこともあるもんだ。これまで、彼と二人で話をしたことなど無い。


「分かりました。お勉強の時間としましょう」


 この時は、まだ十歳の王族だと、タカを括っていた。


 ◇


 図書館の王族専用の個室へ移る。ここなら、他の人間に聞かれる心配はない。


 彼の従者には、個室の外で待っていてもらう。



「姉さまならば、使用禁止となっている闇属性の治癒魔法が使えると、そう考えました」


 闇属性での治癒は、二年前から使用禁止となっている。彼の狙いはなんだ?


 闇属性での治癒を使用した罪で、私を拘束でもするつもりか?



「使用禁止なのは知っている。でも、どうしても闇属性の治癒の魔法陣を、解析したいんだ」


 国王から、弟は、まだ若いが、光属性を勉強し、この2年でメキメキと成長したと聞いている。


 もしかして、闇属性についても勉強したいだけなのか?



「闇属性で治癒することは禁じられていますが、魔法陣を見せるだけなら、法に触れませんよ」


 この子は信用できると考え、闇属性の治癒の魔法陣を発動させ、見せた。


 魔法陣はお皿を積み重ねるようなイメージで、治癒なら、麻酔・消毒・治癒・解除と四枚の皿のように見える。



「では、俺の光属性の魔法陣の番だ。新しいタイプではなく、今は使われていない古いタイプの方だ」


 彼は、光属性の治癒の魔法陣を発動させ、私に見せた。


 四枚のお皿を積み重ねており、光属性と闇属性は同じであった。



「力の源を、太陽から得るのか、月や星から得るのかが違うだけだ。これで、闇属性でも、光属性であっても、元々の治癒魔法は、同じだとハッキリした」


 彼は、納得できたようだ。

 たぶん、二年前も同じ議論があったはずだ。



「ありがとう姉さま、これは今回のお礼」


 彼は、治癒の魔法陣を消した後、ティーカップの受け皿を見せてきた。


「なに、これ? 王宮にあるお客様用のティーカップのソーサー、受け皿よね」


 シミひとつない白磁に、薄いピンクの小さく五つの花びら、この王国の花となっているサクラの模様で飾られた受け皿である。

 対となるティーカップは持っていない。


「これ、魔法陣が組みこまれている」


 彼が手をかざすと、受け皿の中に、小さな魔法陣が見えた。


 覗き込むと、ファイヤーボールの魔法陣だった。



「爆弾……」


 これは、ファイヤーボールが仕込まれた爆弾だ。子供が持つには危険すぎる。


「そう、カップの受け皿型の爆弾、聖女のパーティーで見つけた……伯爵が使う予定だった受け皿」


 真犯人の狙いは、伯爵か。


「製作者は不明だけど、荒っぽい作りなので、犯人は貴族ではない」


 とんでもない子供、いや、侮れない王弟殿下だ。



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