12 女王陛下


「メイドが、聖堂に何の用だ」


 振り向くと金髪碧眼、元王女のコノハ様だ。


 王宮の隠された聖堂で、私一人で祈りを捧げようとしたら、ちょうど祈りを捧げに来た元王女に出会った。



 この聖堂は、王族専用であり、学園の教室の倍くらいの広さだが、天井は高い。


 正面奥には女神像が置かれ、中央の床には六芒星模様が刻まれている。



 国王の母であり、女王という立場は引退したが、凛とした雰囲気は、一国の王としての覇気がある。


 とっさにカーテシーをとる。


「面を上げなさい」


「国王専属メイドのアルテミスか……」


 コノハ様とは、何度か顔を合わせている。



「執行聖女としての祈りか?」


「はい」


 気持ちを落ち着かせ、頭を整理するには、祈りを捧げるのが一番だ。


 コノハ様も、何か悩みでもあるのだろうか。


「そうか……では、一緒に祈りを捧げよう」


「はい」


 断ることなどできない。一緒に祈りを捧げることになった。



 コノハ様は、お供の近衛兵を扉の外で待たせ、祈りを捧げ始めた。


 私も、気持ちを落ち着かせる……ん? 嫌な気配だ。


「コノハ様!」


 私の声に、元女王も直ぐに反応し、横に飛ぶ。


「ボン!」私たちの居た場所が爆発した。


 聖堂のスミから、黒い影が立ち上がった。



「気配を消してました、刺客です!」


 爆発するファイヤーボールを使った。コイツは手強い。


「アルテミスは逃げなさい、狙いはワガハイだ!」


 私に逃げろと?


 扉の外から近衛兵が飛び込んできた。


 元女王も、そうとうの手練れだと聞く。どうしよう?



 迷う必要などない。国王の母だ、盾になるのは私のほうだ。


 自分へ、身体強化の魔法を唱え、刺客に接近戦を仕掛ける。たぶん、攻撃魔法に長けた相手だ。


 が、早い! 私と同程度のスピードだ。コイツは魔法使いタイプじゃないのか?



 コノハ様が、魔法でイカズチを放った。直撃したのに、効いてない。


「ワガハイは、魔力は膨大に有しているが、魔法の威力は攻撃向きではない。しかし、気絶させることくらいは出来るのに、なぜだ!」


 近衛兵が斬りかかるが、素手で跳ね返した。


「アルテミス、コイツは強化人間、傭兵だ!」


 聞いたことがある。日常から薬漬けとなって、異常な成長を果たした違法な人間だ。


 初めて対戦したが、強い。



 傭兵が、魔法陣を組んだ、ファイヤーボールだ。マズい、これは大きい!


 聖堂が爆発に包まれ、窓や扉が吹き飛ぶ。中にいた人間が、全滅する威力だ。


「大丈夫ですか皆さん」


 私は、コノハ様と近衛兵に声をかける。


 傭兵の気配は無い。逃げたようだ。


 爆発音を聞いた人たちが走ってくる音が聞こえる。



「これはバリア魔法か?」


 私たちは、大きなシャボン玉のような硬いバリアに包まれてる。


「はい、王弟殿下と一緒に組んでみた試作品です」


 カップの受け皿に仕込まれた爆弾から身を守る魔法陣を、一緒に考えてみたのだ。


 でも、不完全だったようで、ところどころ、焦げて壊れている。



「助かったぞアルテミス、これは借りにしておこう」


「当たり前のことをしたまでです」


 コノハ様に何かあったら、私は国王から嫌われてしまう。


「ワガハイに、強化人間の傭兵をぶつけて来たか……なりふり構わなくなったな、追い詰められているのか?」


 元女王は、犯人に心当たりがあるようだが、何も語ってくれない。



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