04 聖女のパーティー
王宮のダンスホールで、聖女の活躍を祝うパーティーが準備されている。
上座には主賓、来賓用のステージが仮設され、その前に、6人掛けの円卓が数多く並べられている。
(あれほどの強い魅了魔法は、これまで見たことない)
護衛兵が飛び降りるほどの、そして、男爵が意識に無いことを話すほどの魅了……よほどの光属性、または闇属性の使い手だ。
このパーティーには国王が来賓として出席する。専属メイドとして、何事も起きないよう、事前に会場の内外を見て回る。
会場のテーブルに白いクロスが敷かれ、席に着いた招待客に、給仕メイドが紅茶を振舞い始めた。もう、開会の時刻になる。
(あの時、男爵の口から、地獄に落ちるという言葉が出たが、あれは、襲撃を予告した声明なのだろうか)
伯爵は、襲撃の予告だと考え、護衛兵の上司として、護衛を厚くするよう指示を出した。
(地獄に落ちるのは黒幕だと言った……黒幕は伯爵ではないのか? では、誰だ?)
アリの這い出るスキもない会場だ。
あるとすれば、ファイヤーボールを詰めた爆弾の設置だが、そんな物など置けないくらいの厳重な警備だ。国王を護る立場としてはありがたい。
会場で王弟殿下とすれ違う。黒髪と黒い瞳であり、国王よりも十歳も若く、まだ初等部だ。聖女と同級生だと聞いている。
彼も、来賓として呼ばれているようだ。
(それにしても、闇魔法暴走事件か……)
二年前、王都に病が流行した時、重鎮であったチョビ侯爵家、新進気鋭のピエール侯爵家とカイゼル侯爵家が、闇属性を駆使して治癒にあたった。
この三侯爵家は敵も多く、対抗したのは、光属性の侯爵たち、そしてゼブル公爵だった。
特にゼブル公爵は、娘が聖女だと主張し、光属性の新しい魔法陣で治癒にあたり、大きな成果を上げていった。
聖女が使う新しい魔法陣の効果は絶大で、どんな病やケガをも瞬時に治癒させた。それはまるで異世界の技術だと、皆が驚くほどだった。
しかし、聖女の新しい魔法陣には欠陥があると、チョビ侯爵が言い出し、属性の対立が深まってしまった。
その時だった。チョビ侯爵が使った闇属性の治癒が暴走し、夫人の命を奪った。暴走は止まらず、王都で多くの人たちの命を奪ってしまったのだ。
(暴走を止めたのは、聖女の新しい魔法陣……)
ゼブル公爵は、闇属性での治癒を禁止する法案を出して、貴族院を通過させた。
それ以来、闇属性の治癒を見ることはなくなり、チョビ侯爵は表舞台から姿を消した。
(それ以来、公爵と聖女の天下になったわけか)
公爵と聖女へ、治癒に関する発言権が集中し、それに伴って献金も膨大な額になったと聞く。
(襲撃予告は、伯爵たちの自作自演の疑いが残る)
あの予告以来、飛び降りた護衛兵の話は表に出なくなった。大きな事件で、上書きされてしまったのだ。
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