03 予告


「部下である護衛兵が飛び降りた事件について、早急に原因を調べろ」


 国王が命じた。国王は金髪碧眼で、二十歳と若く、イケメンである。


 命じた相手は、護衛兵の上司であり、栗毛の伯爵である。年齢は三十歳くらいか。


 伯爵の腰巾着である男爵も付き従っている。こちらも、栗毛で三十歳くらいに見える。


 国王執務室は、意外と派手だ。壁や調度品に金の装飾が施され、落ち着きがない。

 その中で、執務用の古い机だけが、質実剛健だと言わんばかりに、堅牢な存在を示している。



「申し上げます。あの護衛兵は、隣国のスパイによって魅了魔法をかけられていました」


 男爵が、伯爵の代わりに答えた。


「国王陛下のお心を乱す事件ではないと思われます」



「……その隣国のスパイを連れて来い、尋問する」


 国王は不満顔だ。


「それが、外交特権がありましたので、強制送還しております」


 外交特権ということは、隣国の外交官ということであり、ずいぶんと高い地位のスパイだ。これでは、外交問題に発展するため、国王といえど、手出しが出来ない。



 あれ? 男爵の具合が悪そうだ。急に、目の焦点が合わなくなった。


「う……伯爵、なぜ、黙っているのですか?」


 男爵が伯爵に、無礼な態度で話しかけた。目はうつろなままだ。


「国王陛下に、全てを話しましょうよ」


「……何のことだ」


 伯爵の顔色が変わった。


「貴方も、脅迫されているようですね」


 男爵の目の焦点が、伯爵の目に合った。



「伯爵は、真実を知っていますよね……数日後に、聖女の活躍を祝うパーティーがあるそうですが」


 言葉に出てきた「真実」とは何だ?


 男爵が白目をむいた。眼球が正常に動かなくなっている……これは、強い魅了魔法への拒否反応だ。


「男爵、どうした、何を言っているんだ」


 伯爵の顔に浮かぶのは、恐怖だ。「真実」という言葉に、心当たりがあるということだ。


「その時まで、真実を公表しないと……黒幕は地獄に落ちますよ……」


 男爵は、自分の首に手を当て、斬る仕草をし、床に崩れ落ちた。


 私は、扉の外の近衛兵を呼び、男爵を救護室へ運ぶよう依頼した。



「二年前の悪夢が、また始まるのか……」


 伯爵は、ぼう然と立ち尽くしている。



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