第4話:エピソード・ハッピーエッジ

 今日も真剣に一日を考える。

 SNSで友人たちの幸せ合戦がっせんにも疲れていた。





 自分はどんな生活を送っているのだろう。

 仕事して、誰もいない部屋にひとりきり。

 男の場合はその生活が以下に底辺ていへんか友人たちは語っていた。






 大学卒業いらい久しぶりの飲み会で交わした会話はふだんと違うはずだった。






 それなのにまるで悪魔のささやきに聞こえた。

 自分が置いていかれているような。





 いつもそうだ。






 今日もわずかにアクセスがあるブログに「死ねなかった」ことだけを記録する。






 自殺相談の電話も使ったが相手の苦労が電話越しから聞こえるだけでもう使わないと決めた。






 この世は強いやつだけが生き残る。






 夢を捨て、欲望を捨て、人間関係も捨てた。






 あとは……。



『いつもブログを見ています。 どのようにコメントすればよいかわからなくて。 それでも気になっていたので』





 他のブログだったら運命の人かもしれない。

 自分にとっては大事な人だった。





 お礼をした後にまた現実に戻る。





 確かにこの世には死にたがっている人がいる。

 幸せなんて存在しない。





 自分たちが死にたくなるような世界で生きているわけがない。






 そつなく大学を出てから就職してそこから差が開くだけの人生。





 幸せは人を傷つける。

 誰かの幸せは人をけずる。

 






競合相手きょうごうあいてなんて減らそうぜ。 なあ人間」






 誰だ?

 たしかに聞こえた。

 ひとり暮らしで彼女を何年も前につれてそれっきりの男臭おとこくさい部屋。






「俺も幸せをやいばにして生きている。 今日も嫌なやつの依頼で嫌なやつを殺す。 人間。 憎しみ以外で相手を殺す理由があるって聞いたことがあるか?」







 それは恐怖らしい。







 あおり運転対策で防犯グッズをとっさにとりだし黒い影とロン毛の生き物へむける。







「あんたの依頼が聞こえたから飛んできたのさ。 全世界の幸せを殺してくれと!」






 ちがう!自分が願ったのは自殺。

 散々考えて死にたいという願いにいたっただけだ!






「安心しろ。 あんたもふくめて俺たちがいずれ人間という競合相手をほうむってやる」







 競合相手きょうごうあいて

 ビジネスマンなのか? この生き物は?






「俺たちも生存競争せいぞんきょうそうを賭けている。自分たちの命をけずってな」






 生き物からは血のにおいがしていた。

 ロン毛で目が隠れた黒い影。

 幽霊ゆうれい? まさか。






「あんたの願いをかなえるために殺さないでおこう。もしこの地獄を生きたいと思うのならいつでも俺をよべ。 気に入ったんだよあんたを! 」






 アスファルトが雨によってにおいが部屋にまで広がる。

 まるでフィクションのようにいかずちがなりひびき、部屋には青白く光るノートパソコンと自分…そして人間とは違う足跡あしあとだけが残っていた。






 いったい、なんだったんだ?









 穴刀あなーとはまた頭をかかえていた。






 いつもなら証拠を隠すのに今回は惨殺事件ざんさつじけん大々的だいだいてきに人間のメディアで報道ほうどうされた。






「ついに幸刃にせーばが動きはじめたな」






 是助げせーわはカメラをみがいて他人事のようにつぶやく。






 ったく!

 証拠しょうこをいつも隠さず派手はでにやるからこっちの仕事がまた増える。






「よおお前ら」






 なに?いつのまに?

 窓から侵入か。

 独立したくせに!






幸刃にせーば。 なんのようだ」







「なんの用って馬鹿にしにきたに決まってんだろう? 穴刀あなーとが失敗続きで表に出れない人間どもがわめいて俺を支持しじした。 あのニュースもお前らにまわされる依頼いらいの中でいちばん過激かげきなやつを選んで達成したんだよ。 いや、正確には俺にあの地域ごと自分と共に消して欲しいと言っていた。 喜んで引き受けたぜ。 ほら。 報酬は半分渡すからさ」






 今までのニュースもそうだ。

 いちばん危険な人間から幸刃にせーばは仕事をもらう。






「お前らのガタ落ちした評判のために同族のよしみでおこぼれをもらってるだけマシだと思え! お前らを裏切ったんじゃない。 こっちの方が稼ぎやすいだろ? 制約の多いお前らよりも俺は動けるからな」






 嵐ともにやってきて雷雨らいうがふりそそぐ。





「俺たちは…ここまでなのか?」






 すると是助げせーわが飲み物とタオルをさしだした。






「ライバルになっちまうけど俺たちも対策ねらないとな」






 ああ。

 それだけだ。

 シンプルにそれだけだ。

 金を稼ぐのは簡単じゃないから。






「ありがとう是助げせーわ





「あいつなりのやり方で俺たちを生き残らせて恩を売るのかもな。 そうなると面倒だからまだ俺たちを信用してくれている生き物たちの残った依頼をやろう。 まだ遅くはないはずだ」






 ありがとう。

 少しだけ持ち直した穴刀あなーと





 これから先、いかに乱れないかが重要になってくる。





 幸刃にせーば

 そんなに不満だったか。

 俺たち〝よこしま〟との生活は。





 真偽しんぎをおたがい明かすことはないだろう。

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