第3話:相いれない暮らし方

*変わらない日々



 何をしても変わらない毎日に隕石いんせきを落としたくなるような足の裏の痛みが全身にひろがり、張りつめていく。




 決してまじわらないと考えつつも結局は巻き込んで巻き込まれてしまう。




 やはり産まれる時代を間違えたか。







 梓橋光凛あずさばしきやるのおかげで済役留瑛すみやくさついは前回苦悩していた中学生たちと乗り越えるひとりとして協力することになった。






 もちろん〝よこしま〟の存在や生きづらさの根深ねぶかさは無視むししない。





 そして思い上がってはいけない。





 きもめいじて今日も依頼いらい準備や資料調査しりょうちょうさをおこたらない済役留瑛すみやくさつい





留瑛さつい!今日も張り切ってんなあ」





 背中をポンとたたく増洗琉騎まあらるき



 マイワンワーズきってのマッチョで見た目からは分からないが数多くの対戦相手をちぎってはなげている。





「今回は〝よこしま〟が関わってるわけじゃない。 ある養蜂家ようほうかを説得してほしいとさ」





 そこへ梓橋光凛あずさばしきやるも現れた。





「はちみつ? こりゃいい」





 梓橋光凛あずさばしきやるは何やらごちそうをイメージしているらしい。





 増洗琉騎まあらるきは二人の肩を抱いてささやいた。






「せっかくだから3人でいくか? 依頼人いらいにん養蜂家ようほうかのおとなりにいる山に住む人だ。 なんでも養蜂家のせいでスズメバチとクマの被害ひがいがひどいらしい。 特殊とくしゅな訓練をつんだ俺たち格闘技で言うランカークラスにクマ・スズメバチ撃退げきたい養蜂家ようほうかへの配慮はいりょをお願いしたいそうだ」





 やっかいな依頼だと留瑛さついは感じた。





 今回は増洗琉騎まあらるき同行どうこうしてくれるので助かる。






〝よこしま〟たちが乱入しないことを祈りながら3人は増洗琉騎まあらるきの自動車で現場へ向かった。









〝よこしま〟たちは一旦いったん考え直していた。






 マイワンワーズたちの同行や自分たちの行動改善こうどうかいぜんエトセトラ。





 穴刀あなーとは人間世界でいえば『コーヒー』に近い闇でできた飲み物を口に入れて考え事をし続ける。





「これまでの順調じゅんちょうさなんてかすんでみえるほど難関なんかんが押し寄せてる」





 是助げせーわは最高の瞬間が撮れなかったとくやしがってばかりで穴刀あなーとの話は聞いていない。

 そして思い出したかのように伝言でんごんをつたえる。






「今回の依頼は幸刃にせーばが引き受ける…いや、これからは〝よこしま〟代表としてあいつが全部やるそうだ。 俺たちは休んでろってさ」






「勝手なことを。 俺たちにも報酬ほうしゅうが手に入るとはいえこれじゃ身体がなまっちまう」






 穴刀あなーと内心不安ないしんふあんだった。






 幸刃にせーば穴刀あなーとたちも競合相手きょうごうあいて判断はんだんすれば自分たちも確実に消してくるかもしれない。






 嫌われているわけでも恨まれているわけでもない。

 ましてや金のためでも。






幸刃にせーば。 何を考えている!」






 うたがいと不安が穴刀あなーとをおそうだけだった。









 今回は山奥までの仕事で準備が大変だった。

 マイワンワーズへの相談者は〝よこしま〟の標的ひょうてきでもなく困り事を抱えた一般人。





 養蜂家ようほうかによるはちみつがクマ被害やスズメバチ被害を助長じょちょうさせており、何度か話はしているらしいが養蜂家ようほうかも脱サラをして今の事業をなりたたせ、養蜂家ようほうかが得た収入や謝礼しゃれい近隣住民きんりんじゅうみんは受け取っているらしい。






 最初は養蜂家ようほうか自己保身じこほしんだと思っていた依頼者たちは慎重に付き合っていたが純粋じゅんすいなはちみつへの向き合い方に何も言えず、このストレスをどうすればよいかわらをもつかむ思いでマイワンワーズに説得をしてきたらしい。






善良ぜんりょうなタイプか。 とはいっても人間に良いも悪いもなにも悪いしかない気がする。 だから高め合う必要があるはずなんだけど」






 済役すみやくは人間嫌いではないが今どき善悪ぜんあくで誰かを判断するなんて危険すぎる。





 増洗琉騎まあらるき一瞬いっしゅん間を置いてから話し始めた。






「話だけ聞けば養蜂家ようほうかも依頼してきた人も悪くなくね? ほらいま不景気ふけいきだから金稼ぎ目的で動画もブログとかもなんちゃってプロレス多いだろう? 幸せだの不幸だのいらないアドバイスと再現性さいげんせいのないやつに何人かが金を払ったり。 あの人達は裏があるとは思えない」






 梓橋光凛あずさばしきやるはそこで親指をある物の場所へ刺して二人へ合図あいずをした。






 養蜂家ようほうかへの事業取りやめはさすがにできないのなら本題は変わってくる。






「俺たちが相手するのはだ。 試合で人間相手するのも大変だけどやるしかないね」






 いくら若手ランカークラスといっても猟銃りょうじゅうがなければクマとは戦えない。






 そこでマイワンワーズ製の道具で戦う。

 万能ばんのうではないからこそ自分たちの身体をきたえる必要もあってしっかり練習してきた。






「「「はじめっぞ!」」」









 俺たちは養蜂家ようほうか挨拶あいさつへ。






 クマ撃退げきたいの前にスズメバチを軽く倒していた。






琉騎るきさんあいかわらず駆除くじょうまいっすね」






 ちゃんと時代にあったおしゃれをしている色黒の青年である琉騎るきさんが本領発揮ほんりょうはっきする瞬間だった。






「ちゃんと供養くようするためにおまえら食えよ! 不味まずくしないからさ」





 虫はさすがに。

 って光凛きやるは食う気まんまんかよ!

 確実にモテるフェイスが台無しになりそう。

 甘けりゃいいのか。






「ごめんなさい。 私が勝手にこの地域で養蜂家ようほうかなんてやってしまったばかりに」







 クマ撃退げきたいについて周りは養蜂家ようほうかいとなむ女性には優しかった。

 表では。






 内心では彼女をせめていたかもしれない想像を3人はしていた。






「困ったら俺たちを呼べばいい。 ちゃんと仕事しますから」





 誰も悪くない…わけじゃないが自然と過ごす以上はさけられないトラブルもどうしてもある。






 ここ最近は〝よこしま〟関係の依頼ばかりだったが基本的に治安維持ちあんいじというより何でも屋をやっているのだ。マイワンワーズは。







 最近は災害級の猛暑が10月まで続くからかクマ被害ひがいが多く、その手伝いをやっていたら〝よこしま〟みたいな謎生命体なぞせいめいたいとも戦えるようになっていた。






 それでも俺たち国内ランカークラス!

 いちばん怖いのは人間!






 きゃああああああ。





留瑛さつい光凛きやる ! さがれ。 ここは俺がクマの気を引く」






 琉騎るきさんはマイワンワーズ製の装備を羽織はおってクマの元へ目を合わせながらかけよる。






 光凛きやる養蜂家ようほうかの女性を避難ひなんさせて、俺も装備を羽織って琉騎るきさんのサポートをする。





「今回はツキノワグマか。 とにかく人間が怖いことを教えてやる!」






 俺と琉騎るきさんはクマをはさみうちにし、鼻や他の急所をねらう。






 クマの動きと人間の動きはもちろん違うのだが何回も死にかけておきながら傷ひとつ俺たちは負っていない。






「ぐおおおおおお」






 さあ、このスタンガンを喰らいやがれ!






 思ったよりも今回のクマはタフだった。

 やばいと思っていたら光凛きやるが格闘ゲームリスペクトのコンボをおみまいし追い払うことに成功した。






「「「いえーい!」」」




 若いとはいえいい歳した男たちがまた死線しせんをくぐった。






「さて。 いておくか」






 スズメバチ予防とクマへ人間の恐ろしさをうえつける臭いと音がする機械を近隣に設置せっちした。






「これでまた何か困ったら俺たちよんでください」





 琉騎るきさんは豪快ごうかいに山に住む人達に背中を見せた。





「やっぱ琉騎るきさんは凄いなあ。 俺もちゃんときたえないと」






「スズメバチの幼虫美味しいね。 たまにタンパク源として海外から虫のスナック注文するけど琉騎るきくんの料理だと何度でもいけるよ」





 ったく。

 パンも虫もいけるのか。

 光凛きやるは元地方出身だがどこでも生きていけそうだ。






 やっぱり俺、マイワンワーズ入ってよかったよ。






 これからもつぐないが彼のためにできるか分からない。

 それでもこうやって少しでも強くなることで困っている人たちを差別さべつすることなく助けていく。






 3人は悪路あくろを気にせず自動車で山を後にする。






 そこで終わっていたはずだった。




--昨夜未明さくやみめい、〇〇市にて大規模だいきぼ災害さいがいが起きました。




 人やハチ、クマといった多くの死体ががけくずれも何も起こっていないのに殺害されており、警察は事件性もふくめて捜査中そうさちゅうです。





 ニュースを見たとき、俺たちは頭が真っ白になった。

 その後マイワンワーズも警察からの事情聴取じじょうちょうしゅがあった。






 こんなこともあろうかとやりとりを全部録音と録画していた映像をみせる。





 この時は確かに何もおきていなかったはずだった。



 まさか?






〝よこしま〟?








 なんでそこまでしたかって?

 憎しみ?怒り?恐怖?




 いいや。

 穴刀あなーとがいつも甘いだけだ。





 人間は競合相手きょうごうあいてでしかない。






 他の生き物もそうだ。

 バランスさえとれれば地球ではうまく過ごしていける。





 マイワンワーズってやつらに全てを押し付ける形でこの山にいるやつらちゃんとつぶさないとな。





 惨殺ざんさつは完了した。

 クマを倒すのは少々手こずった。





 何せ俺もきばやいばしかないからな。






「悪いな。 競合はなるべく減らしたいんだ。 俺たちも生きているからな」





 そうやって言い訳ばかりしている。

 仕事終わりの言い訳は最高に気分がいいからなあ。





 新たな課題がマイワンワーズに襲いかかるのだった。

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