第1話 人間卒業

 家の中に謎のゲートが出来てからなんといつの間にか半年が経っていた。それはあまりにも地道で、ただ確実に自分が強くなっていく実感のある長い長い周回プレイだった。

 遺物アーティファクトが出現する確率はもう100%と言っても良い。俺は数えきれない遺物を獲得した。


【自己再生Ⅹ】

【融解・酸Ⅹ】

【瞬間回復Ⅹ】

【ニュークレーザーⅥ】

【全属性耐性Ⅲ】

【リフレクションシールドⅡ】

【マジックシールドⅥ】

【エレメンタルバフⅣ】

etc……。


 なんだこれ……? 強くなり過ぎじゃね? 実はなんとスキルには特定のスキルをXにすると自動的に合体し、そこからさらにランクが上がることを知った。たしか遺物獲得数で現在全国1位の人は、40個くらいとかどこかに書いてあったような。それに対する俺は、多分推定300個は超えている思う……。

 うひひひ……なら早速、覚醒者協会に再認定して貰わなくちゃなぁ!! 半年間で極級マスターとか行くんじゃね?


 それはそうと。俺は恐らく。いや確実に人間を卒業した。特に防御面に至ってはアホみたいに強くなってると思う。その代表格として……。

 俺は包丁で思いっきり手首を切り裂く。痛みは全く無し。よく見れば、手首に包丁の刃が切り込みを入れた瞬間に再生を初めており、床にはおびただしく飛び散った血が残るのに対し、ぱっと手首を見ればもう無傷。完全回復しているのだ。


 ん〜! 何万体は倒しているゾンビよりタチが悪ぃ! つまり俺のことを何人たりとも殺すことは出来ない。魔法攻撃を除いて。

 俺が持つスキルにある【全属性耐性Ⅲ】とは、地水火風雷土闇光の各8属性耐性がX(最大)になった時に合体した物で、しかも合体前の各属性耐性は90%が上限。

 さらに合体後のこのスキルは、すでに最大まで鍛え上げられた属性耐性スキルの上限を1%上げるもので、これこそXにならないと完全耐性。いわゆる無効にならないのだ。


 しかしなぜこんな不完全なのに調子に乗っているのかと言うと、至極単純、飽きたからだ!! そろそろ家以外のダンジョンに潜りたい! そう思ったからこれから協会に行くわけだ。


 という訳で俺はいつぶりかの意気揚々と協会に入り、受付から覚醒者ランクを再認定を行ってもらった。はて結果は〜?


 ……。英雄級ガードマスター……!? なにこれ……。マスターよりも上ってことだよな??


「あの〜.……このランクってどの位置に当たるランクなんですかね?」


「ガードマスターはマスターの二つ上に位置するランクです。ガードマスターの一つ下は伝説級レジェンドです! えーっと確か貴方はつい半年前に登録したばかりで……と、当時はタレントゼロ!? あれ……認定機の故障は無いはず……」


「あはは……いやぁ、まぁ? タレントゼロと言われたのが悔しくて? ちょーっと本気出しちゃいました!」


「本気でタレントゼロからガードマスターに半年でなれる人なんていませんよ! どんなに頑張って格上のゲートを無理矢理クリアしして、政府から提供される薬と遺物の総数を考えても……半年でなれる限界は、ゴールドが厳しいと思います! それこそ達成したら覚醒者の天才と言われてもおかしくないと言うのに。貴方は……化け物!!」


「酷っ!!!? あぁ、まぁ、そうですよね。それじゃあ色々となんかあるんですかね??」


「そうですね……まずは現状ある全ゲートへの侵入許可が出されます。そしてこれまでにクリアしたゲートに対する報酬が政府から追加で支払われるのですが……。申し訳ありません。楽斗さんのこれまでの実績を何度確認しても、今までゲートクリア数が0。なんですが……」


 あ、やっべ……。これどう言い訳しよう。受付さんが言う通り、強くなるための無謀と言える近道は、自分より格上のゲートに侵入しまくることで、莫大に稼いだ金で貰った薬をがぶ飲みすることで無理矢理、戦闘能力をぶち上げる方法がある。

 しかし、一つのゲートを何度も周囲するのは強くなるためではない。『安定した収入』を得ることが大前提なのだ。

 だからここで一つのゲートを周回してたせいで0というのはあまりにも怪しすぎる。


 なので俺は苦し紛れにこう答えた。


「あーそーっすねぇ。政府が見つける前に出てきたゲートをクリアしまくってたから、非公式の集計になっていたかもしれないのかなぁ〜」


「非公式ですか……? なるほど分かりました。それでは残念ながら追加報酬はありません。後は……実はマスター以上になると政府から専用の武器庫への立ち入りが許可されるんです。楽斗さんの装備を見るからに、ますますどうして、そんな装備でガードマスターになれたのが謎なんですよねぇ……」


 ぎくぎくぅっ!? これはもう言い逃れ出来なさそうだなぁ〜。


「まぁ、俺ならね、いっそのこと装備無しでも余裕なんだよ。んまぁ、武器が確かに心持たなかったよなぁ……」


「そうですか。では武器庫への立ち入りは、ここより左奥の受付にお申し込みください」


 あれぇ〜おかしいなぁ? 受付の女の人の表情が途中からずーっと俺のことを怪しんでたんだけど……。まぁ、なんとかなるかぁ……。

 俺は武器庫に入ろうと認定受付の人から離れると、背後からたったと走る音が聞こえ、一瞬だけ振り向けば、STAFF ONRYと書かれたエレベーターに急いで乗り込んで行くのが見えた。あ〜やばいやばい。俺これからどうなるんだ!?


 まぁとりあえず予想以上の認定結果になったことに俺はホクホク顔で武器庫への立ち入りを申請し、案内された専用エレベーターから初めて政府管轄の武器庫に入る。

 エレベーターを降りればすぐに視界一杯に広がる豪華絢爛の散りばめられた装飾と調度品。眩しく輝くシャンデリアとずっと奥まで続くレッドカーペットに、両サイドの壁に沿って様々な武器が展示されたショーケースが並んでいた。


 ぐおぉあ! 眩しい! 眩しすぎる! 貧乏でも裕福でもなかった平凡な俺には眩しすぎる!


 あまりの豪華さに感動していると、丁度俺と同時にもう一つのエレベーターの扉が開けば、そこからもさらに眩しくギラギラに光る青い装飾が彫られた銀の鎧を着た、がっしりとした体型の金髪で金眼の青年が現れる。


「やぁ。君も武器庫に装備を調達してきたのかい? んー、君の装備を見る限り装備の新調かな?」


 ここで相手に圧倒されてはならない! 堂々と、偉そうに、イキり倒せ!


「よぉ、俺は今さっきガードマスターになったばかりでな。今までほぼ装備ゼロでゲートをクリアしていたんだが……、そろそろ心許なくなってきてなぁ」


「へぇ、ガードマスターか。それは凄いね。昇級おめでとう。ということはここに来るのは初めてでは無いのかな?」


 くそ、どうしてそういう痛い所をツンツンしてくるんだ? 認定受付の人もそうだったし……。


「……。まぁな。どうも俺に合う武器がなかなか見つからなくてな。最近新しい装備が作られたと聞いてここにきたんだ」


「ほぉ。新しい装備だって? 流石耳が早いねぇ。僕もそれは知ってるけど、僕はまだマスターランクだから装備出来ないんだよねぇ。確かレジェンド以上の装備だったけな?」


 大嘘吐いたつもりが正解していた。ちょっとだけ良い収穫だ。


「レジェンドだって? それは盲点だった。てっきりガードマスター専用かと。まぁ、今持ってる装備よりはマシか……?」


「そりゃそうでしょ。君良くここまでその装備でこれたね? だって君の装備ってみんなタレントゼロレベルの……」


「ごっほん! あー無駄話は良いからさっさと武器選んだら?」


 畜生! 流石に長話しているとボロが出ちまう。しかもコイツ、俺みたいな偉そうなやつと話すのを慣れてやがる。二つ上の先輩として下に見ていたが、肉体は良くても精神力が負けているッ!?


「うんそうだね。新しい装備はここの一番奥の扉にあると思うよ」


「あいよ。あんたも達者でな」


 俺はそう言って青年と別れると、そそくさと廊下を走って一番奥の扉を開いた。するとそこはまた一風変わった景色が広がっていた。

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