プロローグ2

 まさかの家の中にゲートが開いてしまった。建物の中に突如ゲートが開くことは稀にあるようだが、ゲートが開く瞬間を家の中で目の前で目撃したのは恐らく俺が初だろう。


 まさか俺の欲望に答えて開いてくれたのかと一瞬頭を過ぎるほどの偶然。ゲートはダンジョンの最奥にいるボスの撃破又は、アイテムを手に入れるまで時間経過で消滅することはない。

 だから別に今このゲートに入る必要はなく、いつでも後回しにしても良い。


 しかし、放置し過ぎた結果がゲートブレイクである。わざと消滅させることなく、定期的にダンジョン内のモンスターを殲滅することで、魔核を荒稼ぎする人間だっているくらいだ。ゲートを放置することはデメリットしか無い。


 だがしかし!! 俺は本当にこのゲートに入るべきなのだろうか? ダンジョン内での死亡事故は最早よくあること。死んだらそこで終わり。ゲームみたいにセーブ機能なんてないんだ。


 入れば一攫千金を狙えるが、あっさり死ぬ可能性だってある。金か死か。どちらを選んだ方が良いか。

 俺はとにかく悩み、悩みに悩んだ結果、わざと足を滑らせてゲートに入った。


 ダンジョンの見た目は円形状の大広間。見た所ペナルティーは無し。

 ダンジョンには形とペナルティーである程度難易度が絞れる。今回のダンジョンは恐らくシルバー級。……無理じゃね??


 円形状ダンジョンは入った瞬間に戦闘が始まり、一定時間後にボスが出現するタイプだ。ボスが出現するまでの雑魚敵の多さは完全にランダムで、下手して長期戦すると、大量の雑魚モンスターと共にボスが大暴れするカオスになることはよく聞く話。


 どうやらここはあり得ないほどに簡単らしい。俺の目の前に出現してきたモンスターは大分腐食が進んだゾンビ一体だった。

 通称ディケイドゾンビと呼ばれるこいつは、あまりにも腐食が進み過ぎてゾンビ特有の再生能力が消え、耐久力も紙となった雑魚中の雑魚。という政府の基準だ。


「人生初戦闘がこいつかよ……。安心して良いのかも分かんねえな……」


 とそこで俺はある重要なことを一つ思い出す。武器を持ってくるの忘れた!!


「どうする? 殴りで行けるか? それとも一旦帰る?」


  全速力で家に帰って、適当な包丁を持ってきても良い。だが面倒なことにダンジョンで一度出現したモンスターは、理由は分からないが、なんとかダンジョンから出ようするため、ゲートブレイクとは別に、モンスターがゲートの外に出てしまうのだ。

 だから俺は家に帰ることを躊躇う訳だが、もうどうとでもなれと決意して、思いっきりゾンビの頭をぶん殴る。


「どりゃあああっ!」


 するとゾンビの頭は勢いよく吹き飛んだ。どさりとゾンビは倒れ、時間差で消滅する。


「か、勝った!! 俺でもモンスターを倒せた!! なら早速魔核だな! ってアレ……?」


 ディケイドゾンビが消えた所には魔核では無く、見慣れないものが転がっていた。

 でも見たことが無い訳では無いが、初めての戦闘でこんなもの本当にもらって良いのかと、凄まじい嬉しさとただならぬ疑惑が交差する。


 それは遺物アーティファクトと呼ばれる。見た目はゾンビだからか頭蓋骨だった。モンスターの体内で生成される魔核が超低確率で変異し、全く別物に変化するという物。また遺物はそれぞれモンスター特有の技能スキルを蓄えており、覚醒者はそれを破壊することで新たな力を得るという。

 また政府に売ればそれこそ千金物。俺は迷わずそれを破壊した。


 ……? これで新たなスキルを手に入れたのだろうか。ゲームのようにステータス画面とか出てくる訳では無いので確認のしようがない。と思った矢先だった。俺の頭の中にふと一つの言葉が浮かび上がる。


【自己再生Ⅰ】


 ……!? これが、スキルなのか? 自己再生ってマジで?

 俺は確認のため、すぐにダンジョンを出て、出来る限り痛く無いように、爪楊枝を指に軽く刺してみる。


「いや普通に痛え……!」


 するとみるみると傷が、とても遅いが再生しているのが見えた。

 すげえええええ!! 何だこれ! もう人間卒業かよ! うっひょぉ〜!

 俺はあまりの嬉しさに歓喜の舞をしてから、次は台所にあった包丁と、なんとか服を重ねて厚着にして、兄が持っていたバイクのヘルメットを被って準備を完了する。もう一度潜ろう。そうした。


 そう、今回俺の目の前に現れたゲートは恐らくタレントゼロでも出来る、過去最低のゲート何だろう。だから俺はテンション爆上げにしてダンジョンに侵入した。


 次に侵入した時は、スライムが現れた。それも本当にただのスライム。スライムに状態異常がつくと逆に強くなると言われている程なんだから、ただのスライムは本当に弱いんだろう。

 えーっと確か倒し方は……。魔法攻撃で蒸発させるか、透過して見えている魔核を破壊すればいいんだっけな。ならばこの包丁で……。


「オラァッ!」


 ぽよぽよとこちらに気づいているのかも分からない程の遅さで動くスライムに対して、俺は包丁で一突き。ぶちゅっと魔核らしきものを貫通して破壊する。

 らしきものと見たのはやはりまたこれも遺物に見えたからだ。そうすれば予想通り、俺の頭の中に一つの言葉が浮かび上がる。


【融解・酸Ⅰ】


 融解!? スライムってそんなスキル持ってたのか!? こわ……。しかも酸って。

 俺はそれを試しに地面に向かって発動してみる。すると手のひらからぷるんとした液体が湧き出て地面に落っこちると、僅かだがじゅっと音が鳴って何かを溶かしていた。

 へぇ〜……スキルランクが上がったらなんかあるんかな……。


 だがそれはそれとして……なんと2回連続で遺物が当たった。わざとゲートを消滅させずに、ゲートブレイクも起こさないように、定期的にダンジョン内のモンスターを殲滅させることで魔核を荒稼ぎする奴がいると言ったが、そんな真っ当な周回プレイでさえも遺物が手に入る確率は、1万回周回して1個手に入るかどうかって言われる程なんだぞ。


 それが2回連続で当たるなんて、豪運とかいう話では済まされない。

 もしこれをネット掲示板とかに、『俺、2回連続で遺物当たったんだけとどう思う?」なんて書き込んだ暁には、『嘘乙w』と笑われるか、『それどこのゲートだ! 教えろ!』と血眼になってる人から質問攻めにされるだろうし。場所が特定されれば、政府から一生分の金で買い取られ、ゲート周辺の買収。つまり俺の家が完全に占拠されるのは間違いない。


 絶対に嫌だね。俺の家の中に出来たんだからとことん占領しなくちゃ。別に家自体に思い入れは無いが、ベッドの真横だぜ!? そんな楽に異物も魔核も稼ぎまくれるゲートなんてここ以外ねえよ!


 という訳なのでまだ見ぬ遺物のために、俺はまたゲートに入り、とりあえず誰にも負けないくらいに強くなろうと決めた。

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