数年後。綺麗な薄いピンクの色をした花びらが宙を舞う。

 温かい日差しが眩しくて目を細めた。

 幾数ものお墓がある中の一つの前にお花を供えて水をかけてからしゃがみ込んで手を合わせる。

 伝える想いはただ一つ。

「(夢、叶えてきたよ)」

 一緒に持ってきていた鞄には私が書いて出版された著作が入っている。流石にお墓に供えるのは盗まれるかもしれないから、後で彼女の家に赴いて供えることになっている。もちろん彼女のご家族には了承済みだ。

「(……君の好みに合うかはわからないけれど)」

 その先を考えるのを躊躇うように息を吸って吐く。

「(どうか、読んでくれると嬉しい)」

 瞼をゆっくり上げて後片付けをする。

 そうしてその場を去ろうとして、――風に乗って聞こえてきた声に目が潤む。それでも泣くのはどこか違うような気がしたから微笑んで今度こそその場を後にした。


「夢を叶えてくれてありがとう」

 そんな言葉を口にした声はどこか震えていた。

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市之瀬 春夏 @1tinose_

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