第51話 母と娘の願い
光の中から現れた八葉千鶴の姿は、もはや人でも混沌の探求者でもなかった。
「私は……理の根源と在り得なかった可能性、そして人の想いが交差する場所に存在する者」
その姿は、まるで光そのもののようだった。
「お母さん……本当に」
凛の目から、涙が零れる。
「そう、凛。私はようやく、自分の本当の在り方を見つけたの」
千鶴の声が、優しく響く。
「理の根源でも、混沌でもない。その狭間にこそ、新しい可能性があった」
「なんだと!?」
賢樹剛志が怒りの声を上げる。
「貴様、私を欺いていたのか!」
「違うわ、剛志」
千鶴の声が厳しくなる。
「あなたこそ、自分を欺いている。力を求めるあまり、本当に大切なものを見失って」
「黙れ!」
剛志の放つ紫色の波動が、千鶴に向かって放たれる。
「無駄よ」
波動が、まるで存在しないかのように千鶴を通り抜ける。
「さて」
千鶴が微笑む。
「みんなには、ちょっとした贈り物があるの」
光の粒子が、それぞれの前に集まっていく。
俺の前には、より深い青色の風が。
凛の前には、金色に輝く新しい瞳が。
沙織の前には、虹色に輝く新しいページが。
美奈子の前には、八つ目の札が新たな輝きを放って。
竜二の前には、赤い炎が形を変えて。
狐堂先生の前には、緑の光が結晶となって。
母の前には、紫の霧が形を成して。
<理道>の前には、銀色の光が固まって。
「これは?」
「理の果ての先にある可能性の欠片」
千鶴が説明する。
「ねぇ」
突然、沙織が声を上げる。
「なんか、急に歌いたくなってきた」
「えっ?」
「あ、わたくしも!」
美奈子が続く。
「なんか、すっごくポップな感じの!」
「おいおい」
竜二が呆れた顔をする。
「こんな場面で何言って……って、うわ、俺も」
次々と、不思議な高揚感が全員を包み込んでいく。
「これは」
狐堂先生が目を細める。
「古い言い伝えに、『理の果ての先には歌がある』という話が……まさか」
千鶴が嬉しそうに頷く。
「そう、新しい世界を作る力は、想いの共鳴から生まれるの」
「はっ! 馬鹿な!」
剛志が大声で否定する。
「そんなふざけた……唔っ」
彼の口から、思わず鼻歌が漏れる。
「あー! やっぱり父上も!」
凛が指差して笑う。
「うわ、剛志のやつ、マジ音痴!」
竜二も大笑い。
「こ、これは一体……!」
その時、氷の結晶が虹色の光を放ち、美しいメロディを奏で始める。
「さあ」
千鶴の声が、まるで歌うように響く。
「新しい世界の扉を、みんなの力で開きましょう」
突如、空間全体がステージのように変化していく。
「えっと、これって本当に」
俺は少し困惑する。だが、その時凛が俺の手を取った。
「颯馬先輩、一緒に!」
彼女の笑顔に、心が躍る。
「クセの強い展開だけど、まあいいか!」
俺たちの力が、歌となって空間に満ちていく。
【蒼嵐】と<幽明霊瞳>が共鳴し、まるでスポットライトのように輝く。
八つの力が重なり合い、新しいハーモニーを奏でる。
(確かにこれは、ちょっと恥ずかしいけど……でも、不思議と心地いい)
歌と光が織りなすシンフォニーの中、最後の扉が姿を現し始める。
だがその時。
「待ちなさい!」
突如、空間を切り裂くような声が響き渡る。
光の渦が乱れ、歌が途切れる。
現れたのは、まるで宇宙そのもののような存在。
「私こそが、理の果ての先にある……本当の支配者!」
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