第46話 母の遺志、娘の決意
保健室のベッドで、凛は静かな寝息を立てていた。額に浮かぶ汗を拭いながら、俺は彼女の言葉を反芻する。
(第五の扉……それは何を意味しているんだ?)
「む〜、頭が重い……」
凛が目を覚ました。
「大丈夫か?」
「はい……でも、変な夢を」
その時、保健室の扉が勢いよく開いた。
「おーい! 大変だよ!」
沙織が飛び込んでくる。<記録の書>を抱えた彼女の後ろから、美奈子と竜二も続いた。
「もう少し静かにできないのかよ」
竜二が顔をしかめる。
「うるさいわね。竜二こそ、なんでついてきてるのよ」
「ふん、妹のことだから心配に決まってるだろ」
照れ隠しのような強がりに、美奈子がクスリと笑う。
「あら、ツンデレって本当にいるのね」
「誰がツンデレだ!」
「まあまあ」
沙織が二人の間に入る。
「それより、これを見て!」
広げられた<記録の書>には、新しい文字が浮かび上がっていた。
『八つの鍵は、八つの試練の場所に隠されている。だが、その扉を開くには、相応しい「資格」が必要となろう』
「資格?」
俺が首をかしげる。その時、美奈子の八つ目の札が光を放った。
「ああ、分かりました」
彼女の表情が明るくなる。
「八つの試練で、私たちが得たものがその『資格』なんです。例えば、わたくしの場合は……」
八つ目の札が宙に浮かび、光の文字を描き出す。
【記憶解放】
「なるほど!」
沙織が手を叩く。
「私なら……」
<記録の書>が開かれ、ページが輝く。
【真実顕現】
「俺は……」
右手に青い風が渦巻く。
【蒼嵐浄化】
「凛は?」
問われて、凛は静かに目を閉じる。<幽明霊瞳>が淡く光る。
【霊境透視】
「つまり、八つの鍵は、それぞれの能力に応じた場所に……」
その時、突然室内が揺れた。窓の外を見ると、紫色の空から光の筋が降り注いでいる。
「あれは!」
狐堂先生が保健室に駆け込んでくる。
「<混沌の探求者>たちが動き出したようだ。彼らも鍵を探している」
「先生、第五の扉って……」
凛の問いに、先生は複雑な表情を浮かべる。
「八葉千鶴さんが最後に研究していたものだ。理の果ての先にある、未知の可能性」
「お母さんが……」
「ただし」
先生は真剣な表情で続ける。
「それを追究しようとした彼女は、突如姿を消した。そして、理の根源さえも警戒するほどの危険性を秘めていると言われている」
「でも、きっと」
凛が静かに、しかし強い意志を込めて言う。
「お母さんには、何か理由があったはず」
その時、美奈子が急に立ち上がった。
「あっ! 分かりました!」
八つ目の札が激しく明滅する。
「最初の鍵の在り処が!」
全員の視線が彼女に集まる。
「<玄武>様が見せてくださった場所……<氷雪の社>!」
「氷雪の……待てよ」
竜二が眉をひそめる。
「賢樹家の古文書にも出てきた場所だ。北海道の奥地にある神社で、常に吹雪に包まれているという」
「そう! そして、その神社には……」
美奈子の言葉が途切れる。窓の外で、突如巨大な影が現れた。
「あれは……<玄武>様!」
巨大な神獣が、紫色の空を背景に悠然と浮かんでいる。その姿は荘厳で、見る者の心を打つ。
「招かれているのね」
沙織が<記録の書>を開く。新たな文字が浮かび上がる。
『北方の守護神は、第一の鍵への道を示さん。されど、その試練は過酷なり。心して挑むべし』
「よし、決まりだな」
俺は立ち上がる。
「でも、このメンバーで大丈夫かな?」
凛が心配そうに言う。
「あ、それなら」
狐堂先生が口を開く。
「私も同行しよう。それに……」
その時、廊下から静かな足音が聞こえた。
「私も行くわ」
「母さん!?」
背筋を伸ばして立つ蒼宮楓の姿に、俺は目を見張る。
「1級退魔師として、そして母として、あなたたちの力になりたいの」
楓の瞳が強い意志を宿して輝く。
「それに、八葉千鶴さんとは昔の知り合いでね。彼女が何を考えていたのか、私にも気になることがあるの」
「おおっ、心強いわね!」
沙織が笑顔を見せる。
「これで……」
その時、突然保健室全体が強い光に包まれた。
「なっ!?」
目を開けると、そこには……。
「まさか、あなたまで!?」
狐堂先生の声が震える。窓際に立っていたのは、かつて理の果ての守護者として俺たちの前に現れた存在。しかし、その姿は以前とは違っていた。
まるで、人の形をしているかのように……。
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