第42話 新たなる世界
理の果ての光が環境圏に溶け込んだ瞬間、予想もしない現象が始まった。凛の体が、まるで万華鏡のように七色の光を放ち始めたのだ。
「凛!」
駆け寄ろうとする俺を、美奈子が制した。
「大丈夫です。これは——」
その言葉通り、凛の表情には苦痛の色はない。むしろ、深い感動に包まれているようだった。
「見えます」
彼女の声が、空間に響き渡る。
「母さんの見ていた景色が……全て」
その瞬間、環境圏全体が大きく波打ち、新たな形を形成し始めた。それは単なる三層構造ではない。理の根源と理の果ての力が溶け込んだ、まったく新しい世界の姿だった。
「これが、八葉千鶴の——」
鳳学院長が言いかけたその時、凛が静かに首を振った。
「違います」
彼女の声には、強い確信が込められていた。
「これは、私たち全員が作り上げた世界です」
その言葉に、空間全体が共鳴するように震えた。
「確かに」
賢樹剛志が、珍しく柔らかな表情を浮かべる。
「八葉千鶴の夢を超えて、新しい未来を——」
黒い門からも、『幽世帝』の声が響いた。
「我が娘よ。お前は本当に——」
その時だった。突然、環境圏の中心で、第四の層が激しく輝き始めた。
「あれは!」
理の番人の老婆が、目を見開く。
第四の層から、無数の光の糸が放たれ始めたのだ。それは人の世界と妖魔の世界、そして調和の層を、優しく、しかし確実に結びつけていく。
「なるほど」
美奈子が微笑んだ。
「これが、本当の『環境圏』なのね」
その通りだった。光の糸は、まるで生命の網目のように三つの層を包み込み、それでいて各層の独立性は完全に保たれている。
「颯馬先輩」
凛の呼びかけに、俺は我に返った。
「見えますか? この世界の可能性が」
「ああ」
俺の【蒼嵐】が、自然と反応する。青い風が、新しい環境圏に溶け込んでいく。それは、まるでこの新しい世界を祝福するかのように。
「面白い」
学院長が、珍しく楽しそうな表情を浮かべた。
「理を超えた先に、より深い理が待っていたとはな」
その言葉通り、環境圏は単なる世界の形ではなかった。それは生命そのものように、呼吸し、成長し、そして——
「進化する理」
老婆が、感嘆の声を上げる。
「これこそが、真の答えだったのか」
凛は静かに頷いた。
「人と妖魔は、永遠に別々の存在です。でも——」
彼女は、環境圏に手を伸ばす。
「分かち合える想いがある。そして、その想いが新しい可能性を生む」
その瞬間、驚くべき光景が広がった。環境圏の中で、無数の光の種が芽吹き始めたのだ。
「これは!」
美奈子が声を上げる。
「新しい物語の種」
「そう」
凛は微笑んだ。
「この世界は、まだ始まったばかり。これからどんな物語が紡がれていくのか——」
その時、突然の変化が起きた。環境圏全体が、まるで鼓動を打つように震え始めたのだ。
「大丈夫か!?」
俺が心配する前に、凛が答えた。
「はい。これは——」
彼女の【幽明霊瞳】が、より深い光を放つ。
「世界が、目覚めようとしているんです」
その言葉通り、環境圏は生命体のように脈動を始めていた。それは恐れを感じさせるものではなく、むしろ希望に満ちた鼓動だった。
「さぁ」
美奈子が、八つ目の札を掲げる。
「新しい世界の扉を、開きましょう」
全員が頷いた瞬間、空間全体が眩い光に包まれた。そして——
***
「ふぅ」
伏見稲荷大社の境内で、沙織が深いため息をついた。
「みんな、無事でいてね」
彼女の手には、見覚えのある古い巻物が握られていた。その表面には、不思議な文様が浮かび上がり始めている。
「これは……まさか!」
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