第11話 隠された真実
「座りなさい」
学院長の声は、いつもより低く重かった。俺と凛は言われるままに椅子に腰掛ける。
「まず、君たち二人の活躍を称えたい。数多くの特級魔、上級魔を倒せたのは、紛れもなく君たちの力だ」
その言葉に、俺は少し安堵した。
「しかし」
学院長の目が鋭く光る。
「
「え……?」
凛の小さな声が、静寂を破った。俺は思わず彼女の方を見る。凛の表情には、不安と戸惑いが浮かんでいた。
「どういうことですか?」
俺は凛を守るように前に出て尋ねた。学院長は深いため息をつき、立ち上がってゆっくりと窓際へ歩み寄った。
「【
学院長の声が、重々しく響く。
「当時、その力を持つ者は『境界を見る者』と呼ばれ、現世と
「境界を見る者……」
凛が自分の目に触れる。その仕草には、どこか儚さが感じられた。
「しかし」
学院長が続ける。
「【幽明霊瞳】の使い手は、やがて人間と妖魔、双方から狙われるようになった」
「なぜです?」
俺の問いに、学院長は振り返って真剣な目で俺たちを見つめた。
「残されている記述を総合する限り、【幽明霊瞳】の力が強大すぎたことのだろう。その目は、世界の真理を見通すことができ、現世と
俺は息を呑んだ。そんな力が、凛にあるのか。
「ですが」
凛が小さな声で言う。
「私にはそんな……」
学院長が言葉を継ぐ。
「今の賢樹さんは、まだその力の一部しか使えていないのだろう」
学院長はゆっくりと立ち上がり、書棚から一冊の本を取り出した。その表紙は擦り切れ、文字も掠れている。
「これは、平安時代末期の記録だ」
学院長が本を開く。ページからは、かすかに古い紙の匂いが漂ってきた。
「その時代、現世と幽世の境界が最も薄くなった。多くの妖魔が現世に流れ込み、世は混沌を極めた」
俺は息を呑んだ。歴史の授業で習ったことだ。あの時代、退魔師たちは必死の戦いを強いられたという。
「そんな中、一人の少女が現れた。彼女は妖魔の本質を見通す目を持ち、退魔師たちを導いた。その目が……【幽明霊瞳】だ。そして、これは記録に残されている最後の境界を見る者を記した本だ」
「え……」
凛の声が震える。学院長が開いたページには、凛の目ににた紋様の描画と、古い文字が記されている。
「彼女の力は、単なる霊視能力ではなかったそうだ。妖魔の真の姿を見抜き、その弱点を見出し、妖魔の持つ力そのものを理解する力だった」
「力を……理解する?」
俺は思わず聞き返した。学院長は頷く。
「そう。そして、その力には代償があった」
凛の体が、わずかに震えるのが見えた。
「彼女は、徐々に妖魔の力に侵食されていったのだ」
「え……?」
俺は思わず立ち上がった。
「じゃあ、凛も……!」
「落ち着きなさい、蒼宮君」
学院長の声に、俺は我に返って座り直した。
「蒼宮君が心配するように、【幽明霊瞳】は危険な力だ。そのため、最後の境界を見る者は、自らの命と引き換えに力を封印したとされている。『真の継承者が現れるまで、この力は眠り続ける』と言い残して」
俺は凛の方を見た。彼女は震える手で、巻物の文字を見つめている。
「私が……継承者……?」
「賢樹さんには酷かもしれないが、その可能性が高い、と言わざるを得ない。千年の年月で封印が緩んだ、という可能性も考えられはするが、可能性は低いだろう」
学院長の言葉に、部屋が静まり返った。
「そして」
学院長は俺の方を向いた。
「蒼宮君、君の【
「え?」
「【幽明霊瞳】の使い手には、必ず『風使い』が寄り添っていたという記録がある。風の力で霊力を操り、【幽明霊瞳】の使い手を守る存在……」
俺は驚いて凛を見た。彼女も同じように俺を見つめ返している。
「つまり、私たちは……」
「そう」
学院長が頷く。
「君たち二人は、千年の時を超えて再び出会った運命の組み合わせなのだ」
俺は言葉を失った。凛との出会い、互いの力が呼応し合うこと、すべてが運命だったのか。
「しかし」
学院長の声が、一層厳しくなる。
「それは同時に、大きな危険が迫っているということでもある」
「危険……」
俺の呟きに、学院長は重々しく頷いた。
「退魔協会の中に、この力を狙う者たちがいる。彼らは千年前の力を復活させ、現世と幽世の境界を操ろうとしている」
「そんな……」
凛の声が震える。俺は思わず彼女の手を握った。
「だから」
学院長が真剣な眼差しで言う。
「君たち二人には、特別な訓練を受けてもらう」
「特別な……訓練?」
「そう。この学院には、特殊な能力を持つ者たちの力を開花させるための秘密の場所がある。そこで……」
その時だった。執務室の窓が、突然大きく揺れた。
「なっ……!」
俺たちが驚いて立ち上がった瞬間、窓ガラスが大きな音を立てて粉々に砕け散った。
「危ない!」
俺は咄嗟に凛を庇い、【蒼嵐】を展開する。
煙が晴れた時、そこには一人の人影があった。
「久しぶりですね、学院長」
聞き覚えのある声に、俺は思わず目を見開いた。
「お前は……!」
学院長の声が、怒りに震えている。
窓際に立つ人物は、ゆっくりと俺たちの方を向いた。その瞳には、妖しい光が宿っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます