第10話 最強コンビ、始動!

 爆発音が鳴り響く中、俺と凛は学院の中央広場へと駆け込んだ。そこで目にしたのは、まさに戦場と化した光景だった。


「なんてこった……」


 思わず呟いてしまう。あちこちで退魔師たちが特級魔や上級魔と戦っている。建物の一部は崩れ落ち、至る所に霊力の残滓が漂っている。


颯馬そうま先輩、あそこ!」


 凛の声に、俺は視線を向けた。広場の中央で、おおとり学院長が巨大な特級魔と対峙していた。


「行くぞ、凛!」


「はい!」


 俺たちが駆け出そうとしたその時、俺の耳に見知った声が飛び込んでくる。


「おーい、颯!」


 振り向くと、そこには幼なじみの沙織の姿があった。彼女は数人の生徒たちと共に、中級魔や下級魔たちと戦っていた。


「沙織!大丈夫か?」


「なんとかね。それより、あんたたち無事だったのね!良かった……」


 安堵の表情を浮かべる沙織。しかし、その瞬間、彼女の背後に妖魔の刃が忍び寄っていた。


「危ない!」


 咄嗟に【蒼嵐そうらん】を放つ。青い風が妖魔を包み込み、一瞬で浄化した。


「ありがと、颯。相変わらず格好いいとこ持ってくねー」


 沙織がウインクする。俺は少し照れくさそうに頭をかく。


「いや、俺だけじゃないよ。凛のおかげでもあるさ」


「え?凛ちゃんの?」


 沙織が不思議そうな顔をする。その時、凛が前に出た。


「私……力が使えるようになったんです」


 凛の目が、薄く光る。沙織は驚いた表情を浮かべた。


「霊視がすごかったのはその瞳の能力なのね。でも、その瞳……見たことないわ。颯、もしかして凛ちゃんの瞳って希少な霊眼なの?」


「ああ。たぶん、【幽明霊瞳ゆうめいれいどう】だと思う」


「ゆうめい、れいどう?……え、あの【幽明霊瞳】?嘘でしょ!?」


 会話をしながらも周囲の中級魔や下級魔への攻撃を止めなかった沙織の動きが止まる。動きが止まった沙織を狙い、飛び込んできた下級魔に霊撃術を当てながら、俺は首を軽く左右に振る。


「いくら緊急事態でも嘘や冗談で口にできるもんじゃないだろ。文献に残されてた、紫に橙と青が混ざったような美しい色の中に浮かび上がる、無数の星のような煌めきを持つ瞳という【幽明霊瞳】の特徴には合致している。確証はないけど、特級魔の弱点を見通せたことは事実だよ」


 俺の言葉に、凛が小さく頷く。沙織は目を丸くした後、にやりと笑った。


「へー、てことは凛ちゃんが見通して、颯が浄化することができる、と。二人で組んだら最強コンビね!」


「おい、沙織!」


 俺は慌てて否定しようとしたが、凛の頬が少し赤くなっているのが見えた。


「おっと、まだ戦いの最中だったね」


 沙織が笑いながら言う。


「颯、凛ちゃん。二人とも気をつけてね。学院長のところに行くんでしょ?」


「ああ。沙織こそ、無理するなよ」


「はいはい。ほら、行きなさいよ、最強コンビさん!」


 沙織の冗談めいた言葉に、俺は少し恥ずかしくなった。しかし、不思議と心強さも感じる。


「行こう、凛」


「はい、颯馬先輩!」


 俺たちは再び走り出した。途中、いくつかの妖魔の群れと遭遇したが、凛の【幽明霊瞳】と俺の【蒼嵐】の連携で次々に浄化していき、難なく突破していく。


「なあ、凛」


 走りながら声をかける。


「さっきの沙織の話、どう思う?凛さえよければ、俺と組んでもらえるとありがたい」


 凛は少し驚いたような顔をしたが、すぐに小さく微笑んだ。


「素敵だと思います。私……颯馬先輩となら、どんな妖魔にも立ち向かえる気がします」


 その言葉に、俺は胸が熱くなるのを感じた。


「ありがとう!改めてよろしくな」


「はい!」


 二人で笑い合う。その瞬間、目の前で大きな爆発が起こった。


「くっ!」


 咄嗟に凛を抱きかかえ、結界術で身を守る。煙が晴れると、そこには鳳学院長が、巨大な特級魔に押され気味になっていた。


「学院長!」


 その姿に、俺は焦りを感じる。


蒼宮あおみや君、賢樹さかきさん!」


 学院長が叫ぶ。


「危ないから近づくな!」


 しかし、俺たちの足は止まらない。


「学院長、私たちに任せてください!」


 俺の声に、学院長は驚いたような顔をした。


「何を言っている!君たちはまだ……」


 その時だった。特級魔が俺たちに気づき、巨大な腕を振り下ろしてきた。


「はぁっ!」


 俺は全力で結界術を放つ。地面から青く半透明の鎖が伸び上がり、特級魔の腕を固める。


「なにをするつもりだ!?」


 学院長が驚きの声を上げる。凛が前に出た。


「私が……弱点を見つけます!」


 凛の目が、強く輝き始める。【幽明霊瞳】の力だ。


「賢樹さん、まさか……」


 学院長の声に、俺は頷いた。


「はい、凛の力が覚醒したんです。そして……」


 俺は凛の隣に立った。


「俺たちが組んだら最強なんですよ!」


 その瞬間、特級魔が再び攻撃を仕掛けてきた。


「颯馬先輩、左上です!」


 凛の声を聞いた瞬間、俺の体が動いた。霊撃術が凛の指示した場所を直撃する。特級魔が大きく後退した。


「凄い……!」


 学院長の声が聞こえる。しかし、俺たちに反応している暇はない。


「次は右下、そして……」


 凛の指示に従って霊撃術を繰り出す。特級魔の動きが、明らかに鈍くなってきた。


「もう一息です!妖魔の喉元を狙ってください!」


 凛の声に力強く頷き、俺は残りの霊力を振り絞った。


「はぁぁぁぁ!」


 蒼い風が渦を巻き、特級魔の頭、特に喉元を包み込む。


「やりました!」


 凛の声と共に、特級魔の姿が霧のように消えていった。


「はぁ……はぁ……」


 俺は膝をつき、大きく息を吐く。隣では凛も同じように息を切らしている。


「君たち……」


 学院長の声に顔を上げると、彼は驚きと喜びの入り混じった表情で俺たちを見ていた。


「まさか、こんな力を……」


「はい」


 俺は立ち上がり、凛の手を取った。


「一応プロ退魔師とその弟子ですからね」


 凛も小さく頷く。その瞬間、周囲から歓声が上がった。気がつけば、多くの生徒や教師たちが俺たちの周りに集まっていた。どうやら俺たちが浄化した特級魔が最後だったようだ。


「やったぞ、蒼宮!」


「凛ちゃん、すごい!」


「最強コンビ、万歳!」


 歓声の中、俺は少し照れくさそうに頭をかいた。隣では凛が頬を赤らめている。


「颯馬先輩……」


 凛の声に顔を向けると、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。


「これから、よろしくお願いしますね」


「ああ、こちらこそ」


 俺は凛の手をぎゅっと握り返した。この瞬間、俺たちの絆がより強固になったのを感じる。


「蒼宮君、賢樹さん」


 周囲の盛り上がりがひと段落し、俺たちが解放されるのを見計らっていたのだろう。いつの間にか離れていた学院長が声をかけてきた。彼の表情は、先ほどまでの喜びから一転、厳しいものになっていた。


「二人とも、この後、私の執務室に来なさい。話がある」


 その言葉に、俺と凛は顔を見合わせた。いったい何だろうか。


「颯馬先輩……」


 凛の声が少し震えている。俺は彼女の手をもう一度握り締めた。


「大丈夫だ。俺たちが組んだら最強だ。何があっても、一緒に乗り越えられるさ」


 凛は小さく頷いた。


 しかし、その時は知る由もなかった。学院長の執務室で待っていたのは、俺たちの想像を遥かに超える事実だったということを。

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