43:休息したい!


 タイゾウダンジョン十四階の探索から、どうにか帰還した僕たち。

 さすがに疲れが抜けず、数日は休息日となった。


「おいお前ら、ほどほどにしておけ」

「はーい」


 カイとマッキーは、休息日なので休息に出掛けた。

 そう。

 三日間休むと言ったら、二人で汽車に乗って麓の街アオハに出掛けてしまった。

 とりあえず、普通の宝箱の装備品はすぐに換金できたので、その金で二人の私服を買うと言っていたが、表向きの理由なのは誰でも分かる。

 アオさんは一言、「避妊しろ」と告げた。

 僕も同じ思いだ。



「聞けば聞くほど無茶苦茶なボスだな」

「無茶苦茶だった、マジで」


 僕とリンは事務所に出掛け、ボノさんに例の黒い巨人の情報を伝えた。

 既に先輩パーティからは話を聞いていたので、僕たちはどうやって倒したかという点を話した。

 とはいっても、悪霊憑きの刀改めセイリュウがいたから、二度目の咆哮に耐えた。それだけだ。


「とどめを刺した技は…、言いたくないか?」

「言いたくないというか、再現できない。あの刀のおかげだ」

「ふぅむ…」


 あの技はリンとセイリュウの合体技で、僕はただ振り抜いただけ。

 だから全部セイリュウに押しつけた。

 しゃべる刀というトンデモ武器なら、何が起こっても不思議じゃない。実際、僕自身だってセイリュウのことなんて何も分からない。


「シモン。どうするの? ご飯食べる?」

「その前に行きたいところがある」


 人通りの少ない日中の街で、事務所の向かいの建物へ。

 そこはアオさんの石像を祀る教会だ。


「こんにちは、どこのケガでしょうか?」

「いや、お参りに来た」

「そ、そうですか。それは感心なことです」


 受付には紫色の衣装を着た女性がいた。

 僕たちは冒険者っぽい地味な作業服なので、お参りだとは思われなかったようだ。

 僕とリンは、誰もいない長椅子に座って、渋々石像を見た。

 改めて眺めると、悲しいほどにそれはアオさんだった。アオさん…というか、コンビニ商会の伝説のアオイ様だ。


「リンは自分の親を拝むんだな」

「別人です」


 なんか怒られてしまった。

 まぁ当たり前か。

 相変わらず扇情的な石像だけど、隣から監視されているのでさすがに興奮はしなかった。

 まぁそれ以前に、中身がアオさんだと思ったら百年の恋も冷める。いや、アオさんの本当の姿はあり得ないくらいの美女なんだ。それは間違いないんだが――――。


「樹里様を拝んだつもりになればいいと思う」

「うーむ」


 女神の身体を引き継いだのが樹里様だから、リンの言い分は筋が通っている? いや、樹里様にはまったく似てないぞ。

 二人ともすごいスタイルだったけど、樹里様はもっと童顔で…って。


「い…痛い痛い痛い」

「シモンが悪いこと考えた」


 ………。

 左腕を思いっきりつねられた。

 悪くないだろ?

 僕はただ冷静に目の前の像を分析しただけだ。うむ。たぶん。おそらく。


 多少の邪念が混じったことはさておき、アオさんは女神の敵だった。その見た目を真似させたのは、きっと樹里様の教会への嫌がらせだろうな…と、何?

 リンの顔が目の前だ。近いって。


「いいこと思いついた」

「却下」

「シモンって意地悪?」

「絶対にろくなことじゃない」


 困ったことに、リンは悪戯好きだし毒舌だと僕は知っている。

 女神像にも引けを取らない顔面に襲われても、僕は騙されない…って、やっぱり近い。


「みんなでシモンを拝みましょう」

「さあ帰ろう」


 僕は不幸の女神かよ。

 立ち上がろうとしたら腕をつかまれてしまう。


「別に冗談じゃないから。…シモンと一緒にいると、普通じゃないことばかりだし」

「死にそうな目に遭ってばかりだ」

「それもシモンがなんとかしてくれる」

「僕にそんな力はない」


 リンがどう思おうが、僕の不幸が周囲に多大な迷惑をかけているのは事実だ。

 それに、セイリュウは勝手にしゃべりだしたし、リンたちと一緒じゃなければ死んでいた。何も評価されることなんかない。


「カイとマッキーほどの力はないし、何よりリンがいるから、僕みたいな初心者が十四階まで行けた」

「セイリュウを振るのはシモンだよ」

「それだって奴に言われるままだ」

「シモンじゃなかったら、しゃべってくれない」

「リンなら大丈夫だろ」

「大丈夫じゃない」

「え?」


 思いっきり腕を引っ張るリン。

 いや、その…、当たってるんだけど。


「シモンは格好いい。忘れないで」


 …………。


 腕をつかまれたまま、二人は教会を出た。

 体格差があるので、僕はまるで親に引っ張られる子どものようだ。



 忘れないさ。

 生まれて以来、言われたことのない言葉なんだ。

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