42:共闘の果て


「あ…」


 なんだか温かくて柔らかい感覚。

 あれ? 布団で寝て…。


「おはよう、シモン」

「え? あ、ああ、おはよう…って!?」


 気がつくと、目の前にリンの顔。

 というか、僕はリンに膝枕されていた。


「わ、悪い」

「いい。シモンがいなかったら全員死んでいた」

「そうだぜ。うらやまけしからんが仕方ないぜ」

「………」


 ラサさんがものすごい悪い笑顔でこっちを見ていたので、慌てて身体を起こす。


「いたたたた…」

「無理するな兄弟」

「そうだよー、シモンはリンといちゃいちゃしてたらいいのよー」


 全方向からからかわれても、僕の身体は動かない。

 全身筋肉痛。

 セイリュウを振っている時は気づかなかったが、自分は相当に無理をしたようだ。

 いや、無理させられたのか。



「それで…シモン。事前の約束は約束だが、さすがに全部は受け取れない」

「遠慮しなくていい、ラサさん。僕がいたから巻き込まれたんだ」

「それで納得はできないから、金色の箱二つはそっちで開けてくれ」


 とんでもないボスだけあって、倒した後に見つけた宝箱はなんと六つ。しかも金色の箱が三つあった。

 僕もカイたちも、先輩パーティに全部譲ることを了承していたが、結局僕たちは金色二つを受け取ることになった。


「じゃあ頼んだ。僕は動けない」

「ならシモンの代わりにあーしが開けてあげるよー」

「頼んだ、マッキー」


 そうして六つの箱を開けると、先輩パーティが歓声をあげた。


「すげーぞおい! こんなの手に入れていいのか!?」


 一方のマッキーは、二つとも一人で開けてしまった。

 リンは僕を膝枕なので動けないし、黒い巨人の正面で衝撃を浴びたカイも疲れた様子。

 それでもさすがにカイは中身を確認したが、反応は薄かった。


「何これ?」

「お、聖遺物だぞ!」

「マジとんでもねー!」


 が、ラサさんたちが覗きこんで騒ぎだした。


 六つの箱から見つかったものは、以下の通りだった。

 普通の箱からは金貨三十枚クラスの装備品が三つ。

 ラサさんたちが開けた金色の箱は、宝石が散りばめられた剣。実用というより王侯貴族の装飾品だが、金貨二百枚は下らないもののようだ。


 で。

 マッキーが開けた箱の片方は、黒いドレス。これも宝石が散りばめられたもので、値段は分からないがかなりのもの。

 もう片方は、黒い金属製の箱みたいなものだが、まったく何か分からない。

 ラサさんたちが言うには、ダンジョンではごく稀に謎の物体が手に入る。それは聖遺物と呼ばれ、幾つかの国では専門の調査機関があるらしい。


「使い方も分からないんじゃなぁ」


 聖遺物の発見は、冒険者にとってかなりの栄誉になるらしい。

 しかし、正直僕たちはまるで興味がなかった。

 なので結局、謎の黒い箱は先輩パーティに押しつけて、金箱のドレスと、普通の箱の装備品三つを受け取ることにした。


「君たち、本当にこれでいいのか? 欲なさ過ぎじゃないか?」


 ラサさんたちも困惑していたが、僕たちには僕たちの事情というか思惑もある。

 そう。


 聖遺物が何なのか知らないけど、あれを用意したのは樹里様だろう。アオさんは面倒くさがりだ。

 つまり僕たちは、調査機関が分からないことだって当事者から聞き出せる。そう思ってしまうと、物欲が湧かなくなってしまうのも仕方ない。


 きっと樹里様は、その場で作ってしまうだろうし。




「今回は正直言って助かった。今後もよい関係でありたい」

「次は死ぬかも知れないぞ」


 結局、僕たちとラサさんたちは十四階の転移ポイントから帰還した。

 僕たちは予定通りだが、先輩パーティも予定外のお宝の処理をしなければならず、先に進めなくなったのだ。


「またお前たちか」

「また僕たちだ」


 事務所でボノさんに事情を伝えた。

 ただし、今回はただ珍しいボスに遭っただけなので事情聴取ではない。こちらの用を済ませた後、話をする程度だ。


 なお、黒い巨人の死体は置いて来た。運べなかったのだ。

 今回は九人もいるので運べただろうって? 無理だ。


 十四階の転移ポイントは、ボス部屋の奥ではなく十四階の入口にある。

 そして、黒い巨人は数百kgは余裕であったので、身体強化した上で引きずるしかなかったが、それができるメンバーはいなかった。

 当然だ。

 僕たちはほぼ全員が戦闘不能に追い込まれた。とどめを刺した僕も、その一撃ですさまじい筋肉痛に襲われ、しばらくは自力で歩けなかった。

 話を聞いたボノさんは、回収できないか検討すると言っていたので、参加は無理と伝えて自分たちの組合へ戻った。


「おう、生きてたか」

「生きてるよ!」


 アオさんは相変わらずだったが、ちゃんと建物の前で待っていた。

 なんだかんだ言って、この人は過保護だと思う。

 もちろん、過保護な会長が揃えてくれた装備と、過保護な会長がリンに教えてくれた大魔法のおかげで僕たちは生き残った。


「師匠にはいろいろ言いたいことはあるが、助かったぜ!」

「うちの師匠は弟子に厳しすぎると思うなー」

「お父様、シモンをいたわってください」

「いっぺんに言うな、お前ら」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る