35:十四階を目指せ


 三日間の予定のダンジョン攻略が、諸事情により初日で帰る羽目になった。

 帰ってしまったものは仕方ないので、下着を着替えたり荷物を整理したり、屋台で飯を食ったりした。


「お前ら、青い巨人のパーティだろ?」

「何だよあの怪物は。よくあんなもの倒したな」


 そして。

 街は青い巨人の話題で持ちきりだった。

 僕たちが倒したという情報も広まっていて、非常に居心地が悪い。何より…。


「兄弟! 俺たちのパーティ名を決めようぜ!」

「さっさと決めないとヤバいよー」


 そう。

 僕たちは「青い巨人のパーティ」と呼ばれている。

 このままだとパーティ名が青い巨人になってしまう。さすがに自分たちが倒した死体の名前は嫌過ぎる。


「一応聞くけど、どんな名前にする?」

「それを考えるのがリーダーの役目だぜ、兄弟」


 ………。

 いきなり決めろと言われて決まるわけもなく。

 リンも知らんぷりしているので腹案はなさそう。


「占って進ぜよう」

「結構です」

「えー、シモンちゃん冷たいー」


 いくら樹里様でもこれはダメだ。

 占い師モードの樹里様は、きっとろくでもない名前をつけてくれるはず。



 ということで。

 僕たちは布団で寝て体力を回復させると、ダンジョン攻略を再開することにした。


「おお我が主様、ようこそいらっしゃいました」


 九階に転移して、まっすぐボス部屋を目指すと、赤い巨人がまた土下座して出迎えた。

 ただし今回は青い巨人は現れず、そして通常ボスの赤い巨人も戦おうとしない。


「先を急ぐんだ、じゃあな」


 仕方ないので、古い友だちと別れるように挨拶して出口へ向かう。

 通常、ボスを倒さないと出口は閉じているのに、普通に通ることができた。


「シモンは主様…」

「絶対呼ぶなよ、リン」

「…………」


 なぜ「うん」と言わない?



 十階の安全地帯で装備を確認、ついでに十階についての情報を共有する。

 タイゾウダンジョンは、十階からが本番と言われるくらい魔物の強さが変わる。各階に、九階ボス並みの魔物がいて、十四階と十八階のボスはそれよりさらに強い。

 中堅冒険者の多くは、大人数でどうにか十四階は攻略できても、十八階では戦えないと言われている。


「道がなくなった…」

「外に出たみたいなんだけど」


 さらに大きな違いは、九階までのダンジョンが「魔物に遭遇するお化け屋敷」と言われているのに対して、十階からはまるで地上の景色のような広い空間に変わることだ。

 安全地帯の先を少し歩くと、なだらかな草原が広がり、遠くには森も見える。天にはお日さまも照っていて、地上に転移したと勘違いしてしまうがここはダンジョンの中だ。


「右前方に何かいる」

「ありがとう、リン」

「いい…」


 通路では魔物も一方向からやって来るので、カイを前に出す形で対応できた。

 しかし、この先の魔物はどこから襲って来るか分からない。

 岩や木々に身を隠して待ち伏せしてくるのだ。


「いるな。からウサギだ」

「やるじゃん、リン」

「あ、ありがと…」


 そこで僕たちは、アオさんと樹里様から探知魔法を教わった。

 もっとも初歩的な探知魔法は、集めた魔力を一気に拡散させ、その動きを知る。動く何かがいた場合、拡散する魔力がそこで不規則に動くというわけだ。

 頑張れば、もっと強力な探知魔法も使えると樹里様には言われたが、リン以外は初歩の魔法すらできなかった。

 まぁ…、樹里様も僕たちにできるとは思ってなかったはず。

 とりあえず、リンは初歩的な魔法なら使えるようになったので、当面は便りにさせてもらう。


「ワオーーーーン!」

「何それ~」


 そうして十階で初の魔物と遭遇。

 殻ウサギという魔物は、僕がロダ村で狩っていたウサギに似ているが身体の半分が甲羅のようなもので覆われている。

 顔の中央に縦に線が入って、左半分だけ甲羅という見た目もあれだが、鳴き声がまるでウサギじゃない。


「僕から試していいか?」

「おう、任せた!」


 この殻ウサギ、アレな見た目だが強いらしい。何より、向かって右半分にしか攻撃が通らないのが厄介だ。

 その上、あのヘンテコな鳴き声で仲間を呼ぶ。

 後続が集まる前に、目の前の一匹は倒してしまいたい。


「シャアッ!」


 倒し方は単純だ。

 これも見た目によらず好戦的で、人間を見たらすぐに襲って来る。

 必ず飛びかかるので、飛んだ瞬間に体勢をずらし、無防備な側から斬る!


「シ……」


 悪霊憑きの刀は絶好調。見事に殻ウサギを真っ二つに切断した。

 え?


「殻も切れてる?」

「ヤッバー。呪われるから近寄らないでー」

「うるせぇ。次はお前だぞ、マッキー」


 どうやら悪霊憑きの刀に、この程度の殻は意味がなかった模様。

 いろいろ聞かされて多少は理解したつもりだったが、やっぱりとんでもない武器だ。これで呪われなければなぁ。



「来たぞ!」

「五匹いる」

「分かった。マッキーは二匹、僕も二匹、あとは…」

「私…」


 最初の一匹が呼び寄せた殻ウサギは、最終的には十匹になった。

 マッキーは恐る恐る正面に立ち、飛びかかって来るところを斜めから切り裂く。彼女の短剣もなんだかんだとただの剣ではないので、やっぱり殻ごと真っ二つに。

 リンは改良型ダークショットで頭を撃ち抜く。すげー格好いい。

 ちなみに改良型というのは、出力そのままで範囲を絞って威力を上げたものだ。


「俺にも戦わせろ!!」


 最後はキレ気味に盾を投げ捨てたカイが、残った一匹を叩き斬った。

 避けずに正面から斬るって、いい加減にしろと言いたい。



 とりあえず、十階の普通の魔物なら戦えることが分かったので、探索を始める。

 もちろん、沢山の冒険者が攻略済みなので情報があるのだが、時々地形が変わってしまうのだ。


「また出た。たぶんウサギじゃない」

「あーあれねー」


 そうして二時間近くかけて、前方に何やら建物を発見。

 同時に新たな魔物も見つかった。


「おう、犬だ」

「犬だよー」


 現れたのは、まさしく犬。ちなみに魔物名は野犬。きっと樹里様は名づけに飽きていたんだろう。

 もちろん魔物なので、ただの犬とは違うはず。


「リン!」

「ショット!」


 で。

 仲間を呼ばれると困るから、まず口を封じる。

 リンも技の名を省略して、敵の顎に当てた。

 そこまでの威力はないので倒せないが、とりあえずの目眩ましにもなったので、僕とマッキーが襲いかかる。


「なんか可哀相だねー」

「そうか? 山で見つけたら狩ってたぞ?」

「シモンって意外に野性派だったんだねー」


 マッキーにとって犬は愛玩動物のようだが、ロダ村の野犬は食糧だった。

 うむ。

 やっぱり「野犬」って名前はどうにかしてほしい。



 ともかく、魔物を倒した僕たちは建物へ向かう。

 情報によれば、この先の安全地帯はだいたい小屋になっているらしい…。


「こづ……、読めない」

「わかんねーなー」


 三角屋根の立派な山小屋は、扉の上に何か書かれているが半分以上剥がれていて読めなかった。

 安全地帯の小屋に名前が必要なのかよく分からないけど、扉を開けて中に入る。

 そこは二階建で、炊事が可能な土間と休息用の板の間だけ。特に珍しいものはない。


「水場がある」

「いいじゃないか兄弟!」

「トイレもある」

「……いい」


 とりあえず僕たちしかいないので、まずは場所を確保。一階は出入りがありそうなので、二階のハシゴから離れた位置に陣取った。

 なんと布団まで備え付けだ。普通に熟睡できそう。


「先に知ってたら炊事道具も持って来たのになぁ」

「次は忘れないで」


 いや、何押しつけてんだよリン。冒険者なんだから、一度ぐらい包丁も持ってみろと言いたい。



 しばらく様子を見たが誰もやって来なかったので、携帯食を食べた後は交代で仮眠をとることにした。

 今回も組み合わせは同じで、先に僕とリンが寝る。


「なんか…組合の布団より寝心地いいんだが」

「カビてないからな」


 ヤバい、ダンジョンの中でマジで熟睡してしまいそう。

 僕はこうして気持ちよく眠りに落ちていったのだった。




 そう。

 僕たちはまだ、この山小屋の恐ろしさを知らなかったのだ。



――――――――――――――――――――――――――――――


※なお次は諸事情により端折りますぞ



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