34:鑑定されてみる


 タイゾウダンジョン九階ボス部屋に、未知のボスが出現した。

 持ち帰った青い巨人の死体は、事務所の職員などが検証している。他の組合や素材買い取りの商会などの人間も集まって大騒ぎだ。


 遭遇した当事者の僕たちは、早くも何度目かの事務所奥の部屋に通される。

 するとそこには、ジュウケンたちもいた。

 何だろう、この構図も何回目だろうか。


 ジュウケンの問題は、僕らとしてはもうどうでも良かった。

 はっきり言えば、お宝を組合に運んで、ダンジョンにさっさと戻りたいのだ。だって、三日間の予定なのにまだ初日なんだぜ。


 で。


 ジュウケンはギリギリで追放だけは免れたが、次の新人登録まで謹慎となった。

 新人登録は年に二回だから、かなり長い謹慎期間だが、追放されると戻って来れないのでかなりの温情措置らしい。

 当人はあくまで「僕たちを助けに入った」と主張した。新人を止めなかった他のメンバーにも責任があるということで、甘い判断になったようだ。


 正直、助けに入ったなんてのは言い訳だ。ジュウケンはただ、僕たちより自分の方が力が上だと示したかっただけだろう。

 だから追放を強く求めても良かったが、何度も言うがどうでも良かった。

 なぜなら、あの時の振る舞いを見てよく分かったからだ。


 講習の時に得意げにしていたわりに、まるで実力が伴っていない。

 声だけはやかましいけど、青い巨人に向かった時は腰が引けていたし、身体強化もしていない。

 結局、彼の剣は巨人に届かなかった。


 逆に言えば、僕たちはまあまあ成長していたわけだ。

 きっとダンジョン内で彼と出遭うことは、もうないだろう。



「赤いのが引っ込んで、代わりに青いのが出て来たのか?」

「はい」

「それ以外に変わったことは?」

「宝箱が増えてました」

「いくつだ?」

「五つです」


 センニチ商会の面々が去った後、改めて青い巨人について聞き取りを受けた。

 なお、青い巨人の特徴自体は、センニチ商会からある程度聞き出したという。

 彼らは、僕らが戦い始めてすぐに門の手前に到着し、チラチラとではあるが僕たちが戦っている様子を見ていた。

 そこで、僕たちがピンチになっていた…と彼らは話したらしいが、そこははっきり否定しておく。


「基本は赤い巨人と同じ戦い方だ。魔法とか厄介な攻撃はしなかった」

「なるほど。良い武具があれば戦える、と」


 代表のデンバさんは、僕たちの装備をじろじろ眺めてつぶやく。


「うちで支給されたものっすよ?」

「あの方が選んだものだろう」


 デンバさんの見立てでは、普通の冒険者の場合は盾が壊れて終わる可能性が高いという。

 カイが使っている盾は、下手をすれば宝物レベルの性能。マッキーの短剣も同じ。リンは魔力を安定させる魔道具の指輪をつけていて、これは完全に宝物の模様。


「一番はそれだぞ」

「やっぱり…」


 これだけの武具を差しおいて堂々の一位は、悪霊憑きの刀だ。

 ただし王宮に飾ったら呪われるので、国宝にはならない。良かった良かった…って、良くねぇ。


 なお、我が主の件は伝えず。

 リンの魔法による光線が刀に巻きついた件は、残念ながら目撃者がいたので隠せなかったが、深くは追及されず。

 魔法については、ある程度は隠すものだし、そもそも僕たちにもアレがなんだったのか説明できないので、すぐに話は終わった。




 事務所から解放された僕たちは、急いで自分たちの組合へ向かう。

 ちなみに、広場はさっきより人が増えていた。

 青い巨人の話が伝わり、タイゾウにいる冒険者のほとんどが集まっている模様。


「アオさん、鑑定してくれ」

「お前ら、他に言うことないのか」

「あったら迎えに来てくれよ。あれだろ、どうせ青い巨人なんて驚いてないんだろ?」

「青い…?」


 組合では、アオさんが一人で布団に寝っ転がっていた。

 一応、帰るって連絡したはずなんだが。


「師匠、青い巨人はなんなんだ?」

「うーーーーん」


 そして、アオさんは忘れていた。

 ダンジョンを作った張本人なのに、九階なんて入口過ぎてどうでも良かった、と。


「おい樹里! 青鬼なんていたか?」

「いたよー」


 で。

 適当に声をかけると、奥から樹里様がやって来た。

 例によって、あまり見たことのない服装――キモノというらしい――で、ほんわかしたボクっ娘声とまったく似合ってない、恐ろしいほどの色気。

 思わず下半身が元気になりかけて、別の方向から殺気が。

 ………。

 その眉間の皺どうにかしてくれ、リン。


「青鬼はねぇ、赤鬼が認めた奴しか会えないって設定にしたよ? ボクじゃなくてアオイがそうしたんだ」

「記憶にないなぁ」

「アオイは適当だなー」


 信じられないほど呑気に、ダンジョンの秘密を話す二人だった。



 樹里様もいるので、宝箱の装備を鑑定してもらうと、金色の箱の装備はどれも金貨百五十枚クラスだった。

 防護魔法が付与されている最高級品で、タイゾウの店では買い取れず、麓のアオハで金持ち相手のオークションにかけるレベルだ。


「お義母様、聞いてよろしいですか」

「リンちゃん、何かなー」


 そこでリンが口にした疑問。

 ぶっちゃけ、聞いてはいけなかったと思う。


「私たちの装備も宝物級だと、デンバさんが言っていました」

「別に気にせず使い潰せばいいのよ? まぁー、オークションに出したら街の一つや二つは買えると思うけどねー」

「「ええっ」」


 アオさんや樹里様にとってみれば、この程度の装備なんていくらでも作れるというけど、さすがに過保護過ぎるだろ。

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