33:レアボス倒せばウッハウハ
「すまない! こいつを抑えられなかった我々の責任だ!」
「お、俺は…」
九階のボス部屋で、謎の青い巨人と戦った僕たち。
まさかの乱入者によって危機的状況になったが、理解できない形で倒した。
青い巨人が完全に動かなくなった頃になって、ボス部屋に他の冒険者が入って来て、そして謝罪を受けた。
そこでようやく僕は思い出す。
乱入者が僕たちと同期の、ジュウケンと名乗っていた奴だったことを。
一応パーティからの謝罪は受けたとはいえ、はっきり言って全員が死を覚悟する状況だった。
僕は連絡道具を使い、まず事務所のボノさんに事件を伝えた。
ボノさんは、また僕たちが事件に遭ったというので最初は慌てていたが、現在は無事だと知ってほっとしていた。
その上で、乱入者を出したセンニチ商会所属のパーティには帰還命令が出た。当然処罰されることになる。
「お、俺はお前たちを助けようと…」
「その言い訳は無理だぜ」
「アンタみたいな弱っちーのが何するつもりだったのよ!」
「ぐ…」
ジュウケンに悪気があろうとなかろうとどうでもいい。
僕はただ、余所者が消えてほしいだけなので、乱入者のパーティにはすみやかに退場をうながした。
最初に謝罪したリーダーは不服そうだったので、僕たちだけで交渉したら問題が生じていた可能性が高かった。
ボノさんたちを敵にまわすのはさすがに嫌だったようで、どうにか彼らはボス部屋を後にした。
「さて…、みんなは動けるか?」
「おう、大丈夫だぜ兄弟!」
「問題ないよー」
「私も大丈夫」
余計な連中がいなくなったのを確認して、まずは今後について考える。
青い巨人については、目撃者がいるので隠せず、ボノさんに伝えた。なので持ち帰れるならその方がいいけど、さすがにこの大きさは難しい。
超一流冒険者の中には、大きさを無視して運べる次元収納バッグというのを持っている人もいるが、僕たちは持ってないのでどうしようもない。
「なぁ兄弟、とりあえず部屋の外に運んでおかないか? 俺たちも少しは休みたい」
「それがいいと思う。シモン」
「頑張って運ぶぞー」
「しんどいけど仕方ないか」
ボス部屋に放置したままだと、そのうち消えてしまう。
ボスの死体が消えれば、ボス部屋がリセットされて新しいボスが復活する。今の僕らに連戦する力はないので、その前にやることを……っと。
「我が主よ、見事でございます。そのお力、しかと見届けました」
すっかり忘れていた。
隠れていた本来のボス、赤い巨人が現れて再びの土下座だ。
「そ、外に運ぶからな」
「……………」
赤い巨人は何も答えない。
困惑しながらも、時間がないので四人で青い巨人をずるずる引きずった。
どうせなら助力してほしいんだが、頭を下げたままだ。
微動だにしないならまだしも、僕の動きに合わせて方向だけ変えて行くのが困る。
「お…重い!」
「重いよー!」
カイとマッキーが聞えよがしに叫んでも、やはり赤い巨人は無視。
青い巨人は、四人が揃って身体強化してどうにか動く重さ。
まぁ、激戦直後なので強化しても限界がある。元気な時ならもう少しマシだと思う。
赤い巨人は僕に反応しているので、僕はそっちを向いたまま警戒を続け、他の三人は必死に引きずった。
そうしてようやく、例の門の外に身体を出した。
以前、ここに赤い巨人の死体を引きずり出した時の記憶を思い出す。青い巨人は、門を通れるのか不安になるレベルでデカかった。
「た、宝箱を開けたいんだが」
急いでボス部屋の中に戻ると、また赤い巨人に聞いてみる。
しかし、相変わらず答えてくれない。
返事を待つわけにもいかないので、赤い巨人に向かってカイが盾で防御、リンが後ろでいつでも攻撃できる態勢で待機、僕とマッキーはそろりそろりと宝箱へ向かう。
僕が移動すると赤い巨人も向きを変えたが、攻撃はして来なかった。
「急いで開けよう」
「了解だよー」
宝箱は何と五つもあった。しかも三つは金色に輝いている。
一瞬開けるのをためらいそうになったが、時間がないことを思い出して慌てて開けた。もちろん、僕もマッキーも金色の箱から開けた。
「な、なんかすご…」
「確認は後でしよう」
「わ、分かった」
金色の箱からは、明らかに高級そうな剣、防具一式、雑多な小道具一式が出てきた。
普通の箱からも、防具が二種類。
確かめたくてしょうがないけど、状況が分からないので回収だけして、二人と合流する。
「僕たちはここを去る。邪魔しないでくれ」
「…………」
用が済んだので赤い巨人に一声かけてみたが、何も返事はない。
会話はできないとみて間違いないな。
「じゃあ僕は行くよ」
先に三人が十階側に脱出、最後に念のためもう一度声をかけ、何歩か後ずさりしてから走り出した。
そうして、無事にボス部屋を脱出する瞬間、背後から声が聞こえた。
「偉大なる我が主よ。我らはいつでもお待ち申し上げます」
…………。
恐る恐る振り返ると、赤い巨人はさっきの位置で土下座したままだった。
「ヤバいねー、シモンって偉大なる我が主なんだー」
「兄弟が遠くに行ってしまったな!」
ふざけるなよお前ら。
というか、リンがブルブル震えてるのも知ってるからな。
笑うなよ、僕にとっては一大事なんだ。
その後、僕たちは十階へ足を踏み入れた。
九階と十階の間は階段でつながっていたが、途中で何かが変わる感覚がした。
タイゾウダンジョンは九階ごとに大きく位置を変えるらしい。別にそんな感じに見えない普通の階段を降りるだけなのに、まったく別の空間に移る。その境目の感覚だった。
僕たちが十階に進んだのは、休むためだ。
十階から魔物の強さが変わるけど、階段を降りてから最初の安全地帯まではすぐらしいから、とりあえずそこまで移動する。
「見たところ敵はいないな。走るぞ」
何となく雰囲気が変わったけど、まだ十階の様子は分からない。安全地帯まではまだ緩衝地帯だと事前に調べてある。
そもそも、階段から安全地帯は既に見えていて、直線で走って十秒ほどの距離だ。
さすがに魔物が出たりはしないと思うが、残念ながら僕の不幸のせいであり得ないことばかり起こっているからなぁ。
ともなく必死になって走ったら、何も起こらず。
「やっと休めるぜ…」
「疲れたー」
辿り着いた安全地帯は、九階までと同じ平地と水場、そして奥の方にトイレもある。
他に誰もいなかったので中央に陣取ると、全員ばったり横になった。
そういう格好をしなさそうなリンすらも、横になってぐったりしている。
「あれ…置いて来ちゃったけど」
そこでマッキーがつぶやき、四人で顔を見合わせた。
「あれ」は青い巨人。ボス部屋の門の前に置いたままだ。
「戻る気力はないなぁ」
転移で運ぼうにも、九階の転移部屋はボス部屋の奥ではなく、九階入口だ。
あの巨体をそこまで運ぶ気力が湧かないし、そもそも運ぼうとすればまたボス部屋を通らなければならない。
このダンジョンの仕様として、倒したボス部屋に戻っても再び戦わずに済むことになっているが、僕たちは本来のボスである赤い巨人を倒していない。なので、戻った時にどうなるのか分からないのだ。
我が主とか言われても、襲われる可能性は十分にあるだろう。
結局、事務所とアオさんにそれぞれ連絡をとって相談。青い巨人はそのまま放置することで了承を得た。
初めての個体なので、事務所から人を送って回収するらしい。
引き取り価格も聞かれたが、そもそも自分たちで持ち帰らないので要らないと答えた。
「そんなことよりお宝の確認だな」
「テントの中でやるぞ。僕とカイは交代で監視役な」
「任せとけ。どうせお宝の価値なんて分からん」
初めて見る金色の箱の中身が気になるので、狭いテントの中でさっそく並べてみた。
そして分かったこと。
「なんか高そう!」
僕たちには、武具の鑑定ができないという事実。
考えてみたら、前回は樹里様がいたわけで。
「一度帰ろうか」
「それがいいと思う」
リンの同意もあったので、結局ボス部屋を通って九階の転移ポイントに戻り、そのまま帰った。
さっきまで悩んだのは何だって? 仕方ないだろ。
別に、あの先に進むのが嫌だったわけじゃない。単に予定外の荷物を抱えているのが面倒だったからだ。
思ったよりずっと重いし、それ以上にかさばって邪魔だ。
そんなこと最初から分かってただろうって? うるさいな、僕たちはいっぱいいっぱいで考える余裕がなかったんだよ。
心配していた九階ボス部屋は、なんの変哲もないボス部屋に戻っている。我が君とか声をかけられることもなく無事に通過、
門の外に出ると、青い巨人はまだ残ったままだった。
ついでなので、僕とカイが目いっぱい身体強化して運ぶことにした。
マッキーに前衛、リンに後衛を頼む。
女の子に護られてどうなの…とは、まったく思わなかったぞ。むしろ、マッキーが青い巨人を運ぶ方が違和感あるし。
そうして転移ポイントの辺りで、駆けつけたボノさんたちに会った。
「すいません、ああ言ったんだが荷物が邪魔なんで」
「かまわん。ボス部屋に行かずに済むのはありがたい。というか、なんだこれ」
「ボノさんも見たことないのか?」
「事務所が大騒ぎになるぞ。まぁ、既に騒ぎになってるが」
そうして一階に戻り、ボノさんたちが青い巨人を運び出す。
事務所の中に死体を入れるわけにもいかず、扉の前の広場に置いたら大騒ぎになった。
なお、すごい騒ぎになったのに、アオさんはやって来なかった。
樹里様は…、来られても困るかな。
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