32:なぜか「我が主」となり、余計な試練を与えられ
ボスを戦おうとしたら、土下座された上に「我が主」とか言われた件。
「我が主、ようこそいらっしゃいました」
「我が主って誰?」
「カイだろ? 主って感じがする」
「どういう感じだ、兄弟」
ボスが魔物ではないかも…みたいな話は聞いていたが、何が起こっているのかまるで分からない。
そして赤い巨人は何も説明してくれない。
どうやら会話ができるのではなく、向こうが一方的に話しかけているだけ。
「シモンだと思う」
「リン?」
まさかと思ったが、どうも嫌な予感がする。
試しに四人が横一列に並んでみると、赤い巨人は僕の方を見た。
「シモンだねー」
「兄弟、いつの間に」
「知るか!」
というか、前回はこんなことなかった。
どうしたらいいのか。困惑していると、いきなり赤い巨人は立ち上がった。
慌てて武器を構えるが、巨人は攻撃して来ない。
「我が主よ、ふさわしい者を用意しました」
「はぁ!?」
また意味不明なことを言った巨人は、一礼して奥に引っ込んだ。
妙に礼儀正しい。僕より丁寧な挨拶をする…と唖然としていたら、今度は奥から強大な気配がした。
「青い…」
「マジかよ…」
そう。
九階ボスの赤い巨人の代わりに、もっとデカい青い巨人が現れた。
しかも今度は土下座もしないししゃべらない。
何の冗談だ。冗談であってくれ。
「ぐぅ…、すげー力だ」
「カイ、大丈夫?」
「ま、まぁな」
こうして僕たちは、予定にない謎の巨人と戦い始めた。
青い巨人は、カイの倍以上の背丈で、丸太のような太い脚と腕をもつ。武器は持たず、カイの盾を脚で蹴ってくる。単純な攻撃だが、とんでもない威力だ。
「ダークショット!」
「行くぜマッキー!」
「任せなさーい!」
それでもカイは盾でどうにか耐えた。なので、赤い巨人相手の戦い方そのままで行く。
カイが盾で抑え、リンの魔法攻撃はダメージを与えるというよりは目眩まし。怯んだ隙に僕とマッキーが斬りつけ、すぐに引っ込む。
どの程度のダメージがあったかは分からないが、四人の連携自体はうまくいった。
「マッキー、攻撃は通ったか?」
「通ってる!」
僕の刀もしっかり肌を切り裂いた。
リンの魔法攻撃はほとんど効いてないが、今は威力より連発できる方が重要なので問題ない。
「次、頼むぜ!」
「おう。リン、盾が蹴られたらまた攻撃だ!」
「うん」
敵の攻撃が単調で、魔法や状態異常みたいな厄介な真似もしてこない。あとはカイの盾が耐えられるうちに倒せるかどうかだ。
青い巨人はまだ元気だ。
九階ボス部屋では脱出装置が使えないし、いざとなったら刀を使ってアオさんを頼る。とにかく今はやれることをやろう。
――――そんな僕たちの戦いに観客がいたことなんて、もちろん知る由もなかった。
――――――――
「お、おい何だあれは!?」
「青いぞ!?」
シモンたち四人と青い巨人が戦い始めてしばらくして、ボス部屋の門の手前に他のパーティが到着した。
それはセンニチ商会の組合所属冒険者たち六人のパーティだった。
その六人の中には、大柄な新人のジュウケンがいた。
初日の講習でシモンに因縁をつけ、講師のボノに大口を叩いた男である。
センニチ商会はきちんと新人教育をしているので、何度か低層階をまわって経験を積ませ、今日は五人の先輩冒険者がサポートしている。
ただし、ジュウケンにはそれが不満だった。
誰よりも先にダンジョン深部へ潜りたいのに、組合は自分の力を過小評価していると苛立っていた。
そして、目の前で同期の冒険者が自分より先に九階ボスと戦っているのを発見した。
「クソッタレ!! 俺が一番なんだよ!!」
「バ、バカ、やめろジュウケン!!」
先輩冒険者の制止を振り切って門に飛び込んだジュウケンは、大声で叫びながら大きな剣を振りかざして青い巨人へ突っ込んだのだった。
――――――――
「今だマッキー!」
「任せて…って、な、何!?」
ギリギリの戦い。
僕たちの誰か一人でもミスをすれば、青い巨人にやられてしまう状況で、もう一時間以上戦っていた。
そんな状況が、まさかの形で崩されてしまう。
「ウオリャァアアアアアアアアアアーーーー!!!」
僕とマッキーが一撃を食らわせて後ろに一歩踏み出そうとするタイミングで、乱入者が現れる。
デカい身体で大きな剣を構えたまま巨人に突っ込んで行く男に、見覚えがあった。
しかし、今はそんな場合ではない。
「グアアアア!」
「ゲェ!? な、なんだ!?」
リンの目眩ましが解けた巨人に、正面から突っ込んだ男は、巨人の腕で軽く払われ、後ろに飛ばされてカイの盾に衝突。
不意を衝かれたカイが尻餅をつき、盾を落としてしまった。
「ヤバい!」
「カイ!」
マッキーはカイを助けようとするが、のっそりと青い巨人は脚を上げている。
このままでは全員巻き込まれてしまう。
「リン! 倒すぞ!」
「うん」
この状況では目眩ましをしても遅い。
少し早すぎるが、リンの本気で倒すしか方法は残っていない。
ただ、彼女の攻撃魔法には本来は時間が必要だ。カイが盾で受けている間に準備を終える予定だったので、思った通りの威力が出るかは……。
「第三階梯、ヨーラク!」
仁王立ちのリンが叫ぶと、突き出した両手が輝く。
僕は上段に刀を構えたまま、わずかに身体をずらして避け、その間を光線が巨人に向かって放たれる――――――って!?
「ええっ!?」
「ぐああっ、何だ!?」
どういうわけか、リンの放った光線は青い巨人ではなく、僕が構えた刀に当たった。
ものすごい衝撃で倒れそうになったが、そんなことよりも何だこれは!?
僕が構えたままの悪霊憑きの刀に、リンが放った光線がまるでロープのように巻きついている。
リンの魔法は練習で見たことあるが、絶対こんなものではない。
しかし――――。
「よく分かんねぇが食らえ!」
悩んでいる時間はなかった。
光線が残っているなら、他にやることはない。
僕は前に踏み込んで、脚を踏み出している青い巨人に向けて思いっきり刀を振るった。
「ウォオオオオオオオオオオオーーーー!!」
そもそもが理解を超えた攻撃は、何だか知らないけど通った。
刀が青い巨人に触れた瞬間、ものすごい光とバチバチって音がして、そして巨人は叫び声をあげて倒れた。
「マッキー!」
「は、はい!!」
理解できないけどチャンスだ。
マッキーと僕は倒れた巨人に駆け寄り、マッキーが短刀を胸に突き刺す。
そして僕は、巨人の首に思いっきり刀を刺して、一気に引き抜いた。
青い巨人の首は深く抉れ、そこから黒い液体がゴボゴボと湧き出す。
僕は呆然としながら座り込み、その液体が周囲に広がっていくのを眺めていた。
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