31:謎の装備の新人パーティ


 僕たちエンストア商会の組合所属の冒険者四名による二度目のダンジョン攻略は、前回と同じ三日間の予定。

 ただし、いくつか前回と目標が変わっている。

 まず、九階ボスを可能なら複数回倒す。

 さらに、十階以降を攻略して十四階の安全地帯を目標とする。

 最後に、樹里様は同行しない。


「アオさん、普通に危険だと思うんだが」

「本当に困った時はお前が連絡役だ、シモン」

「前の時より安全だと思うよー」


 連絡用の魔道具はもちろん全員持っているが、ダンジョンの外にいるアオさんには通じない。

 アオさんが言っているのは、僕が悪霊憑きの刀の通話機能を使えという意味だ。

 しかし、あれはどう考えても最終手段なのでやめて欲しい。


 だいたい、僕たちは前回の探索で九階を攻略して攻略証も手にしたが、ボスと戦ったのは完全に予定外だった。

 それも、いざとなったら占い師さん――樹里様――が対応してくれるという条件付きだ。


「シモンは相変わらずバカだな。樹里がいたら最深部でも散歩できる。お前らの訓練にならねぇだろ」

「はい、お父様」

「師匠の言う通りだぜ!」


 ………それはそうだけど。

 占い師さんは「すごく強い」としか分からなかったが、中身が樹里様だと僕たちは知ってしまった。

 そう。タイゾウダンジョンを今の形に造り替えた本人を護衛にしたら、二十二階の記録更新なんて余裕だけど、それは反則だと思う。


「たださー、シモンのあの刀が頼りなのって、ちょっとねー」

「助けを呼ぶ代わりに呪われるんじゃねーか?」

「…シモンなら大丈夫」

「いや、この場合はリンが一番間違ってるから」


 三人ともあの刀を持てない時点で、悪霊は間違いなく憑いている。頼りにしないでほしい。




「ボノさん、手続きに来ました」

「おうシモンか! 四人パーティが組めて良かったな」

「は、はい。ありがとうございます」


 それぞれ荷物を背負って、事務所でダンジョンに入る手続きをする。

 ボノさんに指摘されるとしみじみするなぁ。

 パーティが組めないから移籍しろって言われたのに、まさかうちに三人も移籍するなんて、いろいろ信じられない気分だ。


「しかし、十四階まで行くのか。お前らだけで」

「はい。アオさんの指示で…」


 ホーリーさんと呼ぼうかと思ったが今さらだ。

 ボノさんはそれを聞いて、ちょっと首を傾げたが、「無理するな」と言って送り出してくれた。


 今期の新人で十階に到達した者はまだいないらしい。

 ただし、センニチ商会のジュウケンたちは、先輩冒険者たちと十人パーティで昨日入り、書類には目標は十四階と書かれているという。

 さすがに先を越されるだろうが、まぁ別にいいや。


「どうする? ショートカット可能になったが」

「どーんと九階?」

「五階がいい」


 何しろ人間が支配するダンジョンなので、冒険者にいろいろ便宜がはかられている。

 安全地帯や脱出道具はもちろん、なんと転移によるショートカットも可能。

 ただし九階や十八階のボスを倒して攻略証を手にするのが最低条件で、僕たちの場合は一階から五階か九階の入口に転移できる。

 なお、救助隊員以外はどれかボスを倒さないと転移で帰ることはできない。例外の救助隊員も、各自が攻略証をもつ範囲しか転移できないので、二十二階より先には行けない。


 どっちにしろ、占い師のふりをした樹里様の真似は無理だ。


「うぇぇぇぇ」

「気持ち悪いー」


 一階には攻略証を示さないと開かない扉があり、中に転移ポイントが設置されている。

 ボタンを押せと書いてあったので、一応リーダーの僕が押すと、次の瞬間には五階と書かれた部屋にいた。

 初めて転移魔法を体験したマッキー、救助された時以来のカイは蒼白な顔。僕は占い師に無理矢理転移させられたせいか、もう慣れた。


「リンは大丈夫だったのか?」

「うん」


 なぜかと思ったら、母親が転移魔法で出掛けることが多かったからだという。さすが貴族…というか、世界で三番目ぐらいの魔法使いなんだから当たり前か。


 とりあえずそのまま安全地帯に移動、そこで改めて装備を調えた。

 カイとマッキーはお揃いの軽量鎧、ムキムキの腕は丸見えだが前面はちゃんと金属でガードしている。

 頭も軽量の兜、額当て、口元にも防具を着けた姿は、はっきり言って怖い。


「リンちゃんがつけると勿体ないなー。せっかくの美貌が」

「え、えーと」

「誰に見せるんだよ、魔物か?」

「あれ? シモンだよね?」


 ……マッキー許すまじ。リンが呆れてるじゃないか。

 頭の防具は全員がつけている。リンはフードを外したので、以前より表情がよく分かる。


「なぁ兄弟! 俺って格好いい!?」

「ダンジョンで大声出すなって言ってるだろ」

「でも格好いいだろ?」

「…まぁな」


 タイゾウダンジョンに潜る冒険者は軽く数百名はいるが、見たことのない防具。

 樹里様が探してきたものは一応全部使い古しで、僕たちのサイズに合わせる作業はあった。だから誰かはこんな格好をしていたはず。

 ただ、はっきりしているのは格好いいことだ。

 皮鎧や銀色に光る金属鎧も悪くないが、これは基本的に黒い。黒いけど、兜や口元の防具は色が違う。

 カイとマッキーは揃って赤。冒険者の装備が赤いって見たことない。

 僕は暗い茶色、そしてリンはまさかのすべて黒一色。

 リンは皮鎧も黒かったし、そういう趣味のようだ。


「カイは先頭で盾、後ろに僕とマッキー、リンは後ろから」

「オッケー」

「ヤバいぜ兄弟、滾るぜ!」

「だから大声出すなって」


 カイの持つ盾は片手で持てるサイズで、真っ黒だ。

 暗闇で戦うならともかく、タイゾウダンジョンは明るいのでいろんな意味で目立つ。もしかして、僕たちは見世物になってしまうかも知れない。



「なんだあの格好?」

「すげー」


 そして、予想通り僕たちは死ぬほど目立った。

 冒険者はみんな装備にこだわりがあって、中には頭に耳がついてたり、胸当てに目が描いてたりと意味不明なものもある。

 ただ、僕たちの装備はたぶん文化が違う。どこか別の国で作られているが、道中ですれ違う冒険者は誰も見たことがないようだ。

 どこで売ってるのかと何度も聞かれたが、組合の倉庫にあったとしか答えられず。


「エンストア商会? なんだそれ?」

「お前ら、モグリか?」


 そして予想通り、エンストア商会は誰も知らなかった。

 九階の攻略証とライセンス証を一緒に見せても、まだ疑う奴ばかりだ。


「戦うより疲れるぜ、兄弟」

「同感だ」


 早く他の冒険者パーティと離れたくてしょうがないけど、九階まではだいたい一本道なので逃げられない。

 その代わり、意図せず合同攻略みたいになって、予定の半分ぐらいで九階に着いてしまった。


「謎の新人パーティ、先輩に譲れよ!」

「どうぞどうぞ」


 九階のボスとは複数パーティでも戦えるが、宝箱泥棒みたいになってしまうので普通は別々に戦う。

 エーコー商会の五人組は、装備に関してしつこかったけど、腕も立つし悪い人たちではなさそうだ。

 僕たちに先に入らせて、途中で乱入して宝箱を奪うなんてことも、冒険者ならありうるからな。


「で、私たちはどうすんのー? またアレやるの?」

「あれはさすがに…」


 例の門の手前で休憩しながら、ボス戦の計画を立てる。

 前回は予定外、しかも門に出て来たボスを外側から攻撃するという反則技で勝った。

 しかし、そもそも都合よくボスがやって来るという保証はないし、何より他の冒険者に見られると格好悪い。


「シモンなら大丈夫」

「ラブラブ~?」

「アホか。というかリンも適当なこと言わないでくれ」

「だって…」


 しょんぼりするリンに困ってしまうが、まともに戦ったこともないのに大丈夫って言われるのはもっと困る。

 もちろん、僕たちは無策でやって来たわけじゃない。

 アオさんと樹里様には、九階ボスとの戦い方を細かく教えられた。

 そして二人が言うには、とどめを刺すのは僕の役目…らしい。



 そうこうしているうちに、門の向こう側が静かになった。

 どうやら戦いが終わったようだ。


「入っていいか!?」

「おう、いいぞ!」


 一応確認して、一度ボス部屋に入る。

 すると、赤い巨人が血を流して倒れているのが見えた。


「どうだ、俺たちもやるもんだろ?」


 エーコー商会の五人組は、全員大きなケガもない模様。

 ボスを倒すまでも時間も、前回の僕たちよりずっと早い。


「余裕っすねー」

「当たり前だぜ。俺たちはこれも持ってるからな!」

「すげー、十八階!?」


 予想以上の実力者だった。

 逆に言えば、そのレベルの冒険者がなぜ九階ボスを倒すのか謎だったが、彼らも装備を変えたので、ここで試したらしい。


「君たちの戦いぶりも見てみたいが、先を急いでるので残念だ。俺はルッツ、いずれまた話がしたいがいいだろうか?」

「え、ま、まぁ話なら…」

「その装備についてじっくり話し合いたい」

「か、会長に聞いてくれ」


 最後は急に態度が改まって、逆にこっちが困った。

 まぁ別に悪い人たちじゃないんだろう。


「エーコー商会は名門だからねー」


 マッキーはエーコー商会でキャンセル待ちを希望したが断られたという。

 ちなみにキャンセル待ちの順序は、各組合ごとに決まっているが、どこに割り当てられるかはくじ引きになる。ただし今回のように講習期間中に追放されたような場合は、組合の責任ではないので特別に同じ組合から追加されるのだ。

 そう考えると、マッキーは運がいい。僕ほどじゃないが。



 五人組パーティが去って、僕たちも一度門の手前に戻る。

 すると数分で、再び赤い巨人が現れた。不思議な現象だ。


「よし、じゃあ四人で頑張ろう!」

「おう!」


 今回は四人で正面から戦う。

 各自が武器を取り、僕も悪霊憑きの刀を抜いて、赤い巨人に向き直る。

 改めて見ると、威圧感半端ない。こんな相手に勝てるのだろうか……って、あれ?


「えー?」


 威圧感半端ない赤い巨人は、おもむろに腰を下げ、そのまま土下座のポーズに。

 いや、何これマジで。


「我が主、ようこそいらっしゃいました」

「「しゃべった!!?」」


 いや、何これマジで…。

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