30:五人の事後(閑話)



※(29:人類には不可能な仲良し)は諸事情によりノクターン版のみ。

 一部会話のみ以下に掲載


――――――――――――――――――――――――――――――



 ザワート大公国の都アオハ。

 王宮の奥に立つ謎の塔の上では、今日も五人の男女が入り乱れている。

 正確に言えば、四人の女性が、一人を奪い合ったり、一緒に奉仕したりの日々である。



 アオイに担ぎ上げられるのは、五十年前に二十代で左大臣を務めたレン。リンの母親である。

 御年七十八になるが、その美貌は五十年前とまったく変わっていない。

 体力もその頃のままなので、離れようとはしない。

 そんなレンを無理矢理引き剥がして、元右大臣のハルキ、元大将軍のリオが順番にアオイに抱かれる。

 もちろんこの二人も七十代後半になるが、見た目も中身も二十代のままだ。


 ちなみにかつてのレン、ハルキ、リオの三人は、普通の人類の範疇にあった。

 幼少期より膨大な魔力をもち、大公国の顧問のコバンによって英才教育を受けたものの、アオイに会うまでの三人は、非常に優秀なだけの「人類」だった。

 しかし、五百年間にわたって異世界で修行を積んだアオイが三人を女にした時、手加減なしに力を注ぎ込まれた三人も人間をやめてしまったのだ。

 現在の三人は、不老ではないが老化の進行が遅くなった。

 放っておけば五百年程度の寿命だが、今もアオイに定期的に注ぎ込まれているので、実際には老化が止まった状態にある。



 アオイは異世界からこちらに戻った際、なぜか身体が女性化して、男性器のみ残った状態になってしまった。

 なので、服を着ていれば絶世の美女にしか見えないが、当人の意識は男なので基本的に女性としての行動はしない。



――――――――――――――――――――――――――――――


※以下が30話。わずかに修正


――――――――――――――――――――――――――――――



 結局、ほぼ一日かけて五人は滅茶苦茶に暴れ回った。

 ようやく一息ついてのティータイム。



「娘をよろしくお願いします。……アオさん」

「よし、じゃあ俺もお前を摂政様って呼ぶ」

「そんなー…」


 リンの母親のレンは、五ヶ国連合軍に攻め込まれていたザワート大公国を立て直した上に、かつて魔王オーリンが支配した帝国域の大半を従属させた切れ者。

 ハルキ、リオと合わせて、巷では三大女魔王などと畏れられている。

 本物の魔王の夫人なので、その呼び名も全く的外れというわけではなかったが……。


 三人は数年前に揃って隠居、名前だけの顧問に落ち着いている。

 あまりに力を持ちすぎると政情不安を招くため、大公の代替わりを機会に表舞台を退いたが、今でも陰の支配者として詣でる者は後を絶たない状況である。


 そんな女傑たちに子どもが欲しいと言われたアオイは、二十年以上待たせた上でようやく認め、三人が順番に出産した。

 一番上位にいたレンは子作りも最後になり、ようやく身籠った子がリンであった。


「うちの子も育ててほしかったです」

「同じく、アオイ様に今からでも厳しく接していただきたいと…」

「できないと分かって言うな。カケルもナナも爺が立派に育てただろ」

「それはそうですが…」


 ハルキの息子はカケルで、現在三十歳。リオの娘のナナも同じく三十歳。

 二人は大公国顧問のコバンに名づけられ、英才教育を受けた。

 当人たちは世襲を望まなかったが、その優秀さのため既に揃って大臣の地位にある。


 冒険者を目指すと言わなければ、リンはその二人以上のスピードで大公国の中枢に出世するはずだった。



 なお、コバンは五百年前に魔王オーリンに仕えた生き残りで、魔王の帰還に備えて大公国の人材を育てていた。それがレン、ハルキ、リオであった。

 鈴木葵としてアオイが暮らす世界で人気の高かった名前を名乗らせた三名は、知勇ともに優秀なだけでなく、アオイの好みも条件に入れていた。

 背が高く胸の大きい女が好きらしいからと、貴族ではなく市井を探しまわってふさわしい三人を集め、コバン自身が養子として二十年近く育成したという。


 もっとも、アオイが魔王オーリンだった時代に、背が高く巨乳の女を好んだというのは、正確な情報ではなかった。

 当時の魔王オーリンは2mを超える巨体であり、平均身長の女性では小さすぎた。

 また魔王には各地から、従属の証として女性が献上されていた。「好みの女性」とは、その際に魔王の機嫌を損ねない相手だが、知らない女を献上される側には細かい注文ができず、結果として長身巨乳というアバウトな基準が生まれたのである。


 そして――――。

 異世界から帰還したアオイは、かつての魔王時代を超える力を得ていたが、どういうわけか身体がほぼ女性になってしまう。

 上背も30cm低くなって、コバンが頑張って育てた三人と逆転する結果に。

 ただし、元々背丈などアオイにとってはどうでも良かった。

 異世界で出逢った樹里がデカかったせいで、身長差が逆転したこともあり、なんやかんやのうちに三人は無事にアオイの側室となった。


 コバンと三人にとっては、樹里という正室が別にいることだけが予想外だった。

 もちろん、この事態を一番予想していなかったのはアオイ本人だが。



 アオイが最初に出逢った頃の樹里――当時の名はシリ――は、そもそも男女のどちらなのかすら謎の存在だった。

 両性具有ではなく、恐らくは性がなかった。

 あの星の人類を逸脱した、超越者とでも呼ぶしかない者だったのだ。


 女神を倒す力を求めたアオイにとって、そんな超越者との出逢いは願ってもない理想的な展開だったが、一つだけ予想外の事態が起きた。

 サッタのシリが、いつの間にか女性になった。

 それは性を失った超越者が、異世界の超越者に出逢ってしまったという、あり得ない出来事の帰結であった。


 俗世の欲にまみれたアオイ――鈴木葵――は、その魅力によって訶室樹里という怪物を生んでしまう。

 そんな怪物を放り出して、期限が来たからといって元の世界に戻ったアオイに、樹里はとうとう怒り狂った。

 すべての戒を破った怪物は、アオイの跡をたどって異世界へ渡り、そこにいたアオイの宿敵を一瞬で葬り去った。

 女神の悪意が消えて世界は平和になったが、アオイは女神以上の強敵を抱えることになったのだ。


 現在も、アオイは樹里、レン、ハルキ、リオを妻として抱き続けているが、樹里と他三人には明確な序列がある。

 三人、そしてコバンも、樹里が女神のように悪意をまき散らす者ではないと理解しているので、この状況を受け入れている。

 ――――いや、この表現は正確ではない。


 アオイと樹里の仲に介入すれば、樹里は世界を滅ぼしかねない。

 それどころか、アオイが浮気した瞬間に破滅が訪れる。

 レンたちは、アオイが「五人目」を捕まえないために日々努力している…らしい。




「そろそろ戻るか。樹里はどうする?」

「あの子たちがダンジョンに入ったら、ボクは巡回に出るよー」

「おう、よろしく」


 そうして、いつもの長い長いプライヴェートが終わる。

 レン、ハルキ、リオは隠居とはいえ大公国の重鎮で、今も予定が詰まっている。

 アオイと樹里は、支配下に置いたダンジョンを巡回するのが本来の任務で、エンストア商会に滞在するのはついでに過ぎない。

 とは言え、冒険者を受け入れた現在、アオイは常駐せざるを得なくなった。

 分身を使ってごまかすこともあるが、リンが加わったこともあって組合に本体がいるのがほとんどである。


「ねーアオイ。……そろそろボクも子どもがほしいよ」


 樹里がつぶやく。

 アオイは苦笑いのまま手を振った。


 伝説の姉妹として誰もが知るアオイと樹里。「姉妹」と勘違いされたことは、「元魔王」と「女神を奪った女」という素性を隠すのに都合が良かった。

 それだけに、ほとぼりが醒めるまで子どもは作らないと決めているのだが、リンを可愛がるようになった樹里は、そろそろ我慢の限界に達しつつあるようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る