28:アオイちゃんと樹里は責任をとった(閑話)


※一部修正版。なお次の29は欠番予定。完全版はノクターンに連載しています。



――――――――――――――――――――――――――――――



 元魔王のアオイと、女神を乗っ取った樹里。

 元魔王は倒すべき敵を失い、乗っ取った樹里はアオイが既に他の女に手を出していたので怒った。


 そうこうあって、樹里は三人の女に上下関係を叩き込み、無事にアオイと男女の関係になった。

 一年後には無事に「世界一性行為をした女」となった。


 こちらの世界に帰還した時点で、既に女神を上回る力をもっていたアオイと、そんなアオイが畏れるほどの樹里は、百時間連続など数々の新記録を樹立したが、もちろんこれらの記録を認定する機関は存在しない。

 するわけあるか。



 そんな二人がコンビニ商会という適当な名前で自称商人となり、ダンジョン攻略に乗りだしたのは、今から五十年前のこと。

 エーコー商会の代表シキと二人が会談した時に、樹里は「タイゾウダンジョン産の素材を扱う」と言った。

 半分は口から出任せだったが、二人にとってダンジョン産の素材入手など容易いので嘘でもなかった。


 そもそもタイゾウダンジョンは、魔王オーリンが異世界で修行する際、タイゾウ山に遺していった強大な力を奪うために、女神が無理矢理作ったものである。

 いい加減な性格の女神が作っただけあって、それはダンジョンと呼ぶのも恥ずかしいレベル。

 シキなど商人は高く評価しているものの、実態は単に魔物を飼っている穴でしかなかった。


 自ら中に入って、その杜撰さに呆れたアオイと樹里が、ただ素材を入手するだけで満足できるはずはなく、会談の数日後にはシキにとんでもない報告が届けられた。

 樹里がシキに宛てた手紙に書かれていたのは、「ダンジョンを支配した。改造するから手伝ってくれ」という内容だったのだ。


 大慌てでシキは樹里への返答をしたため、自らもタイゾウダンジョンのあるザワート大公国へ向かった。

 最近まで近隣五ヶ国に攻め込まれていた大公国は、連合軍の撤退とタチマ王国の事実上の従属で落ち着きを取り戻していた。

 そしてシキが見る限り、タイゾウダンジョンで何かがあったという情報は皆無だった。


 タイゾウダンジョンは、すべてのダンジョンの中でも屈指の難易度で、危険過ぎて滅多に人も立ち入らない。従って、一般の公国民の関心は低い。

 もちろん、過去にはダンジョンから魔物が逃げ出して被害を与えたこともあったので、常に治安部隊が監視しているが、そちらは機密情報になる。

 無駄に情報収集するより、現地に行くべきと判断したシキは、馬を手配して山道を急いだ。


 そして――――。


「なんだ、早かったな」

「さすが大商人だねー。ボクもびっくり」


 タイゾウダンジョンの入口に辿り着くと、ただの洞穴だったはずの入口には立派な門が取りつけられている。

 そして、門の前の広場には見たこともない魔物の死体が積み上げられ、汗一つかいていないアオイと樹里がシキを発見して笑っていた。

 豪華な衣装を身にまとった美人姉妹。

 商人にすら見えない二人は、人類が束になっても瞬殺される強者なのだ。


 シキは、アオイと樹里の素性をある程度はつかんでいた。

 正確に言えば、樹里については何も情報がなかったが、アオイが五ヶ国連合軍を撤退に追い込み、ザワート大公国の実質的な王であるという情報を得ていたのだ。

 それでも彼は、自分が声をかけた相手がどれほど恐ろしい存在なのかを、今さらのように実感して震えるしかなかった。


 今まで、中の魔物を倒した記録すらほとんどないタイゾウダンジョン。

 しかし女神を倒したアオイと樹里にとっては、朝飯前の準備運動にもならない難易度。自分たちが倒した女神が、アオイ自身の力を使って強化しただけの魔物など、元より敵ですらない。

 最初の二つの檻は普通に歩いたが、その先は面倒になって樹里が一撃で終わらせた。

 素材を売却する目的があるので、すべての魔物の神経だけを切断、穴の前に死体を転移させた。

 すべての死体は時を止めているので、新鮮で傷一つない状態である。


「あの…、この扉はいったい?」

「格好いいでしょ? やっぱり見た目も大事だと思わない?」


 着物姿の樹里が笑顔を見せると、シキはそれだけで頭がくらくらした。

 もっとも、眩暈がしたのは彼女の美貌のせいだけでなく、非常識な状況が次から次へと語られていくためである。


 二人はダンジョン内の魔物を一掃しただけでなく、女神が適当に用意した檻などもすべて撤去した。

 その上で、「ダンジョン」の名にふさわしい場所へと改造を始めていたのだ。


「ダンジョンを経営!? ほ、本気なのか?」

「その方が商売になるでしょ? アオイもそう思うよねー」

「まぁ商売は勝手にすればいい」


 商人を名乗っておきながら、勝手に商売しろというアオイ。

 シキはその瞬間に覚悟を決めた。

 他のすべてを投げ出しても、この二人に協力すべきであると。



 その後。

 シキは、知り合いもそうでない者も合わせ、多くの商会に声をかけてダンジョンの共同経営をもちかけた。

 最初こそ反応は鈍かったが、一ヶ月後には十二の商会の代表がザワート大公国の都アオハに集まり、ダンジョン経営の組合設立を決めることとなる。


 アオイと樹里は、面倒な経営をシキに丸投げして、めぼしいダンジョンを次々と攻略しては勝手に改造していた。

 ダンジョンが突然姿を変えたという情報は、やがて世界中に広まり、冒険者や商人、そして各ダンジョンのある国を震撼させた。

 コンビニ商会の謎の美人姉妹は、国の総力を挙げても全滅必至の強力な魔物を、たった二人で倒してのけた。その力が自分たちに向けば…と、ザワート大公国以外の諸国は、否応なしにダンジョン経営組合への支援を申し出たのである。


 なおザワート大公国は、別の意味でダンジョン経営組合に便宜を図っている。

 アオイは五ヶ国連合軍の侵攻を退けた当事者で、しかも国の中枢である左右大臣と大将軍が揃ってアオイと関係をもっており、元から二人の支配下である。

 それ以前に、五百年前から側近だったコバンが顧問として居座っているのだ。


 コンビニ商会という名ばかり商人を名乗ったのは、アオイと樹里の側から大公国への影響力を薄めようとした結果であった。



「す、すみません。結局娘もダーリンのお世話に…」

「レンちゃん、謝るならボクに譲ってよ」

「いえいえお姉様。お詫びに私がいつもより丁寧にしなければ」

「お前らいい加減にしろ」


 それから五十年。

 丸投げした当事者たちは、五十年前と変わらぬ形で日々愛しあっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る