20:九階ボスをはめ殺し
ダンジョン九階のボス部屋前。
目印となる門の手前でのんびり休憩していたら、なぜか門の前までボスがやって来た。
というか――――。
「な、なんか乗り越えようとしてない!?」
「やべぇ!」
赤い巨人は棍棒を振り回しながら、ボス部屋入り口の門に激しく接触する。
ものすごい音がして、揺れる。
いやいや、どう考えてもまずいだろ。
「た、頼む!」
「占い師さん!」
僕とリンが大声で叫ぶ。というか、リンの大声って初めて聞いた。
「はいはい…、相変わらずだねぇ、シモン」
まったく気配を感じなかったが、声をかけたらすぐに現れるフードババァ。
いや、今は助けてもらう立場だ。できれば占い師さんと僕も言いたい。
が。
「僕のせいだと言うのか!」
「そうさ」
当然僕は抗議するが、占い師は平然と答えた。
「シモン。お主が不幸なのは偶然ではない」
「いやいや何を言って…」
「身体の中の魔力を見つけたか?」
「えっ? ……ま、まだはっきりとは」
「それはお主に取り憑いた呪いだ」
「の、呪い!?」
わけの分からない話に混乱しかけて、カイの大声で我に返る。
「そんなことより、魔物が!」
「何を慌てておる。お主ら、さっさと攻撃せい」
「え?」
「こ、攻撃するっす?」
何を言ってるんだ…と思ったが、占い師ババァは門の手前で端に避けた。
そして赤いボスは、相変わらず門の所でもがいている。
マジで? 攻撃?
「リン。魔法で攻撃してくれ」
「う、うん」
「で、僕たちが襲われたら助けてくれよ? 頼れる占い師さん」
「お姉さんと呼べ」
「それはちょっと…」
近距離からいきなり攻撃するのは怖い。離れた位置から、まずは攻撃が通るかどうか確認すべきだろう。
リンには申し訳ないが、本人は引き受けてくれた。
「ダークショット!」
「ギェエエ!!」
「効いた!?」
そうしてリンが放った一撃は、確かに巨人を直撃した。
相手の肩に当たり、衝撃で巨人は手にしていた棍棒を落としてしまう。
「行け、秘伝突き!」
「ギイイ!!」
「これも効いた!?」
カイが剣を突き刺すと、これもちゃんと脇腹に刺さる。
秘伝突きの意味は分からないが、どうやら攻撃できるのは間違いない。つまり…。
「ギェエエエ!」
「ここにおびき出せば、安全な場所から一方的に攻撃できるのか!?」
「ギアアアア」
「ずるくない!?」
「ずるいわけあるか!?」
赤い巨人は、僕たちの攻撃にほとんど反応せず、ただひたすらに門の外に出ようともがく。
なぜそこまで必死なのか分からないが、おかげで弱点を晒しまくり。門の結界さえ維持されていれば問題なかった。
もちろん、僕たちの攻撃では、なかなかボスは倒せない。
マッキーの短剣が刺さったまま抜けなくなった時は、慌てて三人がかりに引き抜いた。普通に対峙していたら、あの瞬間に戦線は崩壊していたはず。
「ギィエエエエエエエエ!!!」
「マジ?」
「……信じられない」
四人で交代しながら、たぶん一時間近くかかったが、とうとう巨人は断末魔の声をあげ、そのまま倒れて動かなくなった。
「こっちへ引っ張り出すのじゃ。倒されていれば出せる」
「は、はい!」
そのまま放置していると、ボスの身体は消えてしまう。そして、消えたら数十分で復活するが、ボス部屋の外に出せば復活までの時間が延びるらしい。
占い師に言われるままに、巨人の身体を引きずって動かす。
一人ではできず、首にロープを巻き付けて四人で引っ張ったら、巨体はあっけなく門のこちら側に抜けた。
あれだけ門で暴れていたボスを引きずり出せたということは、ボスは間違いなく死んでいる。
僕たちは四人で九階ボスを倒したのだ。
「すげえ、すげえよ…」
その後。
ボスを倒した扱いなので、門をくぐってボス部屋を確認した。
タイゾウダンジョンは九階ごとに違った場所に移動する構造なので、最初のエリアを攻略したことになる。
ボス部屋の一番奥には宝箱が二つ、そして人数分の攻略証があった。
「すげえ…」
そして、カイはさっきから同じ台詞ばかりつぶやきながら泣いている。
隠れて見えないが、リンももしかしたら泣いてるかも知れない。
取り残された二人にとって、反則技とはいえ自分たちで倒したというのに思うところはあるんだろう。
「ヤバいよシモン、攻略証っすよー!」
「誰が用意したんだろう」
「今そんなこと考えるって変態っすよー!」
「誰が変態だ、マッキー」
初めてのダンジョン攻略でいきなり攻略証。マッキーがはしゃぐのは分かる、僕もたぶん、二人が泣いてなかったら普通に喜べた。
ただ、立派な攻略証にちゃんと四人の名前まで入っている。いくら人間が管理下においたダンジョンだと言っても、違和感あり過ぎだ。
どうやって僕たちの名前を知ったんだろう。ライセンスのない人が攻略したら、名前のない攻略証が出て来るのか?
「宝箱は誰が開ける? カイとリンでいいか?」
「二人でいいっすよー」
「す、すまない」
そしてお楽しみの宝箱。これも九階、十四階、十八階のボスを倒さないと手に入らない。
とはいえ今回は全くの予定外だし、泣いてる二人に譲ることにした。
が。
「……シモン。一緒に開ける?」
「え?」
思いも寄らない提案から、それぞれ二人で開けることに。
カイとマッキーは仲良く手をつないでいるし、何だかなぁ。
「じゃあ開けるぞ。せーの!」
僕の合図で、二つの宝箱を開けた。
僕の手とリンの手も重なってしまい、ちょっとドキッとしたのは内緒だ。
「おお! 何か高そう!」
「他に言うことあるだろ、マッキー」
「えー」
僕とリンが開けた箱には、黒く光る鎧。
カイとマッキーの箱からは、長い槍が。どうやって入ってたのか謎だ。
「占い師さん、どんなものか知ってたら教えてくれ」
「ふむ……、まぁそんなものか」
たぶん知ってると思ったので聞いてみると、知ってるどころじゃないレベルで解説してくれた。
黒い鎧は通称が黒龍の鎧。売却すれば金貨三十枚のまあまあな武具らしい。
槍は大赤槍で、こっちは金貨二十枚。
「お主らなら売れば良かろう」
「え? 金貨三十枚ってことは使える防具だろ?」
「何を言う。お主は自分の装備の価値も知らぬのか」
そこで知った事実。
引退者や死人の持ち物だったという、ガラクタの山みたいなところで見繕った装備は、ものすごく高級だった。
「リン以外の防具は金貨百枚でも買えんぞ」
「マジか!?」
「え、やば…」
ちなみにリンの装備は実家で揃えたもので、新人の装備としては破格の性能。その破格の防具が金貨五十枚相当なのに、僕の薄汚れた装備が一番高価で金貨百五十枚以上って。
「もしかして、一番高いのは…」
「そいつに決まっておろう」
占い師に指差され、思わずため息をつく。
悪霊憑きの刀。物が物なので買い手を選ぶが、金貨五百枚以上の価値があるらしい。
まぁ確かに、ボス並みの魔物が近寄れない武器だからなぁ。
「兄弟。……それ、売るか?」
「いや、僕のものじゃないから」
心配しなくとも、きっと売れないと思う。
値段を聞いたカイとマッキーが鞘を抜いて、数秒しか耐えられなかったのには笑ったけど。
僕は毎日五分は振る。十分で死ぬって言われてるから、まぁ余裕だ。
もちろん、アオさんがいる所でしか振らないから心配ない。
あ、ちなみに魔物と戦ってる間は死なないらしい。一時間振り回したんだから間違いない。倒した瞬間に鞘にしまったけどな。
そうして、僕たちは帰ることにした。
九階ボスの死体も、持ち帰ればかなりの金になるらしいが、四人でやっと引きずれる重さを運ぶのは無理なので、最後に門の中に放り込んだ。
「伝説のアイテムがあったらなー。兄弟、帰ったらまた二階探すぞ!」
「あんな所に埋もれてるわけあるか」
「いや分からんぞ兄弟! 師匠ならありうる!」
「………まぁ」
カイがいう伝説のアイテム、それはどんな大きな物でも運べるという次元収納バッグだ。
ダンジョンのあるザワート大公国の王宮に、宝物として納められているという話は聞いたことがある。
まぁアオさんがどれだけ非常識でも、さすがにそんな国宝級のアイテムを放置はしないと思いたい…。
その後。
なんだかんだと疲れがたまっていたので、もう一度五階の安全地帯で大休息をとり、三日目の昼前にダンジョンを出た。
姿を隠す理由もなくなったので、帰路はずっと占い師が一緒に歩いた。
途中ですれ違った冒険者は、どう見ても冒険者とは思えない怪しい者が同行しているので不審な目を向けていた。
ただ――――。
占い師を知っている人は誰もいなかった。
おかしい。
普通に道端に座ってる怪しい人なのに。
「占い師さん。一つ聞いていいか?」
「なんじゃ」
事務所前で別れる時、気になったことを聞いた。
「門に呼び寄せて戦えば、誰でもボスを倒せる。それって、みんなやってることなのか?」
そう。
ボスが門をくぐれないことは誰でも知っている。だからあの戦い方ができれば、誰だって安全にボスを倒せてしまうのだ。
なのに九階ボスが強敵扱いされるっておかしい…と言うと、占い師は答える。
「お主ら以外にやった者はおらんぞ」
「え?」
占い師が言うには、そもそも門まで巨人がやって来たという話がないらしい。
「じゃああれは…」
「シモンの不幸の力じゃ」
まさか…と言いたくなるが、声が出ない。
「不幸を呼び寄せる力も、扱いようによってはメリットがある」
………そんな無茶な。
あれも僕のせいだって? まさか。
「占い師さん」
「なんだね、リン」
その時、僕の隣でやり取りを聞いていたリンが占い師を呼び止めた。
「シモンの呪いを教えてください。それと…」
………。
「私は貴方を知っている気がします」
「ほう」
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