18:ダンジョンの中で男女二人きり、何も起こらないはずもなく
僕にとっては初めてのタイゾウダンジョン探索。四人パーティを組んで九階を目指すことにした僕たちは、無事に一日目の予定を終えて五階の安全地帯で一晩を過ごしている。
「どうしたの? シモン」
「い、いや…」
で。
女の子と二人きり。
リンは僕より背も高いしきれいだし魔法も使えるし、将来はきっと上位の冒険者になる。
それに大貴族だ。住む世界が違う。
意識する理由なんて何もないけど、女の子と話したことのほとんどなかった僕はやっぱりビビってしまう。
仕方ないだろ? リンはいつも顔を隠しているけど、食事の時には素顔を見せるし、訓練では上着を脱ぐ。
ものすごい美人だし、スタイルもすごい。気にするなって言われても無理だ。
「な、なあリン。……聞いていいのか分からないが、お前って貴族なんだよな? 貴族が冒険者になるって珍しいよな?」
「………うん」
無言になるのが怖くて思わず話を振ってみる。
振っていい話なのか分からなかったが、とりあえずリンは怒ってはいないようだ。
「お父様に会いたいから」
「え?」
………マズかったと気づいたが、もう遅かった。
リンは貴族の娘だけど、事情があって父親は公表されていないらしい。
だからといって酷い目に遭ったことはなく、それどころか将来は女性当主の座が決まっている。
そして、父親は死んでないし普通に母親と仲良くしている…と。
「ごめん、途中から理解できなくなった」
「いい。私も分からない」
はっきりしているのは、父親にとって母親は第二夫人であることと、本当の姿がよく分からないことの二つだという。
第二夫人の話は、貴族じゃない僕には最初から理解できないからいいが、本当の姿って何? 貴族の世界ってこんなに違うのか?
「貴族にはいろいろある。でも本当のお父様に会いたい」
「………そ、そうなのか」
「うん」
リンの父親が昔冒険者をしていたことは、本人に聞いたので間違いないらしい。
ただ、リンの母親を第二夫人にするくらいだから、父親も間違いなく貴族なのに、それらしい冒険者の話はまったくない。
「えーと、………会ってるのに会いたいんだよな? つまり、リンが知ってるお父さんは本当の姿じゃない? それは魔法かなんかで姿を変えてるってことでいいのか?」
「分からない…けど、たぶん」
ちなみに、姿を変える魔法はいくつかあるらしいが、どれも伝説級の大魔法だ。
リンの話が本当なら、それだけの魔法を使う父親が無名なはずはない。
「それで………、リンはお父さんが好きなんだな」
「うん。……すごくお節介、心配してくれる」
………。
アオさんみたいな人だな。
そういえば……。
「なぁリン。あの占い師のことは知ってたか? 向こうはリンを知ってるような…」
「い…」
「本人がいるのに隠れて噂話とは呆れたものさ。これだから不幸のシモンは!」
「げっ!?」
いきなり現れた占い師のフードババァ。
僕はもちろんだが、リンもビクッと肩が動いた。心臓に悪いからやめてほしい。
「いたのかよ」
「見守って進ぜよう」
………確かにそう言ってたけど、今までまったく気配も感じなかった。
この人が敵だったら、人生諦めるしかなさそう。
「リンよ、お主に不幸は取り憑いておらぬ」
「アンタに何が分かる」
「分かる、分かるぞ」
ダメだ、話が通じない。
とりあえず、さっさと視界から消えてほしい。ババァがいるだけで僕は不幸だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます