17:新人四人組のダンジョンデビュー(占い師付)


 四人で初めてのダンジョン探索へ。

 そのはずなのに、一階で怪しい占い師女に待ち伏せされていた。

 いや、カイとリンにとっては命の恩人なんだけど。


「あの…、何か用か?」

「不幸を見定めに来たぞ」

「帰ってくれ」


 余計なこと言うなよババァ。


「不幸って何?」


 リンたちも気にし始めたし、最悪だ。



「シモンって逆にすごいんじゃね?」

「マッキーは騙されやすい奴だな」


 結局、僕がいかに不幸だったかを語る羽目になったが、三人の反応は微妙だった。

 冒険者募集に間に合わなかったのは寝坊だから自分のせいだし、むしろ遅刻したのにマッキーより先に冒険者になれたわけだし。


「あいつらの件は、バカが脱出装置を忘れただけだろ? 兄弟のせいじゃない」

「シモンは悪くない」


 一階隠し部屋でオーガに襲われた事件は、ダンジョン始まって以来初というトンデモな出来事だった。

 もちろん脱出に失敗した理由は、カイとリンが言うとおり、ナカジに脱出装置を奪われたためだが、その場にいた二人に言われると、ちょっと気恥ずかしくなる。


 そんなわけで、僕たち四人はフードババァを無視して進むことにした。

 僕を勝手に不幸男にしたと三人は怒っている。

 ただ、僕自身はフードババァにそこまでの悪感情はない。フードババァって呼んでる時点で悪感情はあるけど。

 僕が不幸なのはロダ村にいた頃からだし、何よりこの人は怪しいけど強いし、当人も別に邪魔をするわけじゃないから気にしなくてもいいだろう。


「あんな強いのに、なんで占いなんてやってるんだ?」

「占い師さんって強いのー?」

「マッキー、あの人は冗談みたいに強い。九階ボスを結界で潰したぜ」

「何それ!? わけわかんない」

「見てた俺たちだってわかんねぇ。一瞬だった」


 カイが頑張って伝えようとしてもマッキーに伝わらない。

 そりゃそうだ。僕だって理解できない。

 あの時、リンが高価な魔道具で結界を発動していたが、結界は発動後に動かせないのが常識だ。リンが魔法を習った先生もそう言っていたらしい。

 それに、九階からダンジョンの外に転移したのもあり得ないんだ。ダンジョン講習で「できない」って教えられたんだぞ?


 どうせなら魔法を教えてくれたらいいのに、と思う。

 僕にはできそうもないが、もしかしたらリンならいけるんじゃないか。魔法の指導って、それだけで貴重らしいし。


 そう。

 カイとリンがうちに移籍した理由は、アオさんの指導が受けられるからだ。

 どこの組合でも、所属冒険者への技術指導はしている。魔法についても組合内での講習とか、先輩からの指導はあるらしい。

 僕は、そんな余所の組合をうらやましく思っていたが、リンに確認したら実情はまったく違っていた。


 たとえば、身体強化の方法は「体内に魔力を行き渡らせろ」だ。当然、体内魔力のない者には教えようがない。

 攻撃魔法の多くは、その人の資質で使えるのであって、教えることはできないとも言われたという。何も教わらなかった、という方が正しい。

 ついでに言えば、スプレム商会の組合所属冒険者が五十人ぐらいいたが、魔法に関してはリンが一番上といっても過言ではなかった模様。

 まぁ僕にとっては、それだけ優秀なリンが仲間になってくれて嬉しい。


 アオさんって、何の説明もなく悪霊憑きの刀を持たせるような人だけど、僕も今は余所の組合に移ろうとは思わないな。



 占い師の横やりはあったが、四人パーティは動き出した。

 一応、最初は僕とカイが前衛でリンが後衛。マッキーはまだ冒険者になって日が浅いので、リンと並んで歩く。カイは盾を使うので手ぶら、荷物は残り三人で背負う。

 まぁ、僕よりマッキーの方が前衛向きだと思う。

 むしろ、僕って必要なんだろうか…と。


「行くぜオーク!」

「お、おいカイ」


 二階に移動すると、初めての魔物と出会う。

 カイはオークと叫んでいるが、目の前にいるのは通称コオク。子どもオークと呼ばれる小さな猪みたいな魔物である。


「行け、ストロングハンマー!」

「だから何だよその意味不明」


 構えていた盾を放り出して前に飛び出したカイは、アオさんがガラクタの中から発見した剣を一閃。コオクの首筋に深く切りつけた。

 さすがに経験者だけあって、動きはいい。叫び声がなければ…と、僕の前にも一匹。


 怖い。


 コオクはタイゾウダンジョンで一番弱い魔物で、その辺の素人でも倒せると習った。

 確かにそれは強そうではない。

 だけど、僕に対してはっきり殺意を向けている。


「兄弟、心配ないぞ」


 ………急に意味の分かること言いやがって。

 一度深呼吸して、刀を抜く。


 抜いたら構えて、一呼吸で斬る。


「やった…」

「おめでとう、シモン」

「ちっこいのにやるじゃん」

「あ、ああ。というか、ちっこいって言うな」

「えー」


 悪霊憑きの刀は、あっさりコオクを両断した。

 今さらだけど、呪いがなければ相当な武器だ。

 それと――――、ちっこくねーから。こいつらが大きすぎるだけだからな!


「やったー、これであーしも冒険者になった!」

「良かったな、マッキー」

「筋肉先輩のおかげっす!」


 ともかく、せっかくの弱い魔物なので、マッキーにも戦わせた。

 マッキーは大きな身体をムキムキに鍛えているが、アオさんが選んだのは短剣だった、

 短剣で的の小さい敵に届くのかと思ったけど、コオクの突進をうまく交わしながら斬りつけて勝利。


「リンはどうする?」

「気にしなくていい」


 魔法攻撃が使えるリンは、カイと一緒に九階まで進んだ経験があるので、コオクに関しては手を出さなかった。



 そうして四人パーティは、特に苦戦することもなく五階の安全地帯に到着した。

 三階からはカイがしっかり盾を構え、僕がメインのアタッカー、マッキーが遊撃の体制に変えた。

 リンの出番はほとんどなかったので、三階と四階のボス戦では新しく覚えたという魔法を試してもらう。


「どう…かな」

「すごいすごい、はね返される~」

「はね返されるぜ!」

「遊ぶなよ」


 四階ボス戦の後にリンが披露したのは、なんと結界魔法。

 以前九階で使っていたのは、実家から持たされた魔道具だが、占い師ババァの魔法を見た後にアオさんに頼んで教わったのだ。

 で。

 四人の周囲に透明な壁が生まれ、カイとマッキーがぶつかっても壊れない。


「うわぁっ!!」

「限界…」


 と、遊んでいた二人が地面に投げ出された。

 結界魔法は維持するために膨大な魔力が必要だ。リンはまだ外部の魔力を少ししか取り込めないので、自力で維持できるのは数分程度らしい。


「リンはやっぱりすごいな。将来は大魔術師だ」

「そ…そんなこと、ない」


 思わず素直な感想をもらしてしまったら、大きな身体を縮ませるようにうつむくリン。照れてるのが分かって、逆にこっちも恥ずかしくなった。

 でも、これは正直な思いだ。

 アオさんの教え方もいいんだろうけど、数日で高度な魔法を使いこなしてしまうリンには感心するしかなかった。



「どうする? 男女一緒に寝るっす?」

「寝ないっす」

「シモン、真似するなっす」


 リンの魔法披露も終わって、五階安全地帯での大休息になった。

 正直、初めてのダンジョン探索で僕は興奮していて、今はまったく疲れも感じない。

 だけど、絶対に身体は疲労しているので、しっかり寝ろとアオさんに釘を刺されていた。


 ここは安全地帯なので、魔物の襲撃はない。だから持参したテントで普通に眠ればいいんだが、実際には必ず寝ずの番をするらしい。

 要するに、人間対策だ。

 タイゾウダンジョンでは、冒険者同士の争いは堅く禁じられているが、それでも襲われる例は少なくないと講習で聞かされた。

 ちなみに、リンの魔法を試した時は僕たちしかいなかったけど、その後は次々に冒険者がやって来た。

 ただし、ここで大休息するパーティはいない。普通の冒険者は、行けるだけ先に行って休むので、五階で止まることはないのだ。



 で。


「男女一緒に寝るのかよ」


 四人が二交代で見張りをすることになった。先にカイとマッキーが仮眠をとり、僕とリンが寝ずの番。

 女性と男性に分けた場合、寝ている女性を起きている男性が襲う可能性がある。不本意だが僕たちもまだ知り合って間もないし、警戒するのは当然だ。

 何の抵抗もなく、カイと同じテントに入っていくマッキーにはちょっと呆れたが。


「シモン、よろしく」

「ああ、よろしく頼む。リン」


 何だよ、こっちも二人っきりじゃないか。




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※例によって本作もノクターンに同時連載中です。ということは18禁ですが、最初の0話以外は何も修正していません。今後は泣く泣くカットする場面もあるけど、何しろ薄いもので…。

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