14:占い師との救出劇


 スプレム商会所属の五人組冒険者パーティが、ダンジョン九階まで潜った。

 メンバーには、初心者のカイとリンが混じっていたのに、三人の先輩は気にせずボス戦に挑んだ。

 ところが、その場に十階より先で現れる魔物がやって来て、五人組は討伐に失敗。先輩たちは脱出し、新人二人は取り残されたという。


「お前らの処分は後だ。まずは救護隊を向かわせる」


 ボノさんたちが慌てている。

 あの二人は、この街で初めてできた友だちだから、僕もどうにかしたい。

 だけど、まだダンジョンに入ったこともない僕には何も……。


「まったく、お主の不幸はたいしたもんじゃ。周りの者まで巻き込むとはのぉ」

「な、何を!?」


 どこかで聞いた声がして振り返ると、煤けたフードの怪しい女がいた。

 というか、デカい!? 見上げるほど身長差あるんだが…って、そんなことどうでもいい。


「何言いやがる! こんな時に占いごっこかよ!」

「ごっこではないぞ。お主の不幸は本物じゃ」

「だから何だよ! 僕が悪いって言いたいだけか!?」


 こんな女と口論しているうちに、二人は死んでしまうかも知れない。

 一刻を争うというのに、どうでもいい話で絡んでくる女に本気で腹が立った。


 が。


「お主の不幸は、災い転じて…となるやもしれぬ。では参ろうか」

「はぁ!? 何言ってんだババァ!」


 無理矢理に腕を引っ張られ、そのまま僕はフードババァとダンジョンに入った。

 門番も慌てているようで、手続きもしていない怪しい二人組なのに咎められることもなかった。



「ど、どうする気なんだ! ま、まさか僕がお前の占いを無視したから…」

「やかましい。力のない者は黙るが良い」


 フードババァに引っ張られて、僕はダンジョン一階を走らされる。

 怪しい占い師のくせに、フードババァは力が強くて振りほどけない。その上、やたら早足で、着いていくのも大変だ。

 何者なんだよ、このババァ。


「こっちだな」

「………」


 そうして、ババァはまさかの隠し通路へ。

 ついこの間、死にそうな目に遭った部屋へまさか引っ張られるとは。

 こいつ、本気で僕を処分しようとしてるんじゃ…。


「こ、ここは何もない行き止まりだろ」

「当たり前だ。お主は誰にものを言っておる」


 ババァだろと言いかけた瞬間、ふと眩暈がした。

 そして…。


「兄弟!?」


 カイの大声が聞こえた。

 良かった、まだ生きていた…って、なぜ!?




「シモン、どうして…」

「僕に聞かれても…」


 一瞬の眩暈の後、目の前にあったのは広い空間と置き去りにされた二人、そして――――。


「は、早くこっちへ。でももうもたない」


 赤いオーガ、そして金棒を持った赤い身体の大男がいる。

 大男の方は、あまり魔物という感じがしないが、かといって冒険者じゃないのは一目で分かる。


「一人で頑張ってたのか」

「俺じゃ相手にならねぇ」

「私も…たまたま持っていただけ」


 リンが使っていたのは、結界維持の魔道具だという。

 ただし魔道具は設置するだけでは作動せず、魔力を注ぎ続ける必要がある。カイは魔法が使えないので落ち込んでいたが、新人冒険者がここまで耐えたのが奇跡だ。


「心配性だねぇ、こんないいもの持たせるなんて」


 そこに、一人だけ呑気な発言をするフードババァ。

 どうやら、僕をこの場に転移させた犯人のようだ。転移って相当高度な魔法だと聞いたけど…。


「だ、誰だアンタは?」

「クックック。私はねぇ、ただの占い師さ」

「「絶対に違う!」」


 その瞬間、僕とカイがハモってしまう。

 ちくしょう、こんな非常時なのに。


「あの…」

「結界維持はこうするのさ」


 今にも倒れそうなリンの抗議に対して、フードババァは赤い二人組へと向き直り、手をかざす。

 すると次の瞬間、結界が光って動き出す。

 オーガは結界に触れた瞬間に蒸発、赤い巨人は吹き飛ばされ、ものすごい音を立てて背後の壁に叩きつけられた。

 結界はそのまま赤い巨人を押し潰し、壁のシミにしてしまった。


 マジか。


「今のはいったい…」

「結界を作って押し込むだけ。お面の先生が教えてくれなかった?」

「え?」


 お面の先生?

 というか、フードババァ、さっきまでと口調が違う? もしかしてババァじゃない?




 それから数時間後、カイとリンは九階ボス部屋の奥で救護隊に発見され、無事に救出された。

 二人は隊員に、見知らぬ冒険者がボスを倒してくれたので、そのまま助けを待っていたと答えた。

 見知らぬ冒険者はフードを被って顔を隠した人で、何もしゃべらなかったので誰なのかは分からなかったと。

 もちろん表向きは僕も部外者なので、二人が事務所を解放されるまで広場で待っていた。


「シモン、ありがとう」

「マジで助かったぜ兄弟」

「…僕は何もしてない」


 リンもカイも、今日はこのまま休むという。

 僕があの人を連れて来た…ということでお礼を言われたが、フードババァに助けてくれと頼んだわけでもないので、苦笑いするしかなかった。



 時は遡って。


 ボス部屋の二人を安全地帯に移動させ、食糧と水を与えたフードババァは、僕を連れてさっさとダンジョンの外に出ていた。

 帰りはまさかの事務所の裏へ転移。ダンジョンから外へは転移できないって聞いたばかりなのに、いったい何者なんだよ。

 だいたい…、アオさんを知ってる? いや、何となくだけど、リンのことも知ってるようにみえた。


「と…友だちを救ってくれたことには礼を言う。ありがとう。だけど…」

「不幸はお主の責任ではないのじゃ」


 フードババァは自分の正体を何も明かさなかったので、誰なのか分からないのは事実。

 ともかくババァは強かった。

 転移魔法を使い、さらに結界をボス側に押し込んだだけでボスを潰してしまった。並みの冒険者では絶対にできないはず。


 タイゾウダンジョンって、謎の人物だらけだ。

 それとも僕が不幸だから?

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