13:今度は裏切りを知る
ロダ村のシモンがタイゾウダンジョンの冒険者になって、半月が過ぎた。
エンストア商会の建物は、少しだけ冒険者を受け入れる仕様に変わった。
実際には、デタラメに放置されている荷物をどけて、眠る場所などを作っただけ。要するに、物置に少しスペースができた程度である。
「炊事場があるなんて、まるで人間の住処だ」
「シモンはバカのくせに悪口しか言わねぇな」
建物の裏にかまどがあったので、そっちも掃除して使うことにする。
半ば土に埋もれかけた鍋も発掘。よく洗って煮沸消毒した。
いったいどれだけの間、ここはゴミ屋敷だったのかと呆れるばかりだ。
「ああやって冒険者に教えるのが、この商会の仕事なのか?」
「んなわけあるか。あんなもの駄賃にもならん」
アオさんの講習は二日間で、二日目はすべて魔法の訓練となった。
格闘術を二日で教えるのは無理があったので仕方ない。
「ボノさんはまたやって欲しいって言ってたけど」
「自分でやればいい。あれでも講師ぐらい務まるだろ」
新人講習の講師を「あれ」呼ばわりか…と思うが、二日目の講習ではボノさんも僕たち三人と一緒に教わる側だった。
元々それなりに魔法を使いこなすボノさんが、アオさんの指導で一番伸びたらしい。カイと一緒にはしゃぐ姿を見ていると、ボノさんの威厳はどこへ…と思う。
ともかく追加の講習も終わって、いよいよ同期の冒険者は本格的にダンジョンに潜り始めた。
カイとリンも、所属の先輩冒険者とパーティを組んで、無事にダンジョンデビューできたようだ。
追放された二人を除けば、未だにダンジョンに潜っていないのはエンストア協会所属の僕だけだと思う。
「ちゃんと訓練してるか?」
「は、はい」
僕は住環境を整えながら、アオさんに言われた魔法の訓練を続けている。
それが形になるまではダンジョンに入るなと命令されているのだ。
僕がやらされている訓練は、かなり予想外のものだ。
そう。体内にある魔力を探して把握しろ、という。魔法が使えない僕に、まるでリンに課したようなことをさせるっておかしい。
しかし、アオさんは言う。
僕には魔力がある、と。
「これができたら僕も魔法使い」
「心配するな。役に立たない魔力だ」
「逆に心配だって」
まぁ食事代はアオさんが出してくれるし、装備も全部借りてるから文句は言えない。
暇な時間には、例の刀も振っている。
使い続けると呪われるけど、決まった時間で鞘に戻せば大丈夫。
そこまでリスクを負ってあれを使わなくてもいいだろうって? 僕もそう思って、他の武器も試してみたが、困ったことにあの刀が一番合ってるんだ。
できれば似たような刀を見つけて、そっちに変えてしまいたい。
そうして、さらに数日が過ぎたある日。
ダンジョンの情報をもらおうと、僕は事務所に行った。
他の組合なら、中でいろいろ教えてもらえるけど、アオさんはダンジョンに入らないし、先輩はいない。
事務所でも、ボノさんに話を聞くだけ。
カイとリンにも、詳しいことは聞けない。二人は組合の先輩とパーティを組んでいるから、勝手に情報を話せないのだ。
自分の体内の魔力を見つけられない僕は、あくまでただの見学。
しかし、到着した事務所は大騒ぎになっていた。
「何? 置き去りにしただと!?」
また僕みたいな人が…と思いかけて、聞こえて来る名前。
「残っているのはカイ、リンの二名」
「な、なんだって!?」
まさか、あの二人が!?
僕は中に駆け込んで、ボノさんにしがみつきながら叫んでいた。
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