10:ダンジョン管理事務所、激動の日々 前編(閑話・ボノ視点)
俺はタイゾウダンジョンを管理する事務所の職員、ボノだ。
元は冒険者で、今もたまに誘われてダンジョンに潜っているが、世話になった代表に頼まれて今は指導員をやっている。
タイゾウダンジョンのライセンスをもらって冒険者生活が二十年、そして職員が五年。
他では体験できない刺激的な日々を過ごし、たっぷり金も稼いだ。
二十二階の最高到達記録のメンバーにもなれた。
ただ、ここ数年は少し退屈だ。
到達記録はもう五年も更新されていない。
それは冒険者を所属させる各組合の方針で、無理なチャレンジをさせなくなったからだ。
十二の組合は、どれも大きな商会が経営している。
商会は所属する冒険者に、金になる資源を持ち帰ることを求めている。
タイゾウダンジョンが開放された当初は、どの商会も最高到達を目指してチャレンジしていた。
なぜなら、ダンジョンに何があって、どんな資源やお宝が隠されているのか分からなかったからだ。
しかし、五十年経った今、各商会が求める物はほぼ決まっている。
浅い階層には、いくつか稀少鉱物の鉱床がある。工業化が始まりつつある中でも、鉄鋼の強さを増したり魔道具の原料となる稀少鉱物の需要は高い。
九階、十四階、十八階ボスを倒した後に現れる宝箱の中身は、武具が中心ではあるがたまに装飾品が混じっており、一攫千金も夢ではない。
また十八階のボスから採集される毛皮は、実用と装飾の両方で価値があって、やはり高値で取引される。
要するに、商会は冒険者にこうした価値のある階層での働きだけを求めている。
もちろん、かつて無理な探索をうながし、多くの冒険者を失った反省もあるのだが。
そうして、年に二度の新人登録の日がやってきた。
いつものことだが、最初だけは鼻っ柱の強い連中が揃う。
身の程を知らない若者を見ていると、思わず苦笑してしまう。
だが。
登録を締め切った深夜、事件は起こった。
駆け込んで来たのは、いかにも田舎育ちという感じの若い男だ。
そいつは今さらのように登録を求めたので、締め切ったと簡単に伝えて追い出した。
遅刻して登録に失敗する奴は、毎回数人はいる。それだけのことだと思っていたが、男はまたやって来た。
一つの封筒を持って。
封筒には、エンストア商会と書いてあった。
血の気が引いた。
これは自分の手に負えないと、すぐに奥にいた代表のデンバさんと副代表のセンバさんに渡す。
俺の先輩冒険者で、かつて海坊主兄弟と名を馳せたこともある、いかつい顔の双子は、封筒の中身を読んで震えた。
若い職員がそれを見て逆に驚いていた。
事務所にいた十五名の職員の中で、恐怖を覚えていたのは四人だけ。
代表と副代表、そして自分と、四十年前から事務職の女性アキさんだ。
エンストア商会はそれだけ長い時間、開店休業中だったのだ。
かつて、タイゾウダンジョンに挑む者が必ず教えを請う相手だった、エンストア商会会長。
謎だらけのあの人の素性を探った者は、生きては帰れない。
俺たちはそれが、ただの冗談ではないことを知っていた。
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