5:占い師と不幸の男

「そこのお主」

「え? 僕?」


 翌日。

 最終日の講習に向かう途中、屋台が並ぶ一角で声をかけられた。


「占って進ぜよう」

「結構です」


 フードで顔を隠した怪しい人間が、椅子に座って僕を指差している。

 声の感じからすると女性だと思う。よし、きっとババァだ。


「お主は不幸の星に生まれておる」

「知ってる」


 僕は無視してそのまま事務所へ向かった。

 当たってようがそうでなかろうが、占いなんてなんの役にも立たない。




 事務所でダンジョンに入る手続きを教わり、昨日に続いて一階に入ると、既にほとんどの新人は集合していた。

 今日で最後、これが終われば正式に冒険者になれるから、やる気があるんだろう。


 最終日の講習は、何かあった時の脱出方法などだった、

 タイゾウダンジョンは、コンビニ商会が支配下に置いた、つまり人間の管理下のダンジョンだ。

 なので、できるだけ冒険者に配慮した形になっている。


 緊急用の脱出装置と、連絡用魔道具は、どちらもダンジョンが持つ未知の技術で作られているらしい。

 ボノさんから一つずつ受け取った後、使い方を教わった。

 脱出装置は、ダンジョン内の安全地帯と呼ばれるエリアへの転移を可能とする。魔物が目の前にいても、作動すれば脱出できるというすごい機能だ。


「あーあー、聞こえるか?」

「ヤベー、何これすげー」


 連絡用魔道具は、魔道具を持った同士なら会話が可能。しかも、相手はただ頭の中でそう指定すればいい。

 三日の講習に飽き飽きした様子の新人たちも、バカみたいにはしゃぎだした。


「いいか。どっちも便利なものだが二つ注意点がある。一つは、ダンジョンの外では事務所にしか通じない。だから助けを求めるなら事務所にしろ。それともう一つ」


 ボノさんの話はとても大事なものだと思ったが、聞いてる奴は半数もいない。

 こんな連中だらけのダンジョンに入るのか。


「滅多にないが、妨害能力をもつ魔物がいる。九階のボスもそうだな。その時はまぁ……、なんとかするしかない」


 無くしたら自腹で買えという話もあった。

 ちなみに脱出装置は使い捨てで、なんと金貨五枚もする。

 当然、ケチって死んだ奴もいるらしい。というか、僕の全財産でも買えない。




「おいお前、暇だろ」

「はぁ?」


 講習が終わり、もらった昼食代で何か食べようと屋台を物色していると、さっきまで一緒だった奴らが声をかけてきた。


「喜べ。俺たちがお前を仲間にしてやる」

「なんで?」

「何でだと? 一人でパーティも組めないお前の力になってやるってんだ、喜んで頭を下げろ」

「別に頼んでないだろ」


 せっかくの屋台メシを邪魔されて、僕はものすごく不愉快だ。

 それに、出掛ける時にアオさんに念押しされていた。自分が許可する前にダンジョンに入るな、と。

 ひょろ長出っ歯の男がしつこいので、アオさんの話を伝えたが、それでも食い下がる。


 集まっているのは四人。

 ひょろ長出っ歯、上半身裸のマッチョ野郎、やや小柄でビヤ樽みたいな形の鎧、もう一人は…、アオさんみたいにフードで顔を隠しているのでよく分からない。

 とりあえず全員、僕よりデカくて僕より立派な装備に見える。僕の装備が立派なのかそうでないのか、アオさんにはなんの説明も受けてないし、上半身裸は装備じゃないけど。


「心配するな、初日にそんな奥まで行くわけないだろ? 講習を終えた当日だからこそ、一度実際に入ってみるべきじゃないか」


 ひょろ長出っ歯は、なかなかしゃべりがうまかった。

 そして僕も、ダンジョンに興味はあった。

 必死になって僕を誘う理由が、新人は五人以上じゃないと許可が下りないからだと知っていても、意志がゆらぐには十分だった。


 そうして、僕は臨時パーティに加わることを了承した。



 僕はもちろん、知るはずもなかった。

 アオさんが念押しした理由を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る