第2話

リンと共に、光輝く扉を潜った鈴は、拍子抜けた。

あんなに眩しく先の見えない扉を通るのを、不安に思っていたが、実際の感覚では隣の部屋へ移動しただけの感覚だった。

実際、数歩しか歩いて居らず、扉をくぐり抜けると、通ってきた扉は閉まり、今となっては光の粒となって消えてしまった。

今はもうない、扉があった場所に目を向けていると、

「鈴さん。地上への扉は、今は閉じていますが、いつでも開くことはできます。安心してください。」

「…うん。ありがとう。頼りにしてる。」

扉が消え、不安に駆られていたのを察したのか、リンは鈴へ言葉をかけてくれた。

そして、目の前にそびえ立つ、神殿のような建物へと二人は歩みを進めた。


神殿内は、白一色の内装になっていた。

リンに連れられるまま、廊下を暫く歩き、一つの扉の前にたどり着いた。

「この部屋の中に、仲間がいます。呪の影響で、今は目を覚まさず、眠っている状態です。」

軽く鈴へ説明すると、扉に手をかけ、リンは部屋の中へ。鈴もそれに続く。部屋の中に入ると、白一色の内装ではなく、洋風な色合いが見られ、落ち着きのある部屋だった。

鈴が部屋に入り終わると、リンは部屋の扉を閉め、仲間が横になっている寝台へ向かい、眠っている人物の隣に膝をついた。そして悲しそうな、不安そうな表情を浮かべた。

その光景を、扉近くから目にしていた鈴も、寝台へ歩み寄り、横になっている男性へ目を落とした。彼は静かに息をし、本当にただ眠っている様に見えた。

「リンさん、この人は?」

「彼は私と同じ天使で、名前は、トキと言います。彼が身につけている指輪が呪の元凶です。元々この指輪は、身につけている者を守る為の魔道具だったのですが、訳あって、指輪が彼自身の魔力を吸い上げている状態で、指輪を外さないと彼は目覚めることができないんです。」

「そうなんだ…。呪の元凶…。コレがその指輪なんだ…。」

鈴は、トキの身につけている銀色の指輪を見て、

ふと、リンが話ていた、

『呪を取り除けるか、状況によっては呪われるかもしれない』その言葉を思い出し、どうしたものかと思い、リンへいくつか質問をしてみる事にした。

「この指輪、トキさんから外せば任務完了?」

「はい!彼は呪いから解放され、目を覚まします。」

「この指輪、触れるとどうなるの?」

「魔力を吸収されます。魔力が少ない者ですと、気絶、もしくは死に至るそうです…。」

リンの素直な回答に少しビビり、一瞬の間を置いて質問を続ける。

「…私が触っても、本当に大丈夫?死なない?」

「どうなるかは、正直、私にも分かりません。ですが、鈴さんの魔力量でしたら、その魔道具を上回る力をお持ちですので、死にはしないと思います!もし瀕死にでもなれば、私が回復魔法をかけてお助けいたします。」

「………。そうならない事を祈るよ…。」

そう返答し、少し表情を強張らせつつ、指輪に向き直る鈴。だが、『まぁ、ものは試しだ!』

開き直り指輪に手を伸ばし、少し触れてみる事にした。『ビリリ!!』

「いったー!!何!?なんなの!?」

伸ばした手をすぐさま引っ込め、痛みを感じた部分の指先を擦る鈴。

受けた衝撃は、強い電気が走ったような、そんな感覚だった。

「鈴さん!お怪我は?手を痛められたのですか?」

「大丈夫!大丈夫!大きな音と、静電気みたいな痛みが一瞬あっただけだから!」

「……。鈴さん…。ここまで出向いていただき、本当にありがとうございます。本来ならば、天界で解決すべき事ですのに…。

指輪が外せなくとも、魔力を与え続ければ、彼は目覚めはしませんが、生きながらえる事はできるそうです…。本当に、ごめんなさい…。」

鈴へそう言葉をかけてくれたリン。

だが、何もできない現状を悔いるような、悲しい顔をリンは浮かべ、横たわるトキへ目を落とす。

その光景を目にした鈴もまた、胸が少し締めつけられた。だが、だんだんと自分に腹が立ってきたのだ。その理由は、彼を助けるために、この場へ来たというのに、私はのん気に天界がどんなものかと、自分勝手な好奇心、興味本位でやって来ていた。

だからそんな自分に、腹が立った。

目の前のリンは、彼を助けたいと思う一心で、私の元までやって来てくれたというのに!

「リンさん!大丈夫だよ!さっきみたいなビリビリぐらい。私!こんな指輪、今すぐにでも引っこ抜くから!」

そう言葉を吐き捨て、指輪に手をかけ、「ビリビリビリ!!」さっきよりも強い電気が、指先から腕を通り抜けて行く。手に力が入らなくなりそうだ。しかし鈴は手を離さず、「うりゃー!!」と叫び声を上げ、トキから指輪を抜きとった。

「取れたー!!」トキから指輪を取り除くと、強い電撃はなくなった。しかし突如、強い眠気に襲われ、そのまま寝台の脇に倒れ込む鈴。

「鈴さん!!しっかりしてください!鈴さん!」

リンが鈴の元へ駆け寄り、言葉をかけるも、鈴の意識は薄れて行き、リンの声が遠のいていく。そして鈴は、深い眠りについてしまった。


コンコン。扉をノックする音が聞こえた。

「はい。」

音のした扉へ目を向けると、1人の男性が扉を開け顔をのぞかせる。

「はじめまして、僕はトキ。君が噂のリンだね!僕は、君と直接、話がしたくてやって来たんだ。お邪魔してもいいかな?」

トキと名乗る青年が発した、私に対しての噂について、少し疑念が残るが、「…どうぞ。」相手の様子をこちらも伺うべくすんなりと部屋へ招き入れた。

「ありがとう!」

トキと名乗る彼は、私の居るベッド近くまでやってくると、こちらの様子を伺い始め、口を開いた。

「体調はどうだい?観た感じだと、今は落ち着いて居るね。」

「そうですね。今は何とか…。また、すぐに熱が出てしまうかもしれませんが…。」

「…。」

私の返答で、気を使わせてしまったのか、トキが言葉に詰まった様子。そんな光景に、どう話を切り出そうかと模索していると、

「リン、君が侵されているその熱は、君自身の魔力が原因だと思うんだ。」

「魔力が原因なの?」

「正確には君の、魔力量だけどね。」

そう唐突に切り出したトキは、私に詳しく話し始めてくれた。

体内の魔力量が多いと、身体がそれに耐えきれず、無駄な魔力を放出しようと熱が出るらしい事。

また、トキ自身も、今のリンの様な状態に陥り、熱に侵された時期があった事。魔力の暴走で苦労した事もあったが、今はある人からもらった魔法石がきっかけで、助かっている事を知った。

そして、同じ境遇の私が居ることを噂で知り、会いにきてくれたそうだ。

「君にも、この魔法石を渡さないければと思ってね。」

そう答え、自身の懐から小さな可愛い小箱を取り出し、蓋を開け、中身を私へ向ける。

その小箱の中には、丸い透明な玉がいくつも入っていた。

「コレが魔法石?」

「そう。コレを身につけおけば、君の熱を取り除いてくれる。」

そう言って、自身が身につけていたネックレスを外し、小箱から一つ、丸く透明な魔法石を取り出し、それをネックレスの先へ嵌め込んだ。その作業を終えると、トキは私へ向き直り、忠告する。

「今、この魔法石は透明だけど、魔力を吸収すると、色が付く。色が全体を覆ったら、定期的に新しいものに変えないといけない。コレだけは守って扱ってくれ。」

「どうして?」

「それは…、吸収が限界を超えると、魔力が暴走して、身を滅ぼす危険があるからなんだ!」

トキの返答にゾッとしたリンだが、トキはすぐさまこう続けた。

「と言うのは冗談で、魔法石の吸収が限界に達したら、もう魔力を吸収できないってだけだよ。でも、魔法石は強い魔力の塊がだから、ずっと手元に持っているのは危険だからね。一度手放して、溜まった魔力を自然に消さなくてはならないんだ。」

「なるほど。魔法石には、そんな使い方が…。なんだか、魔法石って、神殿にある魔導石みたいですね…。でもこれ、とても貴重な物では?魔力が貯蓄できるものなんて、今まで聞いたことがないわ!コレをくれ人物は何者なの?」

「あぁ、コレを僕にくれた子は、人間なんだ。」

「人間!?」

「そう。名前はスズ。僕達の比じゃないぐらいに、強い魔力を持ってる人物だよ。多分、僕らより遥かに強い。僕らの主である、神ですら警戒しているそうだ。それと、魔法石は物質状、ただのガラス玉で出来ているから、それほど貴重なものではないそうだ。」

「そうなんですね…。それにしても、どういった経緯で、そのスズさんと、出会ったんです?トキを助けてくれた子なら、優しい子なのでしょうが…。」

「あぁ、とても優しい良い子だよ。それにスズは、面白い子でもあったな!でも、今のスズは、僕の事を覚えてはいないだろうけれど…。」

少し寂しい表情を浮かべたトキだが、すぐニカッと笑い、私へ向き直り、

「コレを君に。肌身離さず持っているんだよ!それから、君の元気な姿を僕に見せてくれ!」

そう言って、魔法石を嵌め込んだネックレスを、私の頭へ通し、首元に垂れ下がった。胸元に光るまだ透明な魔法石へ目を落とした私は、それをとても綺麗だと、心の中で思った。

そして、頬を少し赤らめ、「ありがとう!トキ!」彼へ向き直り、満面の笑顔でお礼を言った。

トキもまた、彼女の笑顔を目にし、胸のうちで心惹かれつつ。「どういたしまして!」そう応えた。

そして、二人はまだ、お互いがこの日、一目惚れ、初恋を経験したとは、まだ気づいてはいなかった。


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