第29話 白水さんの気持ち

白水さんは、心の中で言葉を反芻しながら、胸の鼓動を感じていた。周りが静かになった今、この瞬間を逃したら二度と聞けないかもしれないという思いが彼女を突き動かしていた。


「青波さん、誰か好きな人いるの?」勇気を振り絞って言葉を口に出した瞬間、自分の声が少し震えていることに気づいた。


青波さんは一瞬驚いたように目を大きくし、次に視線を宙に浮かべて考え込んだ。「うーん、特にはいないかな…」彼女は少し眉をひそめながら、ふっと笑顔を浮かべる。そしてすぐに反撃するように尋ねた。「でも、白水さんはどうなの?」


その質問に白水さんの胸はさらに強く鼓動し、喉が乾いていくのを感じた。けれど、もう後には引けない。


「私は、青波さんと一緒にいると楽しいし…尊敬してる。」思い切って言葉を紡いだ白水さんは、自分の正直な気持ちを伝えることで心が軽くなったような感覚を覚えた。


青波さんはその言葉を聞き、少し驚いた表情を浮かべながらも、すぐに顔を赤らめ、優しく微笑んだ。「ありがとう。私も白水さんとは話しやすいし、一緒にいると楽しいよ。嬉しい。」


彼女の微笑みとその言葉は、白水さんの心に深く響いた。彼女との間に、見えないけれど確かに感じられる距離が少し縮まった瞬間だった。これまで曖昧だった感情が少し形を持ったように感じられ、白水さんはほっと安堵の息をついた。


「そうか…ありがとう。」白水さんの頬も少し赤く染まり、二人はしばらくそのまま、静かな空間を共有したまま、温かい空気に包まれていた。


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