第11話 帝国で一番自由な貴婦人(ニコライ)
「カリーナ様が俺に面会だと?」
父上の皇妃だったカリーナ様から面会の要請がきて俺の頭は疑問符で一杯になる。
俺とカリーナ様の間に悪感情は特にないが、積極的に交流もしていない。
侯爵令嬢だった彼女は皇妃に召し上げられて俺の異母
「侍従長、予定を調整してカリーナ様に了承の返事を送ってくれ」
カリーナ様が会いたいというなど初めてなことで気にもなったし、夜会で皇后がカリーナ様と楽しそうに話していたのを思い出してなんとなく会おうという気になった。
***
「お久しぶりでございます」
カリーナ様は控えめでありながら優雅という元皇妃に相応しい礼をしたが、「楽にしてくれ」と俺が言うと本当に楽にした。
「なんとお呼びしたらいいかしら? ニコさん? ライさん? 間を取ってコラさん?」
え、何だその選択肢。
「で、ではニックで」
「素敵な愛称ね。シアちゃんに聞いたのだけれど、ニックさんが皇妃様を娶るからシアちゃんは奧宮に行くのですって?」
相変わらず耳が早い。
しかもシアちゃんとは、皇后と仲がいいのか?
「シアちゃんの雰囲気が変わったなって思ったけれど、ニックさんも変わったわね。媚薬のこと、ドミに聞いたわ」
媚薬と聞いて俺の顔が強張ったのか、カリーナ様は「ドミに頼まれたわけではないわ」と笑う。
「土下座されたってこの件には関わるつもりはないの、ましてや仲裁なんてしないわ。媚薬の件はドミが悪い。でもヴィッキーが許しちゃったのは根っからのペトロフでドミに甘いからね」
息子と娘のメンタルケアを二の次にして、とプンプン怒るカリーナ様に思わず口元が緩む。
「やっと笑ったわね。この世の終わりみたいな顔をしてもこの世はなかなか終わらないのだから、駄目で元々と思って頑張ったほうがいいわ。その点シアちゃんは頑張り屋さんで好きよ」
「皇后が?」
「だってあの子はペトロフの呪いに抗ったもの」
ペトロフの、呪い?
「ペトロフの人たちをみると呪いにでもかかっているんじゃないかって思うの。皇族に逆らえない呪い。ペトロフは皇帝にとっては理想的な皇后だとは思う、だって何をしても自分が悪いと責めるか仕方がないで許してくれる都合のいい女でしょう」
都合のいい女。
まさに俺のしてきた行動を表す的確な言葉に何も言えなくなる。
「でもあの子は皇族よりも自分の願望を優先させる強さがあった。媚薬の件はいい例ね、ニックさんが后候補を探していることを知りながら、ニックさんの願いに反して后になれる唯一機会をつかんだ。そのあともどんなに嫌がられてもニックさんの側にい続けた」
綺麗な恋なんてないのよ、とカリーナ様は微笑む。
「恋は戦よ。謀略なんて当たり前、特に女のほうが手段を選ばないわね。私もそうだったわ」
「カリーナ様も?」
「私は皇妃になる前からいまの旦那様のことが好きだったの、両想いだったのよ。でも旦那様は子爵家の四男で私たちの結婚は許されなかった。でも駆け落ちとかして皆に祝福されない形で一緒になるのはいけないわ、だって私も旦那様も貴族だもの」
貴族の結婚はみんなに認めてもらわないとね、とカリーナ様は笑う。
「だから皇妃の話を受けたの」
その先に続いたカリーナ様の話によれば、国の発展を願うからこそ父上は早くに帝位を俺に譲位して自分を誰かに下賜してくれる。
そのとき妙に情に弱い父上ならばカリーナ様が希望する相手に下賜してくれるんじゃないかと考えたらしい。
「賭けですね」
「でも賭けに勝ったわ。旦那様には私を待っていなくてもいいと言ったわ。でも待つと、諦めないと言ってくださった旦那様のあの強い目、シアちゃんも同じ目をしていて一目で好きになってしまったわ」
それなのに、とカリーナ様は溜息を吐く。
「シアちゃんはペトロフの呪いに負けてしまった。我慢も限界に達したということね、あの子は恋心を消してニックさんの都合のいい女になってしまった。あんなシアちゃんなんて私は嫌だわ」
「嫌だわと仰られても……」
「ニックさんが悪いのよ。シアちゃんのことが好きなくせに、ずっとずっと好きだったくせに」
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