男と女のいる俳句

表題のテーマで3句まとめてみた企画。

遡って8月作のものも含みますので、ご了承ください。



ラブホ去る女晩夏光を残し


季語 晩夏光(夏・時候)

晩夏の子季語。本来は梅雨明けから8月上旬の、最も暑い盛りを言う。現在の気候、肌感覚に照らし合わせれば、8月の終わりから9月上旬がしっくりくるという人が多いんじゃないだろうか。夏の暑さが衰えていく刹那の憂を含んだ、ヒリヒリとした感じ。


この一句の描く状況については、詳しくは言うまい。そこにはただ、虚しい交わりがあった、とだけ。あとは勝手に想像してみて。



虫時雨愛とは星の数多ほど


季語 虫時雨(秋・動物)

虫の子季語。俳句で単に虫といえば、秋に鳴く虫を指す。鈴虫、蟋蟀、松虫に螽斯。


夏の暑さもすっかり穏やかになってくると、恋やら色情やらの熱も、俄かに落ち着いてくるような気がする。実りある恋は成熟の、破れた恋ならば忘却の機会を得て。


反対に秋の虫たちにとっては、これからが恋の盛り。涼しげで耳に心地良い虫の鳴く声は、恋に狂った雄たちが雌を呼び合う、狂騒の叫び。


この星に棲まう数限りない命たちは、みんなそれぞれの季節に恋をする。そんな光景を尻目に、私は過ぎ去った情熱をしみじみと噛みしめるのだ。


虫の声と愛、付きすぎで月並み感が否めないけど、ここは素直に自分の感情として残しておく。



歌詠みがモテた時代よ秋七草


季語 秋の七草(秋・植物)

万葉集に歌われた、秋の野に美しく咲く、7種の草花。萩、芒、葛、河原撫子、女郎花、藤袴、桔梗。


奈良時代の歌人、山上憶良が詠んで以来、定着したとされる秋の七草。かつて歌人といえば、生粋のプレイボーイだったことだろう。歌垣の文化が物語るように、和歌とは異性への恋心を伝えるための、重要なツールでもあったのだから。


素敵な恋の歌を詠めるということは、己が知的で情熱的な存在であることのアピール。

殊に貴族、今でいうセレブやパリピに該当すると言って差し支えない人々にとっては、歌の才能は、公私に渡ってのステータスであった。


今となっては、短歌や俳句を嗜む若い者なんて、どちらかと言えば陰キャに属する存在。決して異性に響かないということではないが、世間的に見てモテる存在ではないだろう。


高貴な秋の七草に、かつてのやんごとなきプレイボーイたちの影を見るにつけ、「どうにもさっぱりだなぁ」と思ってみたり...。


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