休暇果つヴィーナス像の埃かな
季語 休暇果つ(秋・生活)
同じ季題で、もう一句。やはり高校時代の、夏休みの終わりを振り返って。
高校生の私は、部活は美術部に所属していた。
体は人より大きかったものの、スポーツはからっきしの苦手だったし好きでもなかったので、運動部に入るなんて論外、っていうのが理由のひとつ。
それよりも、芸術・文化が好きだったし、何より中学生のある時期から「将来は映像作品を作る仕事に携わりたい」という夢を持っていたので、美大への進学を見通してのことだった。
ちなみに進学も就職もしっかり目標を実現して、今はいちおうカメラマン・編集マンという職業を、なんとか10年続けている。
さて、話を戻して高校の美術部のことを少し。顧問は美術教員。これがだいぶ変わった先生で、生徒に絵やら彫刻やらを教えてはいたが、専門は陶芸。田舎の古民家にアトリエを構え、そこには立派な薪窯まであった。
夏休み、冬休みともなると、我々美術部員は合宿と称してそのアトリエへ駆り出され、数日泊まり込みで窯焚きの作業に従事させられるのだった。
何人かで交代で窯の番をし、炎の燃えさかる窯の中に、大きな薪木を放り込んでゆく。そうして窯に仕込んである温度計の数値を注視しながら、1200℃の温度を維持していく。
焚き口から覗く高温の炎は、白色に眩しく輝いていた。
窯場の当番以外の者は薪割りをしたり食事の用意をしたりと、これまた雑用をこなしつつ、日中は粘土をこねて自分の作品を作る時間を与えられた。これだけが唯一、美術部の合宿らしい活動。
窯は24時間フル稼働だから、交代で睡眠をとりつつ、夜勤まである。これがまた案外楽しいもので、夜更けにCDラジカセで好きな音楽をかけながら、ぼうっと火の番をするのは、なかなかに味わい深い時間だった。
当番以外の部員は、寝床になっている屋根裏部屋で麻雀をしたり(勿論賭け麻雀。先輩にはしこたま巻き上げられた)、盗み酒を楽しんだりした。
こうして謎の合宿も明け、塾やら宿題やらに精を出しつつ残りの夏休みを消化すると、いつの間にかやってくる二学期。放課後はまたいつもの美術室で、とりとめもない時間が始まるのだった。
廊下のかどを曲がるあたりから、懐かしい油絵の具の香り。教室の戸を開けると、デッサン用の石膏像のいつもと同じ顔が、私を出迎えた。
休暇果つヴィーナス像の埃かな
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