無能者がそこに在る ~魔力0、レベル1固定、スキル獲得不可能、ジョブ『無能者』の少年、最強冒険者に鍛えられ、世界を救う~

ミツメ@物書き

第1話『絶望』



「よぉ雑魚アルス! 無能のロクデナシ!!」

「いてっ!」


 森から出てきた赤髪の少年に、拳ほどの大きな石がぶつかった。

 細い彼の身体はそれに耐え切れず、尻もちをついてしまう。

 頭を撫でると幸いたんこぶにはなっていなかった。アルスは何事かと前を見る。

 そこには数人の少年たちがいた。


「あははは! 痛いだってよ! レベル1のお前でも避けれるようにそーっと投げたんだけどな! どんだけノロマなんだよ!」

「まぁ仕方ないよ。スキルもジョブもロクなもんじゃない。『無能者』なんて初めて聞いた。まぁ似合ってるからいいけど」

 

 あはははは! と周囲がドッと笑いだす。

 一週間前に行われた『祝呪の儀』にて彼は『無能者』という烙印を押された。

 レベル1固定。魔力無し。スキル獲得不能。ジョブ固定。

 いいところは一つもない最悪のジョブだ。

 アルスは愛想笑いを浮かべて、後ずさる。


「あ、はは。やめようよ、こんなの。痛いだけだよ。なんでこんなことするのさ」

「そりゃうさばらしだよ。お前が無能のせいで俺達がする村の仕事が増えたんだ。しかもお前は乞食すれば飯が食える。不公平だよなぁ。それならちょっとくらい役に立ってもらってもいいだろ?」

「そんな……。暴力はダメだよ……。うがっ!」


 目の前の一番大きな身体の少年がアルスを殴る。

 その一撃は殺気の石よりもずっと痛い。アルスは涙が出るのを感じた。


「ダメじゃねぇんだよ」

「……う、くっ!」

「弱いくせにへらへらしやがって! ムシャクシャすんだよお前を見てると!」

「がっ、うっ……!」


 アルスは抵抗しない。

 ただ身体を投げ出し、彼の怒りが収まるのをじっと待つ。そんな様子が気に入らないのか少年は何度も拳を振り下ろした。


「やめろ、ジャン。それ以上は死んでしまう」

「死んでしまえばいいんだ、こんなやつ。最初から死んだようなもんだろ」


「こらーーー!!」


 突然大きな女性の声が響く。少年たちが声の方を向くと、年の頃は彼らより三つくらい上だろう、三つ編みおさげの女の子が手をぶんぶん振り回して走ってきていた。


「やべ、セシル姉だ」


 少年たちは蜘蛛の子を散らしたように走る。

 セシルはアルスの下に駆け寄ると手をかざした。淡い緑の光が彼の頬を照らしていく。するとすっと腫れや痣がひいていった。


「大丈夫? あいつらにはきつく言っておくから」

「いや、いいよ……。ジャンたちは間違ってない。僕は何もできない『無能者』なんだ……」

「そんなこと、ないよ……」


 セシルの声に力がない。

 彼女もまた与えられた者であり、与えられなかった者であるアルスの言葉を否定することができなかったのだ。

 『祝呪の儀』は才能を可視化する儀式である。つまりその儀で何も確認できなかったアルスは神から何も与えられなかった、神からも見捨てられた子なのだ。

 

 セシルは彼をおぶる。


「ウチに行こ。今日も食べていきなよ」

「……うん」


 アルスは彼女の背中で静かに涙を流す。

 ジャンの言う通り、死ねたらどれだけいいか。ただ何もできず、周囲の優しさにすがって生きる自分の惨めさにアルスはただ絶望していた。



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