9:ポーラの家にご招待

 エレザは俺の保護観察みたいな役目を言い渡されているようで、洞窟に残ることになった。

 そうして3人になったところで、少しの沈黙があったが……やがてポーラが切り替えるように明るい声を出す。


「とにかく。アキラには錬金術があるんだから、凄い物をどんどん作り出して、みんなに必要とされれば良いんだよ!」


 まあそれが正攻法だよな。


(ていうか、さっきから空気だけど……女神さん?)


『ん? あ、ああ。終わった? ゴメン、ゴメン。ちょっと天界に戻ってたんだ』


(そうなのか?)


『というか、これからも四六時中、私が傍に居たらキミも気が休まらないだろうし、天界に戻ることにするよ』


 まあ確かに、おっぱいに甘えてる所を見られるのは気まずいしな。

 それに……俺はこのエロゲ世界で生きていかなきゃいけなくなったんだし、いつまでも女神とばっか話してちゃダメだよな。


『そうだね。まあでも分からないことや、困ったことがあったら呼んでくれて良いよ。設定資料集持って行くから』


(それは正直助かる)


『あとは危機的状況。例えば、選挙で負けて島外に放逐されそうな時とかは……』


 なんとかしてくれるのか?


『必ず駆けつけて』


 おお!


『嘲笑ってあげるよ』


 二度とそのツラ見せんな。


『あははは! それじゃあね。またちょくちょく様子も見に来るから~』


 女神の声が遠くなっていく。やがて気配も無くなって……完全にロストしてしまった。


「アキラ?」


「あ、うん。なんでもない。それで……これからだけど」


「まずは住むところを探すべきだろうな。悪いが、ウチでは飼えないぞ」


 犬猫みたいに言うな。


「ウチに来れば良いんだよ!」


 ポーラ……!


「良いのか?」


「お母さんに飼いたいって頼むんだよ」


 うーん。まあこの際、ペットでも良いけど。美少女のペットって、響きがだいぶ怪しいな。

 と。そこで、

 

「その必要はないわよ」


 突然、洞窟の入口の方から第三者の声がした。

 続いて、ゆっくりと誰かが入ってくる。落ち着いたブラウンの髪を腰まで伸ばした女性。ポーラと同じく、ヘソ出しTシャツに、下はミニスカート。パッチリ二重に、薄く紅を塗った美しい唇。右目下にある泣きボクロもセクシーだ。見惚れるような美人さん。日本でもこのレベルは記憶にないかも。


「あ! お母さん!」


 ふぁ!?

 ポーラの母親だと。これで人妻。色気が凄いとは思ってたけど、こんな大きな子供が居るようにはとても見えない。


「ポーラ。治ったって聞いたけど……本当にもう大丈夫なの?」


「う、うん。大丈夫。心配かけてゴメンなさい」


「良いのよ……そして、治してくれたのがアナタね?」


 美しい瞳に真っ直ぐ見据えられ、思わずピンと背筋を伸ばしてしまう。


「は、はい! あ、アキラと申します」


「クスッ。緊張しないで。さっきすれ違ったロスマリーに事情は大方聞いているわ」


 笑うと花が咲くようだ。緊張で汗が出てきた。ポーラもあと数年したら、こんな美人になるのか。


「私はシェレン。そこのポーラの母親よ」


「学校の先生とか、お洋服作りとかしてるんだよ」


 人妻女教師か。属性モリモリだなあ。

 シェレンさんは、その腰に手を当て(くびれが凄い)、再び俺に微笑みかける。


「アキラ。行くところが無いんだったら、私の家にいらっしゃい。ポーラの恩人だもの。歓迎するわ」


 なんと。正直、マジで助かる。本当、なんのツテもないからな。


「お、お願いしても良いですか?」


「ええ。アナタの錬金術というのも、詳しく聞いてみたいし」


 学校の先生とも言ってたし、知的好奇心が旺盛なタイプなのかも知れないな。

 

「アナタの体にも興味があるわ」


 ん! そ、そんないきなり。ど、童貞卒業チャンスが!?

 ……あ、違うか。彼女がジッと見てるのは俺の胸部。シェレンさんの豊満な乳房とは対照的に、俺の方は(当たり前だが)ペッタンコだ。


「異世界人って、みんなそうなの?」


「ああ、いえ……」


 困った。なんと答えるべきか。


「シェレンさん。取り敢えず、ここでは落ち着かないのでは?」


 別に俺の困惑を察したワケでもないのだろうが、エレザがそんなことを言った。


「あら、そうね。私ったら。つい学術的な興味が……うふふ」


 頬に片手を当てながら、しとやかに笑うと、今度は少女のように可愛らしい。反則では?


「それじゃあ、私たちの家に行きましょうか」


「は、はい!」


 ようやく牢の出口へと歩き出す。ポーラが俺の手を握った。すっかり懐いてくれたみたいだ。






 シェレンさんとポーラの家は、歩いて20分くらいの所にあった。周りには、あまり家がない。結構、間隔を空けて家屋を建てる文化みたいだ。田舎の一軒家同士の距離感かな。


「どうぞ入って」


 丸太を組んで作ったログハウス。頑丈そうだし、中に入ると木のニオイに包まれて、肺の中が浄化されるようだ。道中の林も、良い香りだったけどね。


「ここが今日から、アナタの家よ」


 ああ。優しさが身に沁みる。けど良いんだろうか。旦那さんの意見も………………


「あ!?」


「な、なになに!? どうしたんだよ!」


「あの。シェレンさんの旦那さん、ポーラのお父さんって」


 そうだよ。女だらけの島で、人妻ってどういう状況だって話で。完全に色気と「お母さん」という単語から、そう思い込んでたけども。


「何を言ってるんだ? オマエは。オットーさんというのは誰だ?」


 エレザのドン引きした顔。ポーラとシェレンさん親子は顔を見合わせて、同時に小首を傾げた。


「えっと。シェレンさんは、どうやってポーラを妊娠したんですか?」


 そう訊ねると、いよいよ3人ともポカンとした顔をした。だがすぐに、シェレンさんがポンと手を打った。


「そういうことね。異世界では、子供を宿すための聖樹様せいじゅさまがないんだわ」


「ん? ああ、そういうことか。しかし、それでは異世界ではどうやって人間は増えるんだ?」


 え? え? 逆に俺たちの世界の繁殖について疑問を持たれてる?


「アキラ。ついて来て」


 シェレンさんに手を取られ(ドキドキした)、俺は再び家の外へ連れ出されてしまう。ワケも分からないまま、


「ほら、あそこ!」


 彼女が指さす先、そこには……見たこともないレベルの大樹があった。

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