8:比例復活はありますか?

 それから俺は、自分が異世界からやって来たこと。あの広間に出たのは意図したことでもないし、悪意なんて皆無であること。ポーラの薬は錬金釜を用いて調合したこと等を、丁寧に説明した。


 途中、胡乱げに目を細めたり、アゴに手を当てて黙考したり。金髪少女は忙しかったが、それでも荒唐無稽の一言で切って捨てたりはせず、最後までこちらの言い分を聞いてくれた。


「……異世界人か。にわかには信じられないが」


 護衛の役割で同伴したらしき女騎士も、うーむと唸る。そして俺の胸の辺りに視線を落とし、


「確かに、こんなに胸の薄い人間は見たことがないし……異世界から来たと言われれば納得してしまいそうではあるな」


 そう言う彼女の方は、トップスがパツパツになるほどの爆乳だ。ポーラより大きいかも知れない。

 ちなみに金髪お嬢様の方も、負けず劣らずの大きさだったりする。流石は爆乳ハーレム島。


「錬金術……書物で読んだ覚えがありますわ。でもまさか、こんな場所にその奇跡を起こす道具があるなんて」


「まだ、このアキラなる者がデタラメを言ってる可能性もあるが」


 護衛役は流石に慎重だな。


「デタラメなんかじゃないんだよ! デタラメなのはエレザのお尻の大きさなんだよ!」


「なんだと!?」


 言われてみれば確かに護衛さん、胸だけじゃなく、お尻もバインバインだが……今はそこは置いておこう。


「なんなら、もう1回、ケアケアの葉液とスライムの肉片を掛け合わせて、あの軟膏を作ってみせようか?」


 実は、もう1回同じことが出来る保証はどこにもないんだけど、こう言うしかない状況だ。

 金髪お嬢様は再び黙考。俺の顔と、ゲーミング錬金釜(彼女たちにも虹色の水は見えないらしいが)、出来上がったジェル軟膏の塊を、順々に見て……


「……分かりましたわ。薬の現物が存在し、ポーラの背中も快癒している事実は揺るぎません」


「じゃ、じゃあ!」


「た、だ、し!」


 お嬢様が喜びかけた俺たちに釘を刺す。


「ひとまずは仮釈放ですわ」


 う。だがまあ、客観的に見れば良い判断だな。様子見で出してみて、俺の人格と、錬金術が如何ほどのものか見定める腹積もりだろう。

 けど、それでも。牢屋に閉じ込められてるよりは万倍マシというもので。


「ありがとう」


「……いえ」


「変なマネしたら、悪いけど斬るぞ」


 ひえ。

 ……まあとにかく、自由は勝ち取れた。


「改めまして。ワタクシはこの島の長をしているロスマリーですわ」


 手を差し出してくるので、こちらからも。握手をすると、意外にも手の皮は厚かった。てっきり箸より重たい物は持たないタイプのお嬢様かと思ってたが。


「私はエレザ。主に狩猟を担当しているが、今回のように有事となれば、治安維持にも努める」


 握手する。こちらも剣ダコだろうか、硬めの掌だ。学生のポーラが一番柔らかい手をしていたな。


「俺は来女木暁。アキラで良いよ」


 誰もファミリーネームを名乗らないところを見ると、この島ではそういう制度がないのかも知れない。俺も今後は下の名前だけ名乗ることにしようか。


「その……悪かったな。害意を持って集会に侵入してきたワケじゃなかったんだな。なのに押さえ付けてしまって」


「ああ、いや」


 それがエレザの仕事なのだし、突然何もないところから人が現れたら警戒するのは当たり前だ。それより少し気になる単語が。


「集会っていうのは?」


「定例の、島民全員を集めて行う会ですわ。その途中にアナタが現れたんですの」


 ああ、なるほど。それであの広間っぽい場所に人だかりが出来てたのか。そしてあの場で尋問しなかったのも、紛糾を避けるためだったのかも知れない。

 俺にとっても結果としては良かった。ああも大勢で取り囲まれた状態で尋問されてたら、(ポーラという援軍も居ない状態で)上手く切り抜けられた自信はないし。


「さて。それでアナタの今後ですが……」


「あ、うん」


 仮釈放を、どうすれば本釈放にしてもらえるのか。


「そうですわね。取り敢えずは島で暮らしながら、少しでも怪しい動きがあれば討伐」


 討伐て。


「何もなければ……2週間後に投票をいたしますわ。そこで島民の過半数の賛成があれば、晴れて島の一員として迎え入れましょう」


「お、おお」


 市民権獲得だ。日本でノホホンと暮らしてた時は全く意識したこともなかったが……「住んで良い」というお墨付きって、こんなに得難いものなんだな。

 ただ、


「2週間で半分って……条件がキツすぎるんだよ」


 やっぱり無理難題寄りらしかった。


「いいえ。それくらいはクリアしていただけませんと。ただでさえ、余所者ですのに」


 あ。村社会特有のヤツじゃん。ポーラが閉鎖的とは無縁な感じだったから油断してたけど……孤島の住民なら、これくらいが普通だろうな。


「島の住人ってどれくらい居るの?」


 いつの間にか俺の傍に立っている(多分、見張りも兼ねてるんだろう)エレザに小声で訊ねる。


「ざっと100くらいだろうか」


 思ったより小さい集落だな。そりゃ確かに、突然降ってきた(彼女たち基準では)姿形の変わった人間を受け入れろというのは、それなりに軋轢を生みそうだ。

 僅か2週間で半数に「住んで良いよ」と思わせるくらいのアウトプットは必要かも知らんな。


「頑固な老人も多い。可哀想だが厳しいだろうな」


 エレザ、意外と親切に教えてくれる。悪いヤツではなさそうだ。


「とにかく、それで決定ですわ。過半数の賛意が得られなければ……最悪は島外追放とさせていただきますわ」


「そ、そんな! この島の外なんて海しかないんだよ! 死んじゃうんだよ!」


 ま、マジか。そこまで酷いのか。

 だが、ポーラの抗議も虚しく、


「……健闘を祈りますわ」


 そう言い残し、ロスマリーは牢を出て行ってしまった。

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