7:大きすぎると勝手に当たるね

 あの後。

 改めて完治を確認したポーラは、これ以上この牢屋にいる必要はなくなったので、次に食事を持ってくる係の人間に、事情を伝えて出してもらうよう掛け合うとのこと。その時に俺の身柄解放も訴えてくれるそうだ。


「ボクの背中を見せれば一発なんだよ」


 墨入れてる極道みたいなセリフで、なんかカッコイイ。


 しかし、ついつい油断するとポーラのお胸を見てしまうな。さっきまで、あの中に顔を埋めてたんだよなあ。気持ち良かったなあ。頼んだらまたしてくれないかなあ。ポーラ、たんじゅ……純粋な子だから、ワンチャンいけそうだよなあ。


「アキラ?」


 いつの間にか、ポーラの顔が間近にあった。黙り込んでトリップしていた俺を心配して覗き込んできたらしい。

 胸にばかり目が行きがちだけど、やっぱり顔も凄く整ってるよな。


 髪もサラサラでキレイで……ん? よく見ればこの子、純粋な茶髪じゃないのか。さっきは患部ばかり見てたから気付かなかったけど、地味に毛先だけ緑が入ってる。裾カラーってヤツか。


(文明レベルが未だ判然としないけど……染髪技術とかはなさそうだよね)


『エロゲのヒロインの髪色については考えたら負けだよ』


 ええ……? そういうモンなの? 


「もう! さっきから変なんだよ。ボクを無視しないで欲しいんだよ」


 軽く頬を膨らませて抗議してくるポーラ。そんな幼い仕草に、鼻から小さく息が漏れる。


「ゴメン、ゴメン」

 

 思わず、そっと頭を撫でてしまう。不思議な感覚だ。正直、エロさも感じてる(つまり女を感じてる)相手なのに、同時に子供に対するような気持ちも同居してる。


「頭……」


「あ、ゴメン」


「ち、違うんだよ。イヤじゃなくて……むしろ」


 ポーラはそっと頭を傾けてくる。むしろもっと撫でてくれ、ということだろうか。

 可愛い。妹みたい、というには関わった時間が短すぎるが……これからこの島で暮らすうち、そういう関係になれるのかも。

 ただ、それと同時に下半身がまだ鎮まってないという由々しき問題もあったり。おっぱいが大きすぎて、ずっと俺のお腹の辺りに当たってるからね。仕方ない。


「お母さん以外に撫でられたのなんて……子供の頃以来なんだよ」


 だいぶ安らいでくれてるみたいで、俺の体にもたれかかってくる。あー。柔らかすぎる。下半身の興奮状態を持続させすぎたら体に良くないって聞いたことあるけど……無理だな、これ。ていうか、メチャクチャに揉みしだきたい衝動を抑えるので精一杯だ。男の本能ってのをナメてたわ。今まで女の子とこれほど密着する機会が無かったから、知らなかっただけで。


 シモの不祥事で地位や名誉を失う成功者って、今までバカなんだと思ってたけど、これは……うん、抗いがたいのがよく分かる。てかそろそろ本格的にヤバい。

 ポーラからそっと離れた。これ以上続けてたら、この無垢な子を傷つけるような行動を取ってしまいかねない。


「あ……終わりなんだよ?」


 そんな寂しそうな顔をしないでくれ。


「ふう」


 胸の奥のマグマみたいな熱が少しずつ引いていく。

 と、そこで。


『ちょうど良いタイミングだったね』


(え? 何が?)


 てか、女神さんに出歯亀されてんだよな。暴走せんで本当に良かったわ。


『洞窟に誰か来たみたいだ。恐らく事情を聞きに来ると言ってた島の長だろうね』


 ああ、確か……ロスマリーだったか。

 俺にも足音が聞こえてきた。


「誰か来たんだよ」


 ポーラも気付いたみたいだ。

 やがて、扉を開くキイという音がして、足音は更に近付いてくる。

 姿が見えた。


 金髪の縦ロールが特徴的な美少女。勝ち気な瞳と、薄い唇が印象的だ。赤のワンピースを着ている。モブの人たちが白シャツばかりだったことを鑑みれば、なるほど特権階級って感じ。

 

「え!? 先程の不審者! な、縄が解かれてますの!?」


 俺が自由なのを見て、美少女が慌てる。

 その後ろから、スッと音もなく飛び出したもう1人。ロングの赤い髪をポニーテールにした美人だ。切れ長の瞳は怜悧な印象を受ける。こちらは白いシャツ(胸元がガバッと開いてる)にスカートを穿いていた。そしてその両腕に肩当て鎧、足元にレッグアーマーを装着している。

 女騎士だ。なんて衝撃を受けている間にも、赤髪の少女は左腰に携えた鞘から抜刀した。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」


 命の危機を感じて、俺は数歩下がる。さっきまでの桃色思考が一瞬で弾け飛んでいた。


「待って! 待って欲しいんだよ!」


 ポーラも制止をかけてくれる。


「縄はボクが解いたんだよ!」


「なるほど。おバカなポーラを口八丁で丸め込んだんですわね」


 おバカって言っちゃったな。酷い。

 ……否定はしにくいんだけど。


「待ってってば! ロスマリー! エレザも!」


 ポーラが俺の前に飛び出し、そしてそのままクルリと彼女らに背を向けた。2人とも怪訝な顔をするが、ポーラの背中に炎症がないのを見て取ったのか、


「ポーラ! 貴女……」


「治ったのか?」


 驚愕に、口が半開きになっている。


「このアキラが治してくれたんだよ!」


 そう高らかに宣言しながら、俺の腕に自分のそれを絡めてくる。当然お胸がバルンバルン当たるが、今は意志の力で無視する。


「し、信じられないかも知れないけど……俺は薬を調合できるんだ」


 厳密には錬金術なんだけど、今はとにかく。自分が有用であること。ポーラ(島の仲間)を助けたこと。この手柄をアピールしなくては。日本人特有の謙虚さとか発揮してたら、首と胴が離れてしまいかねん。


「そんな……ワタクシでも治せなかった病気を……」


 な、何やらショックを受けてる金髪縦ロールもといロスマリーさん。


「…………」


「…………」


 長い沈黙。何度か固唾を飲んで待つ。

 そして、ようやく。おもむろに開いたロスマリーの口から、沙汰が言い渡される。


「分かりましたわ。縄抜けの件は不問とし、改めて事情を聞きましょう」


 最悪の事態は避けられたようだった。

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