10:簡単に妊娠しちゃうみたい
金色の葉が生い茂る、遠目にも威容が分かる巨大な樹。あれほどの大きさになるには、樹齢3桁じゃきかないかも知れない。
「す、凄い」
「あれが聖樹様よ。みんなあの樹から産まれるの」
何かの比喩なんだろうか。それとも、人間そっくりだが、この島の人たちはドライアドとかそういう種族だったりするんだろうか。スライムなんてモンスターも居たくらいだし……
いや、それかもしかしたら。エロゲだし、あの樹から伸びた触手が女性にピーして、ピーで妊娠させるとか。
「……」
思わず、隣のシェレンさんの下腹部に視線をやってしまう。そ、そんなエッチなイベントを経験してたとしたら……
「あそこで一晩眠って、朝になると子供を授かっているのよ」
「ね、眠ってる間に……樹からツタのような物が?」
「ツタ? 聖樹様にツタはないわよ。遠くから観察してるとね、母胎にそっと光が宿るの。ポウッて」
「……そ、それだけですか?」
「ええ。不思議でしょう? それだけで、もう赤ちゃんがお腹に居るのよ」
………………俺の心は汚れすぎてるな。
エロ同人みたいなことなんて何一つ無かったわ。
しかし、そういうことなら。シェレンさんにパートナーはおらず、ポーラに父も居ないということになる。
さっき俺が頭を撫でると嬉しそうにしていたポーラの姿を思い出す。片親だと愛情が不足するとか言うつもりは決してないけど……どこか本能的に父親を求めてる、とか。そういうこともあるのかも知れない。
「あ、そういえば。ポーラが出てきませんね」
真っ先に出てきて、色々教えてくれそうなモンなのに。彼女らしくない、と言うほど人となりを知ってるワケでもないが。
「…………そう、ね」
ん? なんか一瞬、シェレンさんの表情が翳ったような。
「戻りましょう。アキラにお家を案内しないとね」
優しく笑うシェレンさんは元通りで。うーん、気のせいだったか?
家の中に戻り、台所と寝室の案内をされる。トイレは家の外、風呂場はナシ。近くに湖があるらしく、みんなそこで体や頭を洗ったりするそうだ。
メッチャ原始的だなあ。以前、途上国の田舎に滞在したことがあるけど、そん時のことを思い出すよ。
「フライパンとかはあるんですね」
「ええ。でも鉄は凄く貴重だから、大切に使わないとなのよ?」
お姉さん風な言い方が可愛い。だから美人で可愛いのは反則だって。
「火はどうやって?」
「これだ。
エレザが教えてくれる。その手には鉄の破片みたいな火打金と、硬い鉱石が素材の火打石を持っている。これまた原始的だな。
「……キャンプ好きな人とかは使ってるかも。けど大半はガスっていう物を使ってるよ」
「ガス?」
「まあ、とにかく……ちょっと俺の世界では珍しい火の付け方だね、これは」
「ふうむ」
なるべくバカにしたニュアンスが出ないように気を遣う。実際、そんなつもりはなくても数百年先の技術と比べてしまうと……どうしても不便だと感じる気持ちまでは抑えられないだろうし。今後も気を付けよう。
一通りの案内が終わったところで、
「さて。そろそろ私は帰る」
エレザがそんなことを言い出した。
「え? そうなの? 俺の監視役を命じられてるんじゃないの?」
「シェレン女史に引き継いだからな。そのことも含めて報告もせねばならんし」
色々と仕事があるんだな。普段は狩猟担当とも言ってたし。
「優しい人だ。悲しませるような事はするなよ?」
「あ、ああ。もちろん」
こっちとしても恩人だ。シェレンさんが拾ってくれなかったら、タイトルが『異世界ホームレス』とかになってただろうからな。
「明日の朝、また来る」
それだけ言い残し、エレザは帰って行った。
「さて、と。色々と聞きたいことはあるのだけど……まずはポーラ。改めて背中を見せてちょうだい?」
あの聖樹様とやらの話になって以降、微妙に大人しかったポーラ。水を向けられて、椅子から立ち上がった。
察して、俺は後ろを向く。すぐに衣擦れの音がした。
「まあ……本当に治ってるのね。凄いわ」
「錬金術のおかげなんだよ」
あのゲーミング錬金釜。一応持ってきて、家の玄関先に置いてある。ジェル軟膏も一緒だ。
「本当に良かったわ。治らないんじゃないかって……そんな悲観的なことも考えてしまってたもの」
2人とも気丈だったけど。3日も隔離されてたんだもんな。
「う……う……」
「ホントに……良かった……良かったわ」
少し涙ぐむ声。外すべきかな。
俺は玄関のドアにそっと手を伸ばし、
「だ、大丈夫よ。ありがとう」
シェレンさんに呼び止められた。振り返る。ポーラも服を着直してるみたいで、ラッキースケベはなかった。ホッとしたような残念なような。いや、今はそういう空気じゃないから。
「もうすぐ夕飯も作るから、出て行かずに待っていてちょうだい」
ああ、ご飯もお世話になってしまうのか。反射的に遠慮しそうになるが……そうすれば飯抜きだ。友達のお宅で誘われたのとはワケが違う。遠慮してお暇、外食して帰るとか、そんな選択肢なんてないんだ。甘えきるしかないという。子供にでも戻った気分だ。
「ああ、そうそう。寝床の用意もしないとよね。ポーラ、お客さん用のハンモックを架けておいて」
「はーい」
お。ハンモックか。中々に心躍る単語だ。
「俺も手伝うよ」
ていうか、俺の寝床を作ってくれるんだから、当たり前だ。
「うん。それじゃあ2人でやるんだよ。こっちこっち」
手を引かれ、家の奥の部屋へと連れ込まれた。白い布が掛けられた、木のベッドが2つ。母娘の物だろう。いやはや。本当に父親(夫)というのが存在しないんだな。
その部屋の更に奥に、客用ハンモックが畳んで置かれていた。アレをお借りするようだ。
「さあ、やるんだよ!」
嬉しそうに宣言するポーラと一緒に、寝床作りを始めるのだった。
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