3:熱烈歓迎! 牢獄行き

 芋虫のようにされて、女性3人に持ち上げられる。頭の下に1人の手が入り、背中、足もそれぞれ1人ずつ。


「お、重い~~」


「胸もペタンコだし、変な体だな」


「でも……この人に……触ってると……」


 相手の顔を確認したいんだけど、下から見上げても山みたいな乳房しか見えない。しかしマジで大きい。じゃなくて……


「お、俺をどうする気……ですか?」


 おずおずと聞いてみる。


「今は島民会の最中ですので……取り敢えず、牢に入っていてもらいますわ。事情は後ほど聞きますの」


 答えは、3人とは少し離れた場所から聞こえてきた。多分だけど、最後に縄を持ってきて、俺の足を縛った4人目の人だ。


『良かったね。すぐに殺されたりとかはなさそうだ』


(このゲーム、そんな殺伐としてんの?)


『キミというイレギュラーがシナリオにどう影響してるかがハッキリしないから、100%大丈夫とは言えないけど……元がいわゆる萌えゲー寄りのヤツみたいだから、そんな酷い事にはならないとは思うけどね。多分』


 まあ、こちらの言い分も聞いてくれるらしいしな。思えば捕らえられる時でさえ、暴力もなかった。


「牢……今はあの子が……入ってる」


「ええ。けれど場所がないんですもの。それにこの者の縄を解かなければ、マズイことにはなりませんわ」


「ロスマリーがそう決めたんなら……従うしかないな」


 なんか俺の牢屋行きに思う所があるのか。話の流れからして、先客が居るっぽいけど。むしろ罪人の居る檻に拘束されたまま入れられる俺の方がマズいのでは?

 抗議の声を上げようとしたところで、


「じゃあ行くよ~~。口を閉じてないと舌噛んじゃうからね~~」


 のほほんとした女性(捕縛時に左腕を戒めていた人だと思う)の言葉に慌てて口をつぐんだ。その次の瞬間、ギュンと慣性が体にかかる。走り出したようだ。俺の頭を支えていた人も、いつの間にか反転して後ろ手で持っているらしい。


 うわあ。怖い怖い怖い。コケたら完全に後頭部打つだろ、これ。てか気持ち悪い。酔う。

 止まってくれと言いたいけど、女性の言葉通り舌噛みそうで無理。


『前方……洞窟が見えてきた』


 女神が実況してくれる。洞窟。そこを牢屋として使ってるんだろうか。


「着いたぞ」


 足を持っている女性が平坦な声で告げた。体を揺らされすぎて、返事をする気力が湧かない。口を開けたら嘔吐してしまいそうだ。

 そんな俺には構わず、女性たちは徒歩で更に進んでいく。暗くなった。洞窟内に入ったんだろう。少し湿気も感じる。


「下ろすよ~~」


 のほほん女性の言葉を合図に、体の高度が下がっていく。女性たちがしゃがんだんだろう。そして床に置かれる俺の体。


 ――キイ


 扉を開けたような音。牢屋のものだろうか。そして再び俺の体を持ち上げて、進んで行き……扉を潜ったと思しきところで下ろされる。


「毎日……食事は持ってくる……から」


 3人が遠ざかっていく気配。


「ちょ、ちょっと! せめて縄を!」


 トイレ行きたくなったらどうすんだよ。ていうか、本当に置き去りにされるのか。一応、俺って主人公の立場じゃないの。死んじゃいそうだけど? マジで。


「じゃあね~~」


「本当、洒落にならんから! ちょっと! 待って! 置いてかないで!」


 必死の呼びかけも虚しく、足音は遠ざかっていき……やがて聞こえなくなった。


「…………これ。ハズレ転生ってヤツじゃないの?」


『いやいや。さっきまで全身おっぱいに包まれて嬉しそうだったじゃん』


 うぐ。それ言われると弱いけどさ。でもアレがもしかすると最後の幸運だった可能性も。


「ていうか、目まぐるしすぎて、まだ諸々の実感の方が追いついてないんだよな」


 未だに、これは死後に見ている夢ですと言われたら「そうなんだ」って納得してしまいそうだし。

 ただまあ、今まさに背中に感じる洞床の冷たさと硬さが、「これは夢じゃないよ」とヒシヒシ伝えてきてはいるが。

 と、そこで。


「だ、誰か居るの?」


 洞窟の奥から声がかかった。若い女性のそれだ。

 先客、つまり先に牢屋に捕らえられている人。犯罪者ということになるが……そんな相手を前に、俺は両手両足を戒められた状態で。にわかに緊張が走り、鼓動が速くなる。

 コツンコツンと床を踏む音。あちらも迷いながらというか、警戒気味に進んでいるらしく、決して速いペースではない。


(ど、どんな相手か見れる?)


『うーん。少女、のように見えるけど』


 少し安心する。少女の凶悪犯罪者も、もちろんゼロではないけど。まあ比率としては圧倒的に低いだろう。


 やがて、足音がすぐ傍まで来た。床が明るくなる。少女は松明か何かを持っているみたいだ。


「あ、アナタは?」


 訊ねる声は震えていた。やはりヤバい感じの犯罪者ではなさそう。


「俺は来女木暁くるめぎあきら。信じられないかも知れないけど、異世界から来たんだ」


 侵入者という単語は使いたくなかったけど、島外の者と名乗れば必然的にそう解釈されそうで。考えた末に結局、正直に告白することにした。

 まあ流石にすんなり信じてくれるとは思ってないけど……


「い、異世界! 凄いんだよ!」


 信じた!?


「おっぱいも無いし、なんか体も大きいし、異世界の人って言われたら納得なんだよ!」


 勝手に納得までしちゃったよ。大丈夫なのか、この子。

 無垢に付けこむようでアレだけど、


「あの……出来たらこの縄、解いてくれないかな」

 

 もう1つ要求してみる。罪悪感はあるけど、俺の方も余裕がなくて。天地神明に誓って、悪い事はしないから。お願いします。


「分かったんだよ!」


 祈るまでもなかった。本当に疑うということを知らない子だ。

 彼女はすぐに後ろ手と足の縄を解いてくれた。ああ、助かった。

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