2:おっぱい固めで無事完敗

「うおおお!?」


 体が引っくり返ったかのような感覚に、流石に瞼を開いた。

 その目に飛び込んできたのは……人だかり。パッと見、全員が女性のようだ。白い簡素なTシャツを着ている人がほとんどだが、その胸元はボールでも入れてるのかって程に生地が押し上げられている。


「え……?」


 浜辺スタートのハズじゃ。


『アキラ。どうやらキミが主人公に成り代わったせいで、微妙にシナリオにズレが生じてるみたいだ』


「女神さん?」


 姿は見えないが、声だけが聞こえる。脳内に直接……?


『心の中で念じてくれれば、それで通じるよ。声は出さない方が良い。警戒されてる』


 言われて、周囲を見回す。女性たちが数歩下がった。よく見れば全員何故か前髪が目元にかかっていて、表情がよく分からないが……態度からして警戒されてるのは間違いないみたいだ。

 この状態で(彼女らにも女神は見えていないだろうし)独り言を乱発するのは確かに得策とは言えなそう。


「えっと、俺は怪しい者ではなくて……」


 立ち上がって、彼女たちに一歩近づく。すぐさま一歩下がられる。


『この人たちはモブみたいだね。そのうちネームドのヒロインが出てくると思うよ』


 前髪が隠れてるのはモブだからか。しかしネームドって言われても。


「侵入者! 侵入者よー!」


 モブの誰かが大声で叫んだ。え? 侵入者って、やっぱ俺のことだよね?


(マズくないか? 女神さん)


『面白そうではあるよね』


 エンタメ基準やめろ。

 ていうか、マジで逃げた方が良いんじゃないか。先程とは逆に、俺はジリジリと後退していく。素早く視線を巡らせて改めて周囲を確認すると……今いる一帯は広場のようになっていて、少し行けば木立が広がっているようだ。あそこに逃げ込むか。


『得策とも思えないけどね。人の集落から離れて、現代日本人が独力で生きていけるワケないし』


 う。確かにそうだ。留まって、周囲を説得するか。いやでも、状況からして難しそうだが。


「侵入者が逃げるよー! 捕まえてー!!」


 いよいよヤベえ! 反射的に女性たちに背を向けて駆ける。と、その瞬間。俺は地面に引き倒されていた。そしてすぐさま何かが体の上に乗っかってくる。


「ぐえっ」


 日常生活で転倒すること自体が滅多にない日本人にとって、倒されて押さえつけられるなんて超レアイベントだ。ていうか、俺自身、高校の頃に選択で取った柔道の授業以来だ。

 頭を起こして腹の上に乗っている人物を確認する……つもりが。視界を覆う巨大な2つの膨らみ。それがそのまま迫って来るせいで、相手の顔を認識できない。そして避ける暇もなく、


 ――ふにょん


 信じられないほど柔らかい。あったかい。

 こんな状況なのに、おっぱいに顔を包まれていると瞬時に理解できるのは男のサガゆえか。てか気持ち良すぎる。例えるなら、あったかいビーズクッション。でもシャツ越しに肌感があって、やっぱりもっと良い物だ。

 今の状態は、つまり爆乳の女の子に顔面を乳房で、腹を尻で押さえ込まれている形だ。全身が柔らかさを感じ取って、力が抜けてしまう。


「でかしたぞ! アティ!」


 この声は押さえつけている女性とは別方向から。続けざま(恐らく声の主に)腕を取られる。どうやら胸の谷間に挟まれたようで、こちらも肘から二の腕にかけて幸せになる。


「フィニスも……そっち」


 上からの声。俺の顔におっぱいを当てて押さえている少女だろう。その言葉の後、


「わ、分かったよ~~」


 やや間延びした声が返って来て、無事だった左腕も戒められる。やはりフヨンフヨンの乳房の中に埋まったみたいだ。


 ヤベえ。全身が気持ち良い。腹に尻たぶの柔らかさ。顔にドンと乗った爆乳おっぱい、両腕も天国。力が入らない。


『言うてる場合じゃないけどね』


 そうなんだよ。このまま捕まえられたら、どうなるか分かったモンじゃない。

 誘惑を振り払い、体の各部に力を入れ、少しずつ戒めを解きにいく。まずは一番弱そうだった左腕の女性。腕を持ち上げていくと、


「わわわ~~」


 焦った声がするが、しかし逆に強くしがみつかれ、今度は肘がモロにめり込んでしまう。ていうか、この感触……小さなポッチのような。

 薄々気付いてたけど、この人たちノーブラだ! 

 本能が勝手に体を動かして、肘でそのポッチを押してしまう。


「ひゃん!」


 甘い声に、また一段と力が抜ける。これはマズい。


「大人しくして~~」


 更に強まる拘束。ふかふかの肉布団に左腕全部を包まれて……いやいや。気を確かに持て。生命の危機かも知れないんだぞ。


(女神さん! なんか打開策はないの!?)


『ちょっと待って。資料集を当たってみるよ』


 女神の全知全能パワーとかじゃなくて、エロゲの資料集頼みって心許なさすぎるけど。

 とにかく早くしてくれ!


『あ!』


(なんか見つかった!?)


『キミを上から押さえ込んでる女性、右の乳房の真ん中あたりにホクロが2つあるよ』


(今いらねえんだよ、その情報! てか資料集じゃなくて、原画集見てるだろ!)


 ダメだ、この女神。アテにならねえ。

 と、その時。


「縄を持ってきましたわ!」


 更に新手の声。マズイ。縄なんかで縛られたら、本格的に捕まってしまう。


「縄、こっち~~」

「大人しく……して」

「3人に勝てるワケないだろ!」

 

 やはりヤバい。

 新手の女性に足を縛られてしまった。更に身動きが取れなくなるが……諦めたらダメだ。


「こ、こんのおおお!」


 腹筋だけで上にいる女性を押しのけようとする。必死の抵抗に少しだけ顔から乳房が離れた。ようやく普通に息が出来た。だが途端に、甘い乳臭さを鼻が嗅ぎ取ってしまう。そして乱れたタンクトップから覗く乳房の中頃、黒点が2つ。女神の情報通り、ホクロだ。あまりのエロさに、思わず目で追ってしまって……それがもう致命的だった。


「確保!!」


 腕を捻り上げられ、体を横向きにされたかと思うと、すぐに背中の後ろで手首同士を縛られる。


「し、しまった!!」


 捕まれば何をされるかも分からない状況なのに……

 

 おっぱいには勝てなかったよ……

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