爆乳ハーレム島の錬金術師
生姜寧也
1:通常版ならワンチャン生きてた
どこまでも真っ白な空間。果ては見えず、天と地の境界も分からない。巨大なサナトリウムのような、あるいは絵の具の白を世界中にバラ撒いたような。およそ地球上にある場所とは思えないような空間で、俺は今、超存在と対峙していた。
「もう大体分かってると思うけど……」
女神と名乗った、その女性。とても美しい容姿をしているが、完成されすぎていて、AI描画みたいに人間味がなかった。
「
「あー。そうなんですね。やっぱり」
実感は湧かないけど、なんとなく記憶はある。車の急ブレーキの音、ドンと何かの衝突音、そして顔めがけて飛んでくる四角い物体。強烈な痛みを一瞬だけ感じたような記憶も僅かに残っている。
「俺は……あの四角い何かが顔に当たって死んだんですか?」
「そうだよ。キミを殺したのは……」
そう言いながら、女神がその美しい指先を虚空に向ける。そこへパッと四角い箱が現れた。彼女は辞書でも持つように、親指と人差し指の間でそれを掴んだ。
「それは……?」
「エロゲだよ」
「エロゲ……」
およそ女神から聞くことになるとは思いもしなかった単語。てか、鬼のように分厚い。
「京極○彦先生みたいになってますけど……」
「初回特典の資料集、ラフ原画集などもついた豪華版だからね」
エロゲに豪華版とかあるんだ。やらないから知らなかった。じゃあ通常版だったら助かった可能性もあったのか?
「キミが聞いたであろうブレーキ音と衝突音。その正体は、キミの斜め前を歩いていたエロゲオタクがトラックに轢かれた音だ。そしてその衝撃により、彼が持っていたエロゲが高速で飛んで行って、キミの顔面を直撃。絶命したというワケだよ」
死因:エロゲとか親に申し訳ないんだが。
「直接の死因は頭蓋骨陥没による脳挫傷なんだけど……その他の各部の損傷も激しかったみたいだよ」
まあそうだろうな。
「目、鼻、口」
顔は全滅か……
「……キンタマ」
「キンタマまで!?」
なんで頭部直撃なのに連鎖でキンタマまで弾けてんだ。『ぷよ○よ』か。
「いや、ぷよ○よDⅩかも知れない」
それはどっちでも良いんだよ。
……って。今、この女神、俺の思考を?
「うん、読めるよ。なにせ女神だからね。つまり私に敬語は通用しないよ」
「ええ……」
こんな謎空間で、体も無いまま意識体だけでプカプカ浮いてる状況だし、その存在を疑ってたワケじゃないけどさ。マジでバケモンじゃねえか。
「失礼な。バケモンではなく女神だってば」
「ああ。えっと」
「もう敬語は良いよ。私からすると基本的に日本人しか使わない変な風習だし、イチイチ変換するのも面倒くさいんだ」
彼女の能力で神様語か何かに翻訳してるんかな。
まあとにかく、そういうことなら。タメ語でいかせてもらうか。敬うべき神々しさみたいなのは今のところあまり見受けられないし。
「つくづく失礼なヤツだね」
「それでえっと。死んだのは分かったんだけど、俺はこの後は……」
「うん。特別に転生させてあげようかなって」
まあわざわざ、こんな間に連れて来たワケだし、薄々そうなんじゃないかとは思ってたけど。
「ちょっと可哀想だからさ。まあ月末の金曜日に高速エロゲが飛んでくるかも知れないという警戒を怠って歩いていたキミにも落ち度はあるけど」
あるワケねえだろ。高速エロゲってなんだ。
「あとまあ……面白かったのも加点だよね」
「は?」
「あんなファンタスティックな死に方……初めて見たし。今年一番で笑えたから」
「ええ……?」
「いやね。こんな仕事も何百年とやってると、人の死に慣れてしまってさ。転生の基準も、いつの間にかエンタメ性を重視するようになって」
罷免とか出来ねえのか、この女神。
「転生させるの……やっぱやめようかなあ」
「あー、待って待って。悪かったから。選挙とかあったら信任に丸つけるから」
実際、転生したいかと言われると微妙なところだけど。もう1回、この意識がハッキリしてる状態で死ぬのはすげえ怖い。
「ふん、分かればよろしい。で、キミの転生先だけど」
「うん。中世ヨーロッパ風で、剣と魔法があって……みたいな?」
「いや。キミを殺したそのエロゲ……『爆乳ハーレム島の錬金術師』の世界に転生する感じだね」
「マ、マジか……」
本能に忠実すぎるタイトルだけど……ハーレムかあ。どっちかって言うと、一対一恋愛とかの方が好きなんだけど。とか言ったら、贅沢すぎるよな。
「童貞のまま死んだ哀れな社畜に救済があるだけ、マシでしょ」
まあ、彼女の言う通りだよな。もっと言えば生き返らせてくれるだけで、御の字だ。当然のように童貞バレしてんのはモニョるけど。
「今からキミが転生するのは、タイトルの通り女性しか居ない孤島だ。主人公として転生するキミは完全無欠のハーレム状態だけど……どうしても気になるなら、1人だけ選んでパートナーにするってのも手かもね」
なるほど。そういうのもアリなのか。
まあ何にせよ。実際に行ってみて、島の人たちと交流してからの話だよね、そこら辺は。
「……じゃあ取り敢えず、お願いします」
「うん。説明書によると、孤島の浜辺に漂着して意識がない状態からスタートみたいだから、慌てないでね」
「分かった」
多分、そこからヒロインに介抱されて仲良くなってく、みたいな感じの導入だろうな。
「それじゃあ、目を閉じて」
言われた通り、目を閉じる。瞼越しに強い光を感じた。
と、次の瞬間、胃が持ち上がるような浮遊感を覚え……俺の体は宙に放り出された。
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